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氷をつくりはじめて、15年が経ちます。

舌には自信があります。
そう書くと、ものすごいグルメか嫌な奴か、その両方を兼ね備えた奴に見える。でも、そのどれでもない。旨いかまずいかしかわからないし、大抵のものはうまく感じる。だから「味覚にうるさい」わけではない。ただ、「舌に自信」があるだけ。そんな僕が、氷をつくりはじめて15年が経ちます。

最初のきっかけは、家で作った氷がまずかったからだと思う。製氷機付きの冷蔵庫には、水を入れるタンクがある。そのタンクに水を補充しておけば、自動的に2cm角くらいの氷がつくられていく。2〜3時間に一度、ゴロゴロと大きな音を立てて製氷皿を兼ね備えた氷保管庫に出来上がった氷が落ちていく。
すごく単純で、簡単な仕組みだ。小さい頃から氷が好きだった僕はこの冷蔵庫が家に来たときめちゃくちゃ喜んだ。もう、いままでのように自分で製氷皿に水を入れて、氷を作って、また水を入れてという作業を繰り返さなくていいんだ!コップいっぱいにあふれるくらい氷を入れても、まだまだこんなにたくさんある!てか、スコップみたいなもので氷をガバーッと救える日が来るなんて!

でも、ある日違和感を覚えた。こうして作った氷は、まずい。何ていうか、薬みたいな味がする。
いろいろ調べたら、どうやら製氷タンクを洗わないといけないらしい。洗ってみた。けど、まだまずい。
どうやら、水道水に含まれるカルキというのがいけないらしい。ミネラルウォーターで作ってみた。マシになった。でも、まだ美味しくはない。
それ以上の解決策が思いつかず、当時はしばらくミネラルウォーターをわざわざ買って、わざわざ製氷タンクに移して氷を作っていた。田舎にある僕のうちは、ミネラルウォーターを飲むなんていう習慣はなかったから、氷を作るためだけにミネラルウォーターを買っていた。でも、そんなアホらしいことをいつまでも許してもらえるわけなく、いつの間にかミネラルウォーターは買ってもらえなくなってしまった。仕方ないから、水道水で作られたまずい氷をつかいながら僕は飲み物を飲んでいた。あの氷が溶けだしたあとの残り汁みたいな飲み物は、今思い出してもまずさが蘇る。

ところで、家で氷を作ったことはありますか?
大抵、家で氷を作るとこんなふうに白っちゃけます。

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その理由は、空気と不純物です。
氷は凍るときに外側から凍っていきます。どんどん中心に寄っていくように凍っていくのですが、その際に水の中に溶け込んだ空気がどこにも逃げられなくなって、中心に集まるんだそうです。だから白くなる、と。
で、もう一つは水道水とかに含まれるカルキを始めとした不純物です。不純物は水よりも凍りにくいので、最後まで凍らずにどんどん中心に追いやられてしまう。その結果、不純物もまた中心に集まった状態で凍るというわけです。
大事なのは2つ目です。不純物。ぶっちゃけ、見た目はどうでもいいんですよ。白っちゃけてても、透明でも、氷が美味しければそれでいい。でもね、白い氷はまずいんです。まずい氷が白いとも言えます。僕がさっき、

あの氷が溶けだしたあとの残り汁みたいな飲み物は、今思い出してもまずさが蘇る。

と書いたのがここにつながるんですね。つまり、水道水で作られた氷は、飲み物の中にいても最初は悪さしないんです。溶け出すのは不純物のない水だから。だけど、時間が立つにつれて氷も小さくなる。氷が小さくなれば、不純物のところも溶け出す。しかもその不純物は通常の何倍にも凝縮されたものですよ。その頃には飲み物も少なくなってきているので、ゲロマズなエッセンスがビシャビシャ溶け出しているんですよ。そりゃーまずいわ。

じゃあどうすればいいか。とにかく、白い部分さえなければ美味しい氷は作れる。じゃあ、その白い部分をなくしちゃえばいいんですね。どうするか。答えはいつでもシンプルですよ。物理的に、氷から白い部分を削り取っちゃえばいいんです。
いやいや、あんなちっこい氷から白い部分削ったら、もはやそれは氷自体が残らないのでは?そうなんですよ。製氷機や製氷皿で作った氷は、もはや氷全体が白っちゃけてる。だから、削り取るのは難しい。
それなら、と思って僕は氷のサイズ自体を大きくしました。製氷皿を使わずにタッパーをつかい始めたんです。

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これに水を満杯までいれて、凍らせる。しかもね、ただ凍らせるだけじゃダメですよ。水って一気に凍らせようとすると白くなりがちなんですよ。空気や不純物が真ん中に追いやられるスピードよりも、凍るスピードのほうが早くなっちゃうので。それを対策するためには、タッパーの周りをプチプチで覆ったりラップでくるんだり、冷凍庫の床面に割り箸を引いて直接タッパーと床が触れないようにします。それによって、温度が急激に下がるのを防ぎ、じっくりゆっくり凍らせることができますから。これ、まだスタートですから。その後は氷になるまで1日くらい放置します。

やっと氷ができました。タッパーが膨らんで割れそうになっているのもご愛嬌です。その氷をタッパーから取り出して、アイスピックでガンガン削ります。ガンガンガンガン削っていくと、パカって割れます。真ん中あたりで綺麗に真っ二つに。そうすると、凝縮されたまずい部分が露出するので、今度はそこをガンガン削ります。

そうやって、やっと美味しい氷が出来上がります。わざわざこんなことをしなくても、スーパーで買ってくればいいじゃない?って何人に言われたことか。それでも、僕がこの手法を長年続けているのは3つの理由があるからです。

ひとつは、重いから。
マジで季節を問わず氷をつかいまくる僕にとって、2.2kgの氷を週1回買ってかえるのは煩わしさしかありません。夏場なんてすぐ溶けるし。そもそも買いに行くのもめんどいし。すでに3つの理由が詰め込まれているような気もしますけど「重い」に含まれている理由としてください。

ふたつめは、高いから。
氷って意外と高いんですよ。3−400円くらいしますよ。たった2kgで。それならタッパー2つ買ったほうがいいし、10回分買えばめっちゃいいアイスピック買えますよ。

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みっつめは、楽しいから。
確かに凍らせたり、削ったりするのって面倒くさいです。冬場なんか、氷ずっと触ってると死ぬほど手が冷たくなります。飲み物飲もうとして製氷ボックス開けたら、昨日までの自分が使い切っていて殺意沸くこともあります。それでも、やっぱり美味しい氷ができたときは嬉しいし、削るのも楽しいし、好きな大きさの氷にできるのも便利なんです。なにより、そうして自分で作った氷で、何かを飲むとちょっと楽しいんです。
美味しさなんか変わらないですよ。まずい氷が味がしない氷になっただけですから。だから、自分で作った氷で飲む飲み物は別格!なんていうウソは言わないですけど。それでもやっぱり、なんだかんだ氷が綺麗で美味しいと、普通に飲んでても気分は上がります。ほんのちょっとだけ。

氷だけの話で恐ろしいほど長文になってしまいましたが、それだけ氷は奥が深いということです。今回は書かなかった氷にまつわるエピソードも、実はまだまだあります。もし、ここまで読んでみて少しでも興味を持ったら、実際にご自分の家で氷を作ってみてください。特に都内の方なら、結構味の違いを感じられるはずです。うまいです、自作の氷。

そんなこんなで氷をつくりつづけて15年位になりました。それほどの製氷マスターの僕にもまだ叶えられていない夢があります。
それは、アイスモールドを手に入れることです。

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どんなものなのかは、こちらの動画を御覧ください。

マジでほしい。8年位ほしいなって思い続けています。
ただ、氷を丸くする、たったそれだけの用途に特化したニッチなモノに90,000円は出せません。
いつかは、アイスモールド。

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