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なんで人は、他人の退職話が気になるんだろう。

なんで、退職エントリが人気なんだろうと考えてみた。
退職エントリとは、主に有名企業や大手企業を退職した(する)人が、退職理由や、会社への不満や、自分のスキルや、申し訳程度に前の会社への愛を語る記事のことだ。
退職エントリのみ、まとめるサイトもあるくらいこのジャンルは確立していて、人気がある。
https://taisyoku.company/

なぜか。
1つは、知っているものの知らない側面が知れるからだ。簡単に言えば野次馬根性をくすぐられるから。例えば、同僚の良くも悪くも意外な一面を知ったり。例えば、芸能人が隠そうとしていたスキャンダルを知ったり。例えば、情熱大陸でプロフェッショナルの知られざる側面を知ったり。こうした「なんとなくわかっているつもりの人やモノの知らなかった部分」を知ることは、人にとってものすごく快感だ。だから、大手企業や有名企業の退職エントリほど、人気が出る。名前を知っていたり、どんな企業かイメージがついている分、実際に働いている人が語る実情は人の財布をこっそりのぞくような好奇心があおられるんだと思う。

2つ目は、書き手がその企業の人じゃない(あるいはもうすぐそうなる)からだ。たぶん、ヤフーの中の人が、ヤフーの素晴らしいところを語るより、ヤフーをやめるひとが、やめる前に同じことを語るほうが、読みたくなるだろう。グリコの人が、グリコの「こんなところが嫌だ」を語るより、グリコをやめて明治に行った人がグリコの嫌なところを語るほうがききたくなる。おそらく、退職という出来事によって、表面上は利害関係のなくなった人という、第三者性が担保される(と外からは見えるから)だと思う。これによって、その人が語っている言葉が客観性に満ち溢れた真実のように感じられる。その瞬間、全く根拠がないのにその人の記事はジャーナリズムにあふれているノンフィクションのように感じられてしまう。そうすると、退職エントリは取材も裏付け調査も必要としないのに、信ぴょう性がぐっと高まる。

3つ目はなんだろう。人の不幸は蜜の味みたいな感覚かな。それとも、普段の生活ではあまり聞けない話を覗く背徳感?あるいは、単純な知的好奇心だろうか。これらすべてが含まれていて、さらにいろいろな要素もあるとおもう。

こんな感じで退職エントリについて考えていくと、
こんな〇〇エントリ読んでみたいな、と思うようになる。メカニズムが一緒なものは、絶対に面白いと思う。例えば、「失恋エントリ」。特に、振る側のやつ。振る側の失恋エントリはものすごくデリケートな話題だからこそ、読んでみたい。

ところで僕自身、退職エントリが好きだ。はてなのトップページにそんなタイトルを見つけてみれば、結構な頻度で読んでしまうし。入社したことのない会社の裏側を知れるのはすごく楽しい。でも、ひとつだけ気になることがある。気になるというか、退職エントリというジャンル読み物の苦手なところかもしれない。

それは、ほとんどの執筆者が必ずと言っていいほどやる「かつての職場のフォロー」。さんざんやめるに至った理由や、会社のハテナを書き連ねた後に「とはいっても、僕は〇〇が大好きでした。最高の仲間に恵まれ、尊敬できる上司と出会えなんちゃらなんちゃら。」あるいは、退職エントリ冒頭の「こんなタイトルですが、嫌で会社を辞めたわけではありません。今回私が会社を辞めた理由はなんちゃらなんちゃら」みたいな、意味の分からないリスクヘッジ。

僕は、このリスクヘッジだけが苦手だ。
それは、僕が考える「会社を辞めること」とこのリスクヘッジが矛盾しているからかもしれない。
個人的に、最大限リスクヘッジをして言うけど、あくまでも個人的に。会社を辞めるということは、ポジティブにせよネガティブにせよ、その会社に残る理由がなくなったからだと思っている。スキルアップも、人間関係に悩んだでもいいけど、会社を離れるということはそういうことだ。それなのに、前の会社のフォローをわざわざ入れるって、ものすごい違和感しかない。

例えば、恋人と別れた人がいる。その人が別れた理由を長々書いていって、最後に「でも、あの人のことが嫌いになって別れたわけじゃないんだ★ものすごく尊敬しあえるパートナーだったし、素敵なひとだった!ただ、僕が私が目指すなんちゃらなんちゃら~」って書いてあるような違和感だ。


いや、別れたやん!!


最後にどれだけフォローしても、別れた事実は変わらないやん!と突っ込みを入れたくなる。そんなフォローは、別れた人のためではなくて、明らかに自分の保身のためでしかない、と感じてしまう。僕はひねくれものだから。だからね、毎回毎回だいすきな退職エントリを読みながら楽しいなー、なるほどなーって思いつつも、心のどこかで


いや、辞めたやん!!


と思いながら読んでいる。

それでも僕は、今日も人の退職話を熱心に読んでしまうのだけれど。


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