1990年代のアルファレコード後期の(黒)歴史:Alfa In The '90sシリーズ、あるいはSPINレーベルについて(4)
たぶん、今回で最終回になる。まさかこんなに回数を書かされるとは思わなかった。今回はスネークマンショー周辺について。(とおまけ)
SPINレーベルの二本柱はYMOとスネークマンショーだった。正確に言うとスネークマンショーというよりも桑原茂一か。この時期の桑原は日本音楽選曲家協会、CLUBKING、フリーペーパーdictionaryといったクラブミュージック界隈の活動をしており、東京のDJカルチャーの中心に近いところにいた。YMOやALFAの旧カタログを現代的にアップデートするにあたっては、桑原の力は重要だったのだろう。
SPINレーベルのスネークマンショー
Snakeman Show – やんこまりたい
1992年12月21日リリース。YMOの海外ベストなどがリリースされた時期に出たスネークマンショーの2枚組ベスト盤。
これが実に奇妙なのは、1枚目、2枚目ともにトラック1曲のみなのだ。1枚目はスネークマンショーで使われた音楽、2枚目はコント(表記上はドラマ)をノンストップでエディットしたという、まあ、in the 90'sの影響的な作り。ちなみに使われてる曲は
聞いた感じ、SEなどの追加もされている。というか、つなぎはほぼSEでつないでる感じ。リミキサーはクレジットによると、ALFAのエンジニアの田中通隆と小池光夫らしい。プロデューサーの桑原とパフォーマーとして、椎名謙介やコモエスタ八重樫の名前があるので、そのあたりがつなぎの音を足しているのだろう。エキゾ系のミックステープとして聞けなくもないというか、けっこう良い。ドラマのほうは、時代がなあ…という感じ。今、40年前のコントを聞いて笑うのは厳しいですよ。
Snakeman Show – 人格なし
1993年3月21日リリース。
英語タイトルの"With No Personality Formation"とサブタイトルの「日本人格解放列車編集」というのがよくわからんが、なんかすごい。
スネークマンショーのコントとBGMのノンストップミックス。という形式は、前作のやんこまりたいと近いのだが、今回はコントもBGMも全部混ぜていて、かなりトラック名とかわけわからない仕様になってる。
いちおうトラック名だけ引用しておくと、
In the '90s音源も使っているが、それ以外にも同じアルファのサーカスの曲や、Something Wonderfulのローラパーマーのテーマも使っていたりとごちゃごちゃ度がすごい。桑原プロデュースでミックスは佐々木潤。
Snakeman Show – With No Personality Formation 2
1993年6月21日リリース。
帯には「人格なし2」とあるが、ジャケタイトルは英題のほうになってる。
前作同様にギャグと音楽のごちゃまぜなのだが、音楽がさらにふり幅すごくなってて、YMOや細野ソロ、SANDII&THE SUNSETZ、立花ハジメに加え、前作にひきつづきサーカス、さらにはブレッド&バター、ハイファイセットといったニューミュージック勢、さらには竹中直人にシャインズ(「平成ノ歩キ方」!!)、SPIN音源としてのOn-UからAfrican Head Chargeも。そして、ハウス・オブ・ウィンザーの「盗聴ダイアナ」まで。
って「盗聴ダイアナ」って、何かといったら、このころ、ダイアナ妃が不倫してる電話音声が盗聴されて流出したという事件があったんですよ。その音源をサンプリングして、ハードコアテクノに乗っけたのが、この「盗聴ダイアナ(原題:Squidgy)」という曲。それをALFAの洋盤部門から出してたんですね。英国本国は携帯電話機の画像なのに、日本版はわざわざダイアナ妃と思われる人物画像まで使ったジャケ作って、今だったら、確実にタイトル含めて怒られるやつ。って、結局、説明の半分が「盗聴ダイアナ」になってるし。
いちおう全体のトラックリストも載せておくか。
SPINレーベルのBLUE FILM
その後、桑原茂一は別プロジェクトとしてBLUE FILMを立ち上げる。伊武雅刀や小林克也は参加しておらず、松尾貴史や山崎一などが参加。音楽にはSILENT POETSやSPIRITUAL VIBES、NATURAL ESSENCEなど。テーマが性なので、かなりネタはどぎつい。
Blue Film – マンドラゴラ
リリースは1993年11月21日。
帯にはマンドラゴラとあるが、アルバム上のタイトルはBlue Filmのみ。中身はドラマパートが中心で、まあ、艶笑コントというとそれなりになるが、単なる下ネタ。しかもかなり直接的。今聞くと全然面白くない。最後の曲、ピエールとカトリーヌが、なんかよくわからんがシングルカットまでされている。ピエールとカトリーヌは軽快なフレンチポップス風のメロディにのせて、ずっとエロイことをしてるのを言い合う曲。これ、なにか別のものをSEXの比喩にしてるようなのだが、まったくそれが何かわからず、ただSEXしてるだけに聞こえて当惑するしかない。YouTubeにも曲は上がってるし、歌ネットにも歌詞はあるので、調べてみたい人はどうぞ。
Blue Film – Blue Film2 ザ・スウィング
1993年12月21日リリース。(Discogsは94年となってるが、これは再発のほう)
間髪入れずリリースされた2作目。正直、面白く無さはさらに増す。スネークマンショーの桑原だから、いつかブレイクするだろうみたいな期待値だけで続けられたシリーズなのではとすら思う。シングルカットされたピエールとカトリーヌの別バージョンも収録。全然うれしくねえ。
ちなみに1枚目と2枚目は裏面に昔のブルーフィルム(昔々ポルノフィルムのことをブルーフィルムといったのです)のフィルムが敷き詰められているのだが、よく見るとおっぱいとか映ってる。どうでもいいな。
そして、ブルーフィルムはその後も3枚続くのだが、筆者は持っていない。コレクタープレミアム(というか、流通量が減ってきて価格が下がらなくなってるだけ)に比して、全然面白くないんだよ、これ。日本のクラブ史を知るための資料と割り切るにしても面白くない。しかも、3枚目と4枚目はDiscogsにすら登録されてないし。後で万が一買ったら追記するかも。
また、桑原は前回YMOの記事で紹介したカバの会名義で、KARAOKE FAMILY
という歌謡曲カバー集も出している。これもまた未入手。まあ、こっちはそのうちいい値段で見つけられたら買うかも。
おまけ SPINレーベルではないけどクラブっぽいALFA関連の何か
実はSPINはもう一つ、On-U 関連の作品の国内リリース元という側面があるんだが、そっちは正直UK DUBは好きじゃなく集めてないんで、触れなかった。まあ、On-Uは誰か調べてるだろうし。ちゃんとしたコレクターいっぱいいそうだし。
で、その代わり、おまけ的にSPINじゃないけど、この時期の日本国内のクラブシーンの接点を見られそうないくつかを最後に紹介しておく。
Casiopea – Casiopea - Recall (Cuts U.K. Remix)
1993年2月21日リリース。
カシオペアのALFA時代の楽曲をアシッドジャズ人脈でリミックスしたアルバム。参加アーティストがよく見るとすごい。Young Diciples, Moloko, Snowboy, A Certain Ratio, James Taylor Quartet, Incognitoなど、よくこのメンバー集めたなってくらい、ちゃんとアシッドジャズ人脈を取り揃えている。
カシオペアを当時の最新型のアシッドジャズ人脈で解釈しなおそうという方針は、YMOのHi-Tech No Crimeと対をなすといっていい。こっちはかなり埋もれてるけど、聞きごたえ含めて現在でも十分におススメに値する。
サエキケンゾウ Presents - ノヴェル--トランス
1994年10月19日リリース。
当時、NHK-BS2でやっていた「真夜中の王国~小説実験室」のサントラらしい。真夜中の王国は覚えているが、このコーナー(?)は全く記憶にない。サエキケンゾウがプロデュースして、Dub Master Xがトランステクノを提供するという形になっている。トランスというと現代だとパラパラみたいなのを想像するが、この時代はアシッドテクノみたいな音楽である。電気 グルーヴのVITAMINのインスト曲みたいな感じというとわかりやすいだろう。そして、戸川純の「隣の印度人」のリミックス(というか、再録)も収録されてる。ところで「隣の印度人」っていうフレーズは、戸川純のこの曲が最初なんだろうか。
しかし、番組という実態が忘れられた後のサントラって、なんともつかみがたいものになるな。
Haruomi Hosono – Mental Sports Mixes
1993年9月22日リリース。
これはALFAではなくEPICソニーだが、収録内容的にこの時期のALFA音源と近しいものがあるのでここで紹介しておこう。EPICソニー時代の細野の音源をもとに、当時のテクノアーティストによるリミックス集。Something Wonderful、The Orb、Bomb The Bass、Graham Masseyが参加。かなり良い。再発しても良いのでは。
Yukihiro Takahashi – Murdered By The Music Remix
1994年7月20日リリース。
これもALFAではなく、Consipioレコードだが同様にここで紹介しておこう。
高橋の「音楽殺人」のリミックスアルバム。国内人脈中心で参加はSomething Wonderful、砂原良徳、Toshiyuki Kishi、React 2 Rhythm、LFO。Something Wonderfulが4曲手掛けており、当時、YMO周辺での彼の評価の高さがうかがい知れる。まあ、日本のアンビエントの第一人者だったからね。砂原がStop In The Name Of LoveとSchool Of Thoughtの2曲を手掛けてるのが注目ポイントか。
アナログ盤もあるが、収録曲数は4曲少ない。
以上で、この足掛け4回シリーズも終わりとなる。この辺のCDはサブスクどころかYouTubeにも音源が無いものも多く、Discogsですら情報が足りなかったり、掲載が無いことも多い。世界でもコレクターとうんちく人の多いYMO周辺なのに。ということで、ここで簡単にまとめておいた。また入手した音源などがあったら適宜追加していこうと思う。