【レトロゲーム・レビュー&解説】#004 ハイドライド・スペシャル【みろく☆クロニクル】
■ハイドライド・スペシャル
・機種:ファミリーコンピュータ
・ジャンル:アクションロールプレイングゲーム
・発売日:1986年3月18日(諸説あり)
・販売:東芝EMI
・開発:T&Eソフト
■はじめに
このわし、浮御堂みろくがこよなく愛するゲームとその魅力を紹介する企画、それがみろく☆クロニクルじゃ。
まあ、あくまでわしの独断と偏見じゃが、皆が興味をもってプレイしたり語り合うきっかけになれば何よりじゃ。
元々はYoutubeチャンネルの動画向けの内容じゃが、記事化にあわせて若干補足・修正を加えつつ、だいたい10分程度で読み終えるようにまとめたものなので、ご承知おきいただきたい。
■概要
ゲームの歴史を振り返ったときに新しいジャンルを切り開いた作品がある。
斬新なアイデアと工夫から生まれたそのジャンルは、その後多くのクリエイターによって磨かれ成熟し、またそこから新しいジャンルがうまれていく。
今の時代の感覚だと、不親切な部分も目につくが、原点となる作品だけが持つ剥き出しのオリジナリティは、まさに「古典」というべき価値があると思うのじゃ。
今回紹介する「ハイドライド・スペシャル」はまさにそんなゲームじゃ。
本作は、1986年3月18日にT&Eソフトが開発、東芝EMIより発売されたファミリーコンピュータ用タイトルじゃ。
元々は、1984年12月13日にPC-8801向けにT&Eソフトより発売されたタイトルの移植で、魔法が使えるなど若干のオリジナル要素が加えられている。
アクションRPGというジャンルを生み出した作品で、多くのハードに移植されているとともに、続編なども制作されており、アクションRPGのパイオニアといっても過言ではない。
本作を手掛けたT&Eソフトは、パソコンゲームの老舗ソフトハウスで、日本のゲーム草創期から個性的かつ高い技術力で多くの作品を生み出している。
ポリゴンという言葉がまだ一般的ではなかった時代に、「遥かなるオーガスタ」など3Dポリゴンを使用したゴルフシミュレーションを開発していたのが有名じゃな。
■ストーリー
ストーリーは、3つの宝石の力で平和が保たれていた、人と妖精が共存する異世界フェアリーランドが舞台じゃ。
悪魔バラリスの封印が解け、王女アンは3人の妖精の姿に変えられ、連れ去られてしまった。
勇者ジムは、王女アンを助け、悪魔バラリスを倒し、フェアリーランドを救うため立ち上がった、というストーリーじゃ。
実は、この短いストーリーの中にも「3つの宝石」「王女アンは3人の妖精に変えられた」という重大なヒントがしっかり含まれているのじゃよ。
■ゲームシステム
操作方法は、Aボタンがアタックとディフェンスの切り替えとなっている。
見た目に変化がないのでわかりづらいのじゃが、画面右下に「ATTACK」「DEFEND」の表示があり、ボタンを押すと切り替わるようになっている。
Aボタンを押している間は攻撃力が強いが、防御力が弱い。
Aボタンを離すと攻撃力は弱いが防御力は強い、という状態になる。
敵への攻撃は体当たり形式なので、強い敵にはディフェンスモードで、弱い敵にはアタックモードで、というのが基本的な戦い方じゃ。
ゲームの進行に従い、魔法が使えるようになる。
これもちょっと操作方法が特殊で、Bボタンで魔法を選択することができ、Aボタンを押しながらBボタンを押すと、MPを消費して魔法を使うことができる。
また、セレクトボタンでメニューを開き、クイックセーブもしくはゲームデータを保存するパスワードを表示させることができる。
クイックセーブは、バックアップメモリーが無いので、あくまで電源を切るまでの間しか使えない。
しかし、クイックセーブ&ロードのおかげで、ゲームオーバーになってもすぐやり直せるのが、意外と他のファミコンゲームにない機能じゃ。
今となっては当たり前だが、当時としては非常に先進的じゃな。
■主な開発メンバー
オリジナルの「ハイドライド」のゲームデザインおよびプログラムを担当したのは、天才プログラマー内藤時浩氏。
この時代は、まだゲームの容量も少なく、プログラマーが自らゲームのアイデアを考え、ドット絵を打ってグラフィックを描き、音楽を作っていた。
そんな時代に、「ドラゴンスレイヤー」シリーズを手掛けた木屋善夫氏とともに、アクションRPGというジャンルを築いた、まさに伝説のゲームクリエイターじゃ。
「ハイドライド」シリーズ以外にも「ルーンワース」シリーズなどを手掛け、近年はその卓越したゲームデザイナーとしての知見で、ディレクターとして活躍されている。
移植版である本作については、スタッフロールなどがないため不明だが、内藤氏が直接手掛けていないことは本人が名言しており、同じT&Eソフトで他機種への移植を手掛けた加藤英治氏が主担当ではないかと言われているのじゃよ。
■魅力①「アクションゲームにRPGの成長要素を加えた画期的なシステム」
今の時代の感覚で見ると、特に何の変哲もない画面じゃが、実は当時は革命的なゲームの進化だった。
当時のゲームは、アクションゲームが多く、プレイヤーキャラが強くなるといっても、あくまでアイテム入手などでの一時的なパワーアップのみで、成長とはとても言えないものだった。
一方、RPGはまだ海外から入ってきたばかりで、いわゆるテーブルトークRPGから生まれたことや技術的な制約もあり、文字や数字情報が多く、見た目のわかりにくさで敷居が高いジャンルだったのじゃ。
アドベンチャーゲームに、パラメータなどの成長要素を加えたようなものという感じじゃな。
そんな中で、「成長」というRPGの要素をアクションゲームに取り込み、プレイヤーが敵を倒すことで経験値やアイテムを入手し、レベルが上がって少しずつ強くなっていくというシステムを創り上げたのが本作「ハイドライド」なのじゃ。
また、HPやMP、経験値が、数字ではなくゲージで表示されることでビジュアル的に非常にわかりやすくなっていることも、多くの人たちに受け入れられた理由だと言える。
内藤氏は、「ドルアーガの塔」にヒントを得たというが、こちらはアイテム取得による成長であり、経験値による成長ではない。
アクションが苦手な人でも、経験値を貯めて成長させれば難易度が軽減されるというのが大きなポイントじゃな。
■魅力②「世界を冒険して謎を解いていく自由度の高さ」
もう一つ、当時のプレイヤーにとって画期的だったのは自由度の高さじゃ。
当時は、アクションゲームであれば横や縦などへの単一方向へのスクロールがほとんど、RPGはまだ3Dダンジョン形式がメインと、ゲームの世界はまだ広がりを感じさせるものではなかった。
しかし、「ハイドライド」では、スタートした時点で、森や草原に砂漠、川や城と鮮やかな世界が広がり、しかも上下左右にプレイヤー自身が好きな場所を冒険することができるようになっている。
街の人などがいないのでヒントは少ないが、説明書などの限られた情報からプレイヤー自身がいろいろなことを試していく中で、アイテムを入手し、キャラクターの成長を実感し、今まで行けなかった場所が行けるようになるなど、自らが体験するように楽しむことができる。
まさにロールプレイング(=役割を演じる)じゃな。
また、本作ではクリアに必要なキーアイテムを手にいれる順序はある程度プレイヤーが選ぶことができるようになっている。
さらにいくつかの強化アイテムは、別に取らなくてもクリアすることが可能など本当に自由度が高いのじゃよ。
余談じゃが、わしはMSX版をはじめてプレイした時に、どうしても本作のある謎が解けなくて、T&Eソフトに手紙を送ったところ、ゲームのストーリーを小説にしたヒントブックを送っていただいたことがある。
直接的なヒントではなく物語の世界を楽しみながら、プレイヤー自身で謎を解く感動を体験してほしいという制作者の思いに感動したものじゃよ。
プレイヤーによって、貴重なアイテムを手にいれる順番も違えば、手に入れていないアイテムもあり、プレイヤーだけの体験、物語が生まれていく。
このアクションRPGという画期的なシステムは、「イース」や「ゼルダの伝説」といった名作を生み出し、さらにはオープンワールド形式になり、「アサシンクリード」や「エルデンリング」など今なお進化を続け、現代のゲームの主流となっていると思うのじゃ。
■まとめ
「ハイドライド・スペシャル」は、今の基準で見るとゲーム内にわかりやすいヒントもなく、難易度も高く感じる部分もあるが、レベル上げの場所ひとつとってもプレイヤーごとに違う体験があり、まさにアクションRPGの本質にして基本形と言えると思う。
未知の世界を自由に冒険する楽しさ、謎解きの快感、プレイヤーが成長を実感できるというアクションRPGの魅力が詰まった偉大な発明なのじゃよ。
魔法が使えたりなどファミコン版独自の要素があるのも良いな。
温故知新という言葉があるが、ゲームの面白さとは何かという原点、根源に触れることで得られる体験は、きっと新しいゲームの創造にもつながると思うのじゃよ。
■最後に
「ハイドライド・スペシャル」は現在プロジェクトEGGで配信されているので、PCなどで気軽に遊ぶことができる。
プロジェクトEGGでは続編や他機種向けの移植版も配信されているので、いろいろとプレイして比較してみるのも面白いと思うのじゃ。
興味を持った方にはぜひプレイしていただければ幸甚の至りじゃ。
また、369クロニクルで取り上げたゲームは、プレイ動画も公開中じゃ。
実際にプレイしながらより深く紹介しているので、興味をもったらぜひ観てくれると嬉しいのじゃ。