「薬漬け」の生じる背景

自分勝手な父親に苦労している母親を助けるために、自らも母親のように生きようと試みるも、実は本人は父親の資質を引き継いでいるため、母親のように生きようとすればするほど自らの資質と折り合いがつかず、結果具合が悪くなってしまい、本人自身も母親に苦労をかけ自己嫌悪を強めてしまっている、という方が治療に訪れたとします。

このような方の治療として「母親のように生きられる」よう、本人の父親的な資質を薬で抑える事も、本人に「父親の資質を意識的に生きる」よう促すことも出来ます。根本的な治療を考えるのならもちろん後者なのですが、大抵は前者の治療を続けつつ、後者の治療にシフトするタイミングを図ることになります。その際は父親との関係で生じたトラウマについても考慮する必要があるかもしれません。

もしここで本人が前者の治療だけで満足しており後者の治療を望まない場合、この方は薬を飲み続けることになります。時間が経つにつれ父親の気持ちも理解できるようになり、父親の価値観を多少なりとも取り入れられれば薬も減らしていけるかもしれません。治療者はそのような偶発的な機会を願いつつ、薬を出し続けます。

このような形で、取り敢えずの折り合いがついている状況を「薬漬け」という一言で片付けられてしまうと、治療に取り組む側としてはやるせなくなることがあります。ただ漫然と薬を出し続けているわけではなく、患者さんの抱える背景にも考慮しつつ処方を行なっていることをご理解いただけると有難いです。

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