優れた人、豊かな人

言葉はイメージを運ぶ荷車である。※

そして、そのイメージは実体験によって養われる。

「りんご」という言葉を耳にした時

以前食べたりんごの色・ツヤ・匂い・触り心地・歯ざわり・味が鮮明に思い浮かぶ人と

りんごを食べたことはないが「りんご」を表す10カ国の単語が思い浮かぶ人

「りんご」という言葉に対して「豊か」なのは、どちらの人だろうか。

摂食障害やアルコール依存、リストカット等の問題行動を持つ患者さんの治療が進むにつれ、「空虚感」がテーマになることが、よくある。

そして、そのような方々の多くが「りんご」に対して後者のような関わりをしてきた「優れた人」たちである。

彼らの治療は、「りんご」に対する知識をこれ以上増やすことでも、「みかん」や「ぶどう」について学ぶことでもない。

「りんご」を充分に味わうことである。

日々の何気ない生活を、五感を総動員して味わい、言葉の厚みを少しでも持たせることが、空虚感の改善に繋がり、結果として過食嘔吐やリストカットといった「強烈な実体験」で空虚感を埋める必要性が薄れてくるのである。

自分を支える実体験の薄さに耐えかねて、衝動的に「りんごを味わいたくなってしまった」ことで生じている疾患や犯罪は、思いのほか多い。

※精神科医 神田橋條治先生の言葉です。
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