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どんな映画が好きか? 〜オススメの人生賛歌映画5選〜


「どんな映画が好き?」「一番好きな映画は?」


この類の質問に何度となく頭を悩まされた。普通なら困りもしないであろうこんな質問に。

私は映画を観るのが大好きで、周りにもそれを公言している。本物の映画狂いたちには遠く及ばないが、それでも毎年新作旧作合わせて100本以上は鑑賞している。当然、好きな映画も山ほどある。

上の質問に対して正直に答えてもいいのだが、恐らく相手は自分が今から言う作品を知らないだろうと思い、逡巡の末、結局は今流行りの映画だったり、なんとなくその人が知っていそうな名作だったりを答えてしまう。

もちろん、脳死で観れるアクション映画も好きだし、ジブリやピクサーなどのアニメ映画も大好きだ。しかし、一番好きな映画か、と聞かれるとそうではない。この質問に対して適当に答えるたびに、私は自分に少しだけ嘘をついている。
私は、映画好きを公言しておきながら、好きな映画を聞かれるのが億劫な面倒臭い人間なのである。

そんな私が本当に好きな映画、それは人生の素晴らしさを感じさせてくれる映画だ。これを勝手に人生賛歌映画と名付けている。

この記事では、今までほとんど人に言えていないが、自分の人生観に多大な影響を与えた人生賛歌映画5本を紹介したい。


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1.『アメリカン・ビューティー』(1999)

アメリカンビューティー


個人的オールタイムベストにして、映画にハマるきっかけとなった作品。

主人公はアメリカ人の中年男性。マイホームで妻と娘と暮らし、一見すると何不自由ない幸せな家庭を築いているように見える。

しかしよく見てみると、この家族は問題だらけであることがわかる。
主人公はただ毎日やりたくもない仕事をこなし、家では言いたいことも言えず、精神的に去勢されたも同然の男である。妻は資本主義社会に完全に洗脳され、不動産業での成功しか頭にない。娘は不安定なティーンエイジャーで両親のことを軽蔑しきっている。
主人公が娘の友人に恋をしたことがきっかけで徐々に「良きアメリカ」というメッキが剥がれ始め、隣人家族も巻き込み、とんでもない方向に話が進んでいく...。

この映画の副題は"look closer"。主人公らは側から見るとなんの問題もない家族だが、近づくとそれぞれが病理を抱えていることがわかる。そこからさらに近づき本質に迫ると...という映画である。

虚構に見えた「アメリカの美」が本当に美しかったことがわかる、取るに足らない人生の一瞬一瞬の素晴らしさに気づかせてくれる、自分にとって本当に大切な映画。ラスト10分くらい涙が止まらなかった。



2.『8 1/2』(1963)

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人生賛歌映画の元祖とも言える作品。タイトルの読み方は「はっかにぶんのいち」。

主人公はスランプに陥った映画監督。新作のSF映画を撮影することになっているのだが、一向にアイディアが出ず、自分が何を描きたいのかもわからない。
何も考えが浮かばないままセットだけが組まれていき、段々と主人公が追い詰められていく中で、様々な人物が彼の周りに押し寄せ、夢や幻想にまで侵食し、混乱はピークに達する。

そこで開き直った主人公は混沌を正面から受け止め、弱い自分を認め、曝け出し、ついには祝祭のようなラストを迎える。
自分の人生の最期もこうありたいと思える作品。ラストシーンの天国のような多幸感は忘れられない。

本作の主人公には、フェデリコ・フェリーニ監督自身が投影されていることを知って鑑賞すると一層深く感じられる。



3.『シークレット・サンシャイン』(2007)

シークレットサンシャイン


一番好きな韓国映画。

夫を亡くし、息子と共に夫の故郷に移住してきたシングルマザーが主人公。ピアノ教室を開いて人生の再スタートを誓う主人公だったが、移住先でも新たな悲劇が彼女を襲い...という話。

この映画が凄いのは、「宗教って意味あるの?」「本当に神様がいるなら、どうして自分にとって悪いことが起こるの?」という疑問に真正面から切り込んでいる点。
私自身は何の宗教も信仰していないが、この映画の出したアンサーには本当に感動した。

どんなに凄惨な人生でも、確かに救いはある。ちょっとだけ人に優しくしたくなる、素敵な映画。(話はかなり重いが...)

『パラサイト 半地下の家族』に冴えない父親役で出てたソン・ガンホが本作でも非常にいい役柄を演じている。



4.『野いちご』(1957)

野いちご


個人的に一番好きな映画監督、イングマール・ベルイマンの作品。

長年の功労から名誉博士号を授与されることになった老医師が式典に向かう道中を描いたロードムービー。
今までに紹介した映画と違うのは、この映画の主人公は明らかに社会的成功者である点。しかし彼の過去には苦悩が多く、対人関係にも問題を抱えている。

旅路で過去を回想していく過程で、自分の人生と向き合い、周囲への関わり方を少しずつ変えていく主人公。そんな主人公を通して人生の悲哀や、普遍的幸せに気づかせてくれる作品。特にラストシーンでのささやかな救いに、心が洗われるような気分になる。

『仮面/ペルソナ』や『叫びとささやき』など難解な名作が多いベルイマンだが、本作はかなり観やすい。ベルイマン入門編としても最適な一本。



5.『散歩する惑星』(2000)

散歩する惑星


どこかの惑星を舞台に、不条理な出来事に翻弄される人々を描いたシュールブラックコメディ。暗い雰囲気で、どこか病んだ登場人物達の様子をユルく切り取った作品。

今までに紹介してきた映画と大きく違うのは、この映画が人生の本質(と思われるもの)に全く接近していない点。
例えるなら、居酒屋で酒飲んで愚痴り合ってるサラリーマンのような。何の解決にもなっていない。

でもそれでもいいよね、結局人生なんて馬鹿らしいんだから、そんなに深刻になる必要はないよね、と言ってくれている作品だと感じた。監督曰く、「普通の人たちへの賛歌」。

固定カメラによるワンシーンワンカットの画面内でずっと変なことが起こっていて、ハマる人にはすごくハマるが、ハマらない人は退屈でたまらない作品だろう。
近年話題になった『ミッドサマー』の元ネタとなった作品の一つでもある。


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今回紹介した映画以外にも『ベルリン・天使の詩』『東京物語』『ロッキー』『ツリー・オブ・ライフ』などなど、語りたい人生賛歌映画が山ほどある。
最近だと『もう終わりにしよう。』は賛否両論あるが個人的にはかなり良かった。

もちろん娯楽映画も大好きなのでまた定期的に映画の記事書いていきたい。






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