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出来なかった

塾へ向かうバスの中で、私は、
なんで勉強しなくちゃいけないのだろう?
良い高校へ行って
良い大学へ行って
良い会社に就職しなくては行けないのだろうか?

中卒、高卒は、そんなに行けない事なのだろうか?

そう思いながら、
降りなくてはいけない停留所を
過ぎて行った。

終点の駅まで来てしまった。
降りれなかった。

塾へ行きたくなかったのだ。

勉強する意味も、
進学する意味も分からなかった。

塾へ行ったフリをして、終わる時間に帰ろうと思った。

時間を潰すために本屋へ行った。

フラフラと見ていたら、
アイドル雑誌に目が止まった。

そう言えば、学校のクラスのみんなは、
こういう雑誌のアイドルの切り抜きを下敷きに挟んでいるな。

私も、やってみたいけど、
黙って買うとまた怒られるな。

何のためのお小遣いなんだろう。
自由に使えないなんて。

もらったと言って買ってしまおうかな。

大丈夫、もらったと言えばいいんだ。
大丈夫、怒られない。

頭では、買おうと思っていたが、
私の手は、持っている雑誌を
塾の教材が入っている袋の中へ入れようとしていた。

ゆうこちゃん!

ビクッとして、雑誌を落としてしまった。

声のする方を見たら、
クラスメイトが立っていて、
私を見て手を振っていた。

私は、慌てて雑誌を元に戻し
走って店の外に飛び出した。


私、今、何をしようとしたの?
万引き?
なんで?
そんなに欲しかったの?

分からない!
分からない!

何をしようとしたのか?
本当に欲しかったのかも。

あの子が、いなければ万引きしていた。

私の名前を呼ばなければ、
私は、万引きしていた。

あの子のおかげで、
万引きしなくて済んだんだ。

本当?

本当に、そうかな?

万引きすら、出来ない自分。
何も出来ない自分。

しなくて、助かったのか、
出来ない自分が、なんだったのか?

もう、何もかも分からなくなった。

何も分からないまま、
気づいたら、
泣いていた。

店の外で何分も泣いていた。

急いで帰らなきゃ。

もう、塾も終わる時間だ。
早く帰らなきゃ。

泣きはらした目を擦りながらバスに乗った。

ただいま。
父は、私を見ようとしなかった。

母は、いつもと同じ、忙しいそうに
夕飯を作っていた。

食欲がなかったが、
食べないとまた怒られるから、
無理矢理食べた。


次の日、学校へ行きたくなかった。
でも、行きたくない理由を
話せるわけがない。

何がなんでも、
行かなくてはならなかった。

学校に行ったら、
本屋で会ったクラスメイトは、
話しかけて来なかった。

当たり前か。
私、ぼっちだったんだ。

誰も、私なんか相手にしないか。

ホッとしたような、
なんとも言えない感じがした。


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