📖①『ゴミ屋敷を救え！社会復帰への道』１-１-２：現状把握

「それにしてもすごい家ね……」お嬢様の桜木さんとの生活が始まった当日、僕は改めて自分の家の異常性を認識することになる。

前回

#木琴コンビ #深琴と真琴の琴棋書画
#ゴミ屋敷 #精神病 #社会復帰への道 #創作エッセイ

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これでもマシな方

2023/12/24(日) 13:00 葛木家 深琴の部屋

桜木さんとの生活が始まった午後、僕たちは僕の部屋で軽く食事をした。

真琴
「机も無しに床に直接座って物を食べたのは初めてだわ……」

深琴
「まあ、一応ここ和室なので床に座るのは許してください……」

真琴
「それにしたって机の上の物ぐらい片付けなさいよ！」

仰る通りである。

深琴
「違うんです……。これ、僕のじゃなくて半分ぐらいは母の私物なんです……。僕が実家を出ている間に母が僕の部屋を使っていたようで、勝手に片付けようとすると怒るんですよ……」

僕は机の上に散らばった母の書類や小物を見てため息をついた。机の引き出しの中まで母の物がつまっている。僕だって片付けられるものなら片付けたい……が、僕は僕でセルフネグレクト気味で中々手を付けられないのだ。

深琴
「というか、机だけじゃないんですよ！そこに積まれてる服だって母のだし、僕が実家に帰った直後なんてベッドの上にまで母の物が置かれていたんですから！」

真琴
「なんというか……気の毒ね……」

桜木さんはどうやら言葉を選んでくれたらしい。さすがにこれから世話になる家を悪く言うのは気が引けたようだ。

真琴
「そういえば、アナタのご家族はどこで食事をしているの？さっきチラッとリビングとダイニングを見せてもらったけど、とても食べれそうな場所じゃ無かったわよ……？」

深琴
「母はリビングで食べてますよ。兄は自分の……というか父の部屋で食べています。父はそもそも単身赴任でこの家には帰らないので居ません」

真琴
「嘘……お母様、あの状態の中で食事が出来るの……？き、器用な方なのね……」

さすがにドン引きのようである。僕はもう見慣れてしまったが、お嬢様には刺激が強すぎるようだ。

深琴
「食事も済みましたし家の中を案内しますね。足の踏み場が無いので転ばないように気を付けてください」

ごくっと唾を飲み込む音が聞こえたが、桜木さんは覚悟を決めたような顔をして頷いた。

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冷蔵庫とエアコン

同日 13:30 葛木家 リビング・ダイニング・キッチン

深琴
「まずは、さっき話に出たリビングとダイニング、それからキッチンです。仰る通り食べる場所なんてありません。リビングは母の寝室も兼ねてます」

真琴
「えっ……どこに寝る場所があるの……？」

リビング

完全に顔が引きつっているが想定内だ。僕は一年中出しっぱなしになったコタツを指差した。

深琴
「母はここで寝ています」

真琴
「カビが生えているじゃない！！！」

そう、カビが生えているのである。僕もよくこんな所で寝れるなといつも思っている。

深琴
「母は心臓に病気を抱えているのですが……正直こんな所で寝てたら悪化しそうですよね」

真琴
「そうなの、色々と心配ね……」

桜木さんは眉を下げてションボリして見せた。表情がよく変わる人だな。

深琴
「ダイニングはご覧の通りの有り様で、キッチンもまあ、似たようなものですね」

真琴
「……？冷蔵庫が無いわ……」

深琴
「あぁ、冷蔵庫なら……」

僕は一呼吸置いて呟いた。

深琴
「僕が中学生の頃から壊れています。この前やっとその壊れた冷蔵庫だけ業者さんに持っていってもらいました」

真琴
「冷蔵庫無しでどうやって生活するのよ！！！？？？」

この話をするとみんな驚くんだよな。まあ、それもそうか。

深琴
「毎日買い物に行って、その日作ったものはその日のうちに食べる感じですかね……。ちなみに、リビングにあるエアコン、あれも壊れています」

桜木さんは完全に絶句していた。

真琴
「……お願いよ、深琴。せめてエアコンだけでも夏までになんとかしてちょうだい。熱中症で死んでしまうわ」

深琴
「いや～、本当ですよね～。僕も何度今年の夏で誰か死ぬなと思ったか分かりませんよ。はっはっは」

真琴
「笑い事じゃないわよ！」

まあ、はい。仰る通りです。

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鍵とトイレとそれから鏡

同日 13:45 葛木家 玄関・トイレ・洗面所

僕たちは廊下を通って僕の部屋の前を過ぎ、玄関までやってきた。

深琴
「ここが玄関です……まあ、見ての通り服や物が積まれていますね」

真琴
「よくこれで出入り出来るわね。壊れた冷蔵庫の運搬大変だったでしょう……」

深琴
「ああ、冷蔵庫はキッチンの窓から出してもらったんですよ。その日の前日から母がめちゃくちゃ頑張ってキッチンの物出して。なんとか冷蔵庫を運べるようにはなったんです。すぐにまた物で埋まりましたが」

桜木さんは頭に手を当てて眉間にシワを寄せてしまった。

深琴
「あれ？ところで桜木さん、どこから入ってきたんですか？洗面所の窓の前は物で埋まっているはずですが。まさか最近玄関の鍵が調子悪いと思っていましたがそこから……？」

よくよく考えたら、桜木さん不法侵入じゃないか。今さらだが警察を呼んだ方が良かっただろうか。

真琴
「ああ、それなら鏡の中から来たわ」

さらっと言われたが、鏡！？そういえば洗面所の鏡が割れていたが、鏡の中から来たってそういうこと？？？そんな御伽話じゃあるまいし。

深琴
「えーと……詳しいことはまた後で聞きますね」

思考を放棄したくなってしまったので、いったん流すことにした。

深琴
「こちらは、トイレです。水を流すレバーが壊れているので、ご使用の際は風呂場でバケツに水を組んで流してください」

真琴
「バケツですって！！？？そんな災害時みたいなことを毎回やっているの？？？」

鏡の中から来ましたわ！と言われた僕より驚かれてしまった。

深琴
「まあ、諸々の事情で修理できないんです。我慢してください。あと1階はさっき言った洗面所と風呂場、あとは洗濯機置き場ですね。この辺は桜木さんが来たときに見たと思うので飛ばしますね」

真琴
「この家、色んなものが壊れているのね……」

深琴
「そうですね、桜木さんが来たときに洗面台も壊れましたしね」

桜木さんはここに来て初めてうっと気まずそうに目をそらした。

深琴
「あと、洗濯機も調子悪いし、乾燥機も壊れてますね～」

桜木さんに説明してて分かったが、この家は思った以上にボロボロのようだ。

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2つの物置

同日 14:00 葛木家 2階

深琴
「あとは2階ですが、2階は正直つまんないですよ。2階の3部屋あるうちの左右2つが物置状態で、残りの真ん中の部屋を兄が使っている感じです。元々は父の部屋だったんですが、兄の部屋が物置状態になったことで、居座ったみたいですね」

真琴
「階段も廊下も物がびっしりね……危ないわ」

深琴
「本当ですよね～。2階はほぼ兄しか使っていないので大体は兄の物ですね。物置には僕の昔の私物もあるかもしれませんが」

真琴
「うっ……タバコ臭いわ」

桜木さんは2階に充満する臭いに顔をしかめた。

深琴
「すみません。家の中で吸うなと何度も言っているんですが改善しなくて。苦手なら2階にはあまり近づかない方がいいですよ」

一通り家の中を回った僕たちは、僕の部屋に戻ることにした。

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フィガロ

同日 14:15 葛木家 深琴の部屋

深琴
「とまあ、地獄のゴミ屋敷案内ツアーは以上となります。お付き合いありがとうございました」

真琴
「ねぇ、今気付いたけどアナタの部屋、障子や襖、カーテンまでボロボロじゃない」

深琴
「あぁ、昔フィガロっていう猫を飼っていて、その子がイタズラを」

僕は亡き愛猫が部屋に残した数々の傷痕を見てやや感傷に浸ってしまった。

深琴
「フィガロは僕が大学生の時に、死んでしまって……。原因は分かりませんが夏だったので、熱中症だったのかもしれません……可哀想なことをしました……」

エアコンが壊れてなかったらもう少し長生きしてくれたのかな。

真琴
「猫を飼っていたのね。写真とかは無いの？」

深琴
「あったはずですが、どこかに行ってしまいましたね……某人形の映画に出てくる猫に似ていたので、名前はそこから取っています」

真琴
「そうなの……アナタの家のこと教えてくれてありがとう。改めてお世話になるわ。よろしくお願いします」

初めはやや高圧的だった彼女がかしこまった態度を取るようになったことに驚いてしまったが、これから一緒に生活するのだという実感がわいてきた。

真琴
「ところで、私の部屋だけど……なるはやで用意してちょうだいね」

深琴
「この惨状を見てまだ諦めて無かったんですか！？」

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まとめ

壊れているか調子が悪い、又は無いもの

• コタツ

• 冷蔵庫

• エアコン

• 玄関の鍵

• トイレ

• 洗面台

• 洗濯機

• 乾燥機

• 深琴の部屋の障子、襖、カーテン

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