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『  』NOT fill in blanks.

あまりに素晴らしい体験をもたらしてくれた。

Inverted Angel
あなたの恋人を名乗る知らない女性。でも、ただのストーカーにしては色々なことを知りすぎている。 あなたが入力した推理が"だいたいのニュアンス"で判定されるKawaii Future Mysteryです。インターフォン越しに話を合わせながら、あなたの考える彼女の正体に辿り着きましょう。

https://store.steampowered.com/app/2894960/Inverted_Angel/
砂糖菓子みたいな女の子

 見知らぬ砂糖菓子みたいな女の子がインターホン越しに彼女を名乗ってくる不確定推理ノベルゲームである本作。
 初めの印象として見かけたときには、可愛らしい女の子が出てくるノベルゲーム、でもどこか不穏な雰囲気が…という特徴から某文芸部某正解率1%のゲーム某承認欲求配信女育成ゲームが頭をよぎったり、ビジュアルから察せられるヤンデレヒロイン像が、一定の層を引き付けるフックになっているという印象を受けました。
 確かにそれらと類似した、あるいは重なる部分もあるのですが、それだけでは語ることは一切できないほど、ある意味で硬派な、そしてある意味でやわらかなゲームなのが本作の魅力。このゲームの場合語れば語るほど本質から逸れていくようにも思うのですが、とある配信者さんがプレイしていた序盤の会話を見たときからその印象は大きく翻り、単なるゲームの枠を越えた"体験"をもたらしてくれた"作品"となりました。

冒頭にこんな暗示をしてきたらもう逃れられない。

あいまいなAI入力

 本作がもつ一番の特異性は、これまでの推理ゲームとは違って、選択肢を自分で選ぶ行為の他に、"だいたいのニュアンス"で自由入力した答えをAIが判断し、それが正答と近ければ正解となる入力システムにあります。これが単なる真新しさだけでなく、このゲームを通じてだんだんと輪郭を与えられていく本質にも大きく関わるポイントになっているところが実にうまくできています。

"対話"するゲーム?

 『知らない女性』がインターホン越しにいるというシチュエーション、相手の素性を会話から推測するというゲームスタイルから、こうしたゲームに慣れたプレイヤーほど、すでにテンプレート化された「ヤンデレ」という枠に当てはめ、危険人物の色眼鏡をかけてしまうように”あえて意図的に”構成されている(と感じる)本作。
 大枠の話をしますが、「ゲームが上手い」とは、言い換えるなら「ルールをいち早く理解し主導権を握ること」と表現できます。そのため、歴戦のゲーマーであればあるほど、新作ゲームをプレイする際に「〇〇というジャンルのゲームで、△△というゲームシステムが入って、✕✕が特に重要で、□□に似た種類のゲーム」というカテゴライズをいち早く行い、自分がすでに認識している別のゲームに分類し、当てはめて攻略法を見出します。
 ところがInverted Angelの場合、このような最適化をすればするほど本質から遠ざかる。というか、この当たり前に疑問を投げかけてくるようなゲームなのです。(作中でも別の言葉でこのような内容が語られます)

 このゲームをカテコライズ的に認識するならばヤンデレに*されないよう上手く立ち回るゲームという印象を受けますが、それだけではこのゲームを十全に理解することはできません。むしろこのゲームは『知らない女性』との”対話”を楽しむゲームだと言ったほうが良いでしょう。
 『知らない女性』と語り手との小気味よい会話や哲学・心理学に関するお互いの意見交換のシーンを見た時から、その小気味よい”対話”にグイグイと引っ張られていきます。そしてまた分かったような気になって進めていくとその先で”対話”を楽しむゲームですらなかったのだと気づかされるのです。

ぞわっと来ました


Invertedな『彼女』

 タイトルとなっている「Inverted Angel」は恐ろしくよく出来たタイトルで、複数の理由があってこのタイトルになっているのだと感じます。

1.Internet ミスリード(Internet Angel)
 
類似する雰囲気のある作品やその方向性を示唆することで、プレイヤーにあえて先入観を植え付ける目的捻ったタイトルになっているのがニクい…!

2.Invertedの持つ意味
Invert(反転、転化、裏返す)の過去形であるInvertedの意味は以下の通り
・用例1.〔上下が〕逆さまの、逆の、反転した
→Inverted Angel≒堕天使、反転した天使 という方向性の意味付け(共に堕ちていく、あるいは天使ではないという暗示)
・用例2.《精神医学》性的倒錯の
→Inverted Angel≒性的倒錯のある天使 という方向性の意味づけ(あるいはフロイト的な意味合い?)

・その他熟語ではinverted mysteryというのもありました。
 倒叙推理小説(最初から犯人が分かってる小説やドラマ、映画)→Inverted Angel≒最初から天使であることが分かっているゲーム?

3.Inverter
 
モーター等に据付け、主に直流電流を交流電流に変換する(ON/OFFのデジタルな2進数を0~100%のアナログ値に変換する)装置をインバーターと言います。
 このことから、Inverted Angel≒定量化しない天使≒アナログ化する天使という意味付けがあるのでは?(個人的に気に入ってる解釈)

安易に『彼女』に翼が生えてないのが好き。


魅力的で危険な『知らない女性』

 流行り病で体調の悪い"君"はインターホンの音によって来客に気づきます。そして玄関からインターホン越しに『知らない女性』は"君"のことを知っているように語りかけてきます。その出で立ちから察する通り、かなり愛が重い言動をしてきたりもするんですが、筆者が惹かれたのは急に理知的な話をしてくる地頭の良さ。ただしこれも、論理詰めで逃げ場の無いタイプとは違って、言葉としてはいい意味で適切じゃない、『彼女』自身の理解や実感に落とし込んだ言葉を使うところに、『彼女』の(得体は知れないけど、もしかしたら話は通じるかもしれない)人となりを感じられるのがとても心地良いんです。
 最初の選択肢までで『彼女』とのやり取りが好きになってしまった人は、おめでとうございます。最初の結末から先も、『彼女』のことを知りたくて、全ルート踏破へ向けて進み出す素敵な沼へご招待です。

社会実験や心理学用語がスラスラ出てくる砂糖菓子のような女の子。このギャップよ。
賢いかと思ったら急に急降下したりもする(ここらのトーク滅茶苦茶好き)
相手との関係性によって変化する液体。この色ごとに分岐があるのかと思ったら、
ちょっと違うケースもあるみたい。ソウルジェムかと思った。濁らないでくれ


各エンディングの感想(含ネタバレ)


通ったエンディングの順に書いていきます。












🍫Chocolate Hideout⛺(初回ルート)


 不自然な選択を選ぶと刺されることから、
ひとまず地の文(主人公が頭の中で考えていたり、誰が語っているのか不明の文)の恣意に従ってみるか…と選んだ結果行き着いたルート。
"君"が考えていることに準じていくと行き着いた結末だけあって、終わり方もやたら綺麗な結末に落ち着いて…落ち着いてないだろコレ!?

 途中で出てくる羊毛ドラゴンや煮込みバウムクーヘンといった珠玉の胡乱キーワードたちが引っかかっていたんですが、このルートが最初であったことで「検索」することが出来てこの世界でのルール(この世界に存在するものは検索できる)が初手で分かったことが大きかったです。
結果、”例の流行り病”とぼかされていたものがそんなルールに合致することにすぐに行き着きました。初手がこのルートじゃなかったら、気づくのにもう少し時間がかかったかも。

 ここで序盤の会話から繰り返されるあの言葉が、『彼女』の口から再び話されることで、この作品の根本的なテーマはそこにあるのだと感じるようになりました。

 経口感染って…コト!?!?!?!?!?
あまりにも純愛じみた真相と、経口感染の一文からウイルス混入じゃなく、こいつら経口感染♡したんだ!!と思ったのは私だけじゃないはず…(完走後に名取さなさんの配信を観たクチです)

 結果としては経口感染オチは最後の最後に回収されたようで、"明日"ではなく繰り返し"明後日"と言っていたのも、『彼女』にとっての"明日"は"今日"のように辛いことを思い出さなくていいことで、"明後日"はそれを完全に乗り越えた先の二人の世界のことを指しているのだと思います。
 そんな"明日"を何度も繰り返そうとしている『彼女』の恐ろしさに気づいたのはゲームを閉じて就寝する前だったんですが…怖くて夜しか寝れないよ…朝焼けもまだまだ来ないしさ…

 プレイ中に豹変する『彼女』への理由として、じつは『彼女』も(経口感染♡によって)感染していて、記憶障害ではない別症状として錯乱したのではないか?そういうルートもあるのではないか?と血眼になって別ルートを探し始めたのがここから先の完走までのきっかけになりました。

あと、前の女のトラウマを目の前で話される今の『彼女』、辛かったろうなぁ…。彼女に共感して泣いちゃいました。

一番最初にたどり着いたからというのもありますが一番好きなルートです。


🩸Scarlet Icecream🍨(2回目ルート)


 1回目のルートからの派生を探してたどり着いたルート。ここに辿り着く前にNOISEREDUCTIONを一度踏んでいますが、あれもこのゲームのルールに直結したエンドの一つですよね。"君"がそう想像したから、『そういうこと』になる。

…こんな想像したくなかったよ!!!!!!

 煮込みバームクーヘンをしゃがんで食べだす『彼女』の「砂浜みたい!」が面白すぎたのですが、その絵面の状況証拠の恐怖が凄すぎて疑念が強く印象付けられました。(このルートに入る前の選択肢も疑念がカギになっているためですが)
 ルートに踏み込んだ後、最初の問いに中々答えを出せず、より悪い想定をしてNG WORDを食らってしまいました。序盤の会話にヒントがあったことについては後で気づいたんですよね。社会心理学のほうがイメージが先行しすぎて抜けていました。いや、チューリングテストの話は繰り返されているんですが…
 そして「貴方が行き着いた興味」に気づいた瞬間の衝撃たるや…このエンドの"君"は分岐に入ってから前回のエンドと人格や設定が違っていたので、『彼女』だけじゃなく自分自身にも疑いを掛ける必要がでてきました。真実の自白も"君"からだったし。(信頼できない語り手パターンですね)

”マッドサイエンティストとメンヘラはせめてどっちか片方にしてよ!”
(偶然マッドサイエンティストとメンヘラが相対する形となった世界線)

 最終的に迎えたエンドの前に、スマホに送られてきた文章から、嫌な予感しかしなかったんですが、きちんと後味の悪さを全力でやってくれました。完璧です。細胞ごと私を知っちゃってる人が居たら、それ以上の人なんて居ないじゃん…『彼女』のことをわかった「つもり」になんてなっちゃ、いけないよね…底知れないよ…あっここでもあの言葉くりかえすんだね…最高のエンドだ~~~(白目)!!!!

 「分かりあったつもり」(言葉・定義)より「どうでもいいこと」(行為・行動)のほうが大事だったこのエンドを迎えて、本作に対しての認識が更に一変しました。本当に必要なのは対話じゃなくて、本当に大事なのは定義じゃなくて、その、言葉にした瞬間に消えてしまいそうな、その"間"にあるものなんだなと。
 ノベルゲーム・推理ゲームとは前者をもってゲームを成立させるものです。だからほとんどのノベルゲーム・推理ゲームは発言が重要になる。Inverted Angelでは、その前提を覆しているし、私も言外の行動のほうにこそ価値があると思っているため、『彼女』のもっている価値観にすごく共感してしまいました。

🤬Invalid Angel👼(3回目ルート)



はい…貴方が恋人です…

心変わりなんてしないほうがいいね。最初にこの選択肢を選んだときには恐怖のあまりセーブもせずにロードで逃げてしまったね。

🧀Cheesecake Hallucination👾(4回目ルート)

そうです。私が未来人です。(!?)
 そこから機転を効かせて立ち回っていく『彼女』がすこぶる優秀すぎる。
そしてこの世界線の"君"、お人好しなのに自分でお人好しとか言っちゃう上にちょいちょいキザなのが面白すぎる。

 両親のケンカとチーズケーキの話。客観的に考えればちょっと違和感を感じる話ではあるんですが、恐らく近しいことは実際にあったんだろうなーという実感が込められていて絶妙ですね。やはり良い嘘はちょっぴり実感という名の本当が混じっていないといけないですね。そこからカフェの話につながるのも綺麗です。実際にその通りだったらロマンチックで運命的だけど、両親の家におけるチーズケーキは『彼女』の心の比喩なんじゃないかなって思ってます。"君"からケーキを出されたのは恐らく本当のことでしょう。
 水質汚染の話は、現代日本だと仮定するなら、建築物の管理基準で定期的な水質検査を義務付けられているので、まず起こり得ない話だと思います。この発想に至った理由は直前に話したコーヒーや浮月橋の裏路地に流れる水のイメージが影響しているのかなと思います。後は歴史的な過去の公害事件の話。それにしてもこの『彼女』、口から出任せがうますぎるぞ。

 "いっそ何の解釈も与えず置いていられたほうが透明のままで居られる気がする"
あっ!!!こんなところにも重要なことが!!!!そして『彼女』もあの言葉を繰り返すんですね!「役名」という言葉が出てくるのも良き。関係性の全体像で決まる話。

 こうして幾度も繰り返しプレイすることで、繰り返される言葉が浮かび上がってくるのがとても好きです。私の私感を大きく含むのですが、物語の中で繰り返される言葉って、登場人物がどうしても伝えたい言葉や、あるいは作者がどうしても書きたい言葉だったりするんですよね。意識的な場合も無意識的な場合もあると思うんですが、それによってテーマがデッサンの線のようにくっきりしていく感じがします。…ハッ!?これが輪郭を与えるってコト!?

そして結局酒を飲ませている"君"くんさぁ…(笑)

 ハルシネーションって幻覚のことなんですね。そういえば序盤で幻覚と入力したときも緑系の色だったな…これも爽快感の高いグッドエンドですね。

🤎Rusty Caramel Cage🗑️󠁝󠁝(5回目ルート)



”会話で大事なのは、喋り方じゃなくて聞き方だよ?”

 自称トークが上手い人と誰とでも喋りやすい人を分ける境界線。
本題を早く話したい"君"と、会話を楽しみながらその間を探りたい『彼女』
世間一般で言われる頭の良さって、勉強ができることや解法をすぐ見つけることだったり、とにかく即断即決出来ることだったりしますよね。
 だけど、このルートの『彼女』と話していると、含みのありすぎる言い方から感じる底知れぬ地頭の良さとか、足るを知り満足しようとする精神的成熟度とか、なんだか結論を急いでいる"君"だったり、"君"を通してプレイしている自分自身の未熟さに気付かされるような感覚を覚えます。

 このルートでは、『彼女』の発言にある矛盾を突くのではなく、『彼女』が自分の発言にある矛盾を突く構図になっています。別ルートにおける地図の話の中で、『彼女』は「相手が知らないことを慮るのは難しい」と言い、"君"は「自分が気づいていないことに気づくのは難しい」ではないかと意見交換をしました。両方とも、考え方の起点が相手にあるか自分にあるかの違いで、どちらが正しいということはなく、同じものを論じているのではないかと思うのですが、この時の討論が構造上でリフレインされているような感覚にも陥りました。(似たもの同士な因果律だからなのかな?)

"あったかいキャラメルラテ"…あれ…?この話どこかで…?
恐らく本当にあった真相が違った描かれ方で表出しているのでしょうか…?
『彼女』をストーカーだと認識するルートでの接点は、何らかの飲み物を『彼女』にプレゼントしたという事実があって、それをもって一方的に好意を持たれるようになったという規定路線が結実しつつあります。

 此処から先の『彼女』の独白があまりにも好きすぎる…レッテル、世間、常識、言葉といった「定める」ことによって成り立つ社会からの脱却、その「自由」の選択肢を与えてくれたのは"君"という無慈悲な告白と、自分が他人からどう見られているか・思われているかを完璧に理解してそれを思うままに操る達者さ。他者との関係性においては、相手がそう思いたい通りに自分を捉えてくれるから、それらしく振る舞えばいい。生活という人質を守る世界の上では。

 "それなら、他人の言葉なんかから選ばないに越したことはないのにね"
言葉の意味なんて『彼女』の言う通りほんの少しで、本当は対して意味なんて無いのかも知れないと思わせる胡乱な言葉の応酬からは、『彼女』の大きな包み込むような愛情を感じて一緒に深い所へ堕ちていく感覚に陥ります。
ベランダにあったnull、私も欲しいな…目覚めた時皆生きているか不安になるのも、身に覚えを感じる…

 自分の中の世界を守るためには、自分より外の世界からは見えないように隠しておいたほうが良いのかも知れません。他の人から見えないものは気づかれないから。一輪のバラを大事にしないと。

決してハッピーではないけれど、一番味わい深くて大切なENDでした。

🤪Fool on the Sugar Board🍚🍬(6回目ルート)



 このルートに行き着くためのヒントとして、"女性と『彼女』に関係がある"を入力することによって表示される一文を手がかりになんとか入れました。(別回答による誘導ありがたい…!)

クズ男ルートだ~~~!!!!!
そうだよねあるよね!ハッピージャムセッションだものね!

 ここでも始まる『彼女』の自分語り(本屋編)ですが、こんな砂糖菓子のような看板娘が居るベンチ付きのゆったりできる本屋とか実在してたら絶対何かしらで話題になるだろなぁ…そしてバズって一時的に売上爆増するけど結局常連さんが落ち着ける店ではなくなっちゃうんだろうなぁ…そして"君"のこの知ったふうな共感皆無の同調…!!そりゃ刺されても仕方ないよね。
ここで出てくる小さな本屋のように、"ちょうどよい"ものってどんどん居場所を他のなにかに奪われているようにも感じますね。

"大抵の場合、他人は自分が想像するほど愚かじゃない"
けだし名言です。一生反芻すべき言葉だ…

 一つ前のルートでの地図のやり取りにも似た、"君"の思考(自分の範疇に当てはめる)と『彼女』の思考(他者の立場を想像し結論は出さない)が再び『彼女』の口から語られます。これが本当にこのゲームをプレイしていて最もぶっ刺さる内容で、あらゆるゲームはプレイするのに慣れれば慣れるほど、結論を出したがる癖がついちゃうんだと思うんです。自分はそれに気づいていると思っていたとしても、『彼女』の存在と発言でハッとさせられます。

 彼女の目的を入力する際に『彼女』がどうしたいかの目線に立ってあれこれ入力を試したのが面白かったです(そして大金持ちでNG喰らって笑った)
結果、推理小説などを読んでいない為に正答に結びつかなかったけれど、ヒントを一読したら正答までゲージを上げることが出来ました。
窮地に立たされた"君"の頭脳が活性化して、火事場の馬鹿力でギリッギリ乗り切っていく展開が最高でした。そしてロクでもない男相手に我慢して媚売ってくれてありがとう…

ボドゲ界における重ゲー筆頭アグリコラが登場して爆笑。
②次の一言で重いボードゲーム呼ばわりされてて更に爆笑。
③銀ノ江温泉にいる"彼女"からのLINEの返信で大爆笑。
("彼女"の喋り方も『彼女』に似た雰囲気があって良きですね。激重女同士の激重ボドゲ、4時間で決着ついたかなぁ…)

スカッとする終り方で短編映画を見てる気分になりました。ウェルメイド!
死んで治すほどでない程度の馬鹿でありたいですね。

👸🏻Higher Girl Pudding🍮(7回目ルート)

 三時間ほどルート探しでドツボに嵌り、ようやく見つけたルートです。
今日はここまでにしとくか~と休んだ翌日に、適当にセーブしていた入力画面(黒色の液体)から、この選択肢の突破方法なんだっけ?と適当に入力したところ解法を見つけるという珍事が発生しました。

クズ男ルートだ~~~!!!!!(2回目)
 
このルートでも『彼女』はあの言葉を言ってくれるんですね…
そして"君"が別の人物になる展開、面白すぎました。たしかに無限の可能性を考える中で、そんな関係性もありうるかな~と思ったフシはあったものの、そんなルートにまで応えてくれるんですね。涙がちょちょぎれちゃうな。

"私は私の世界を謳歌する"
 この言葉を単体で受け取っても十分すぎるほど良い言葉なんですが、他の因果律では他者との関係性を大事にして、また他の世界線では私の世界を完全に隠して、そうした世界との関わり方をして来た『彼女』が発することで、より決意が強い言葉だと感じます。

技の1号と力の2号の最高のタッグでした。
オチも即興花言葉も完璧。

ଘ 最後のルート ༊

"みんな、世界なんて見たいようにしか見れないし。”
自分の世界を分かってくれない孤独感や、分かったつもりになっている人たちへの失望。冒頭のラトゥールに始まり、Caramelエンドで詳細に語られたのですが、この一言が『彼女』の心境の深いところにある欲求のように感じました。意図的な言葉より、こうした不意の言葉にこそ、その人の本当に思っていることが含まれていると思ってしまいます。(これもまた私が見たいように見ているだけかもしれませんが…)

"そういえば、君と朝焼けを見たことがない気がしてさ"
好きすぎる。

ここから先の短い回想ラッシュを全てどの因果律だったかを記憶できてる人は本当にすごいと思います。私には出来ないや…出来ないけれど、そうした因果律の何枚ものカラフルな夜のフィルムをすべて重ねて、そこに光を通すことでようやく浮かび上がってくるのが『彼女』の輪郭なんだと思います。

"朝焼けは渡してあげられないけど もう少しだけお話しようかな、羽根なんて見えないって諦めるために"
詩的で美しくて悲しくて素敵な暁の一文。優しい否定形っていいですね。

「天使の羽根が空を飛ぶうちに白くなくなってしまう」
ならば「空が白だったらいいのに」
この比喩を"分かろうと"する一例として、私の解釈を書き置きます。

絵の具:色をつけるもの、意味を与えるもの→観念や定義、知識、レッテル
羽 根:可能性、自由→自分がそうありたいと思う、自分だけの世界
 空 :世界→関係性の全体像で決まる、私達をとりまく世界
天 使:何色にも染まらず、無垢で、自分の世界を謳歌する存在

空を飛ぶうちに染まっていってしまう世界だと理解はしても、
独りだけの世界なんてありえないと分かっていても、
そんな聡い『彼女』であっても…

最後の窓には、最初『 』空欄を書き込みました。
言葉にすればするほど野暮だから。(じゃあ上の解釈は何なんだ)
「思いつきうる安直な2つの答え」は、やっぱり入力する気になれなくて。
悩んで悩んで、そんな2つの答え(天使、好意)も真相じゃないと判断した上で入力して安心して、そしてずっとずっと『彼女』の口から繰り返されたあの言葉で、窓を割りました。


"私、死んじゃってもいいなって思えるの"
この一連の『彼女』の言葉が、とても深い所で共鳴しました。

朝焼けの先まで『彼女』が役名のない『彼女』で良かった。

BGM

作者のSCIKAさんご自身が手掛けるBGMも絶妙でとても印象深く、未だに脳内で反響します。踏破した後のエンディングもメロウでFuture Popな印象が耳に残りますね。最初のフレーズから全部音が上がらずに落ちていくのがズルい。流石Kawaii Future Mysteryだ…
日常会話パートのBGMが一番耳馴染みが良く好みなのですが、推理パートのツクタンタンタンタンタタン♪もクセになりますね。ドツボにハマっていく感じがゲームをプレイしている感覚と相まって相乗効果でより思考がぐるぐるする。優しい回想パートの穏やかなピアノが良い清涼剤でした。BGMにも色の名前ついてそうだな…ミントとか…(偏見)

印象的なワード等の振り返り

"疑問は疑問として輪郭を与えられてこそ"
ゲームのとっかかりになった言葉ですが、無意識から意識下に持っていくことで初めて人間は知覚するといった意味でしょうか。
説明文を読んで分かった気になっても、実際に触れてあーでもないこーでもないと試行錯誤しないと扱い方を習得できないのとかも同じ話かもしれません。

アクターネットワーク、"関係性の全体像"
戦後のヨーロッパが東洋思想に可能性を見出した時期があるのでその辺りからインスピレーションをもらった話だと思うんですが、初めて聞く単語だけれど、かなり頷ける話だったので面白かったです。①でユングや阿頼耶識的な話を挙げてしまったのでその話を引き継いで言うなら、人々の潜在意識は目に見えないけれど実は繋がって影響しあっているというやつも近いかもしれません。何かの社会実験で、すでに周知のクロスワードの答えと未発表の答えを全く知らない被験者にやらせると、前者のほうが正答率が高くなるという実験があったような…(デマだったら笑いものになっちゃいますが)

因果律
演出や一文も含めてペルソナやシュタゲを思い出しました(好き

朝焼け、明日
彼女』にとっての朝焼けは「きっと何色かに染まってしまう」こと、朝焼けを渡さないとは「『彼女』を何色かに染めてしまう」ことを指していて、それが嫌だったのかな。透明な嵐に巻き込まれないようにしたいですね。

足音が鳴らない理由
自分の中でこうかな?という答えが結局出ませんでしたがその方が健康にいい。
足音を鳴らさない理由なら→相手("君")が病人だからという思いやり?
足音が鳴らないとするなら→やっぱり『彼女』は存在しないんじゃ?

窓ガラス
既にある概念を使ったほうが楽だからというだけの理由で第四の壁という言葉を使うのは安易なようにも感じるので、別の切り口から書いていきます。

 イプセンの『野鴨』やそれからインスピレーションを得たチェーホフの『かもめ』など、近代以降の戯曲や文学には象徴主義として表題に明記された名詞が複層的な意味を示す作品が多々あります。
 また、『Dear Evan Hansen』というミュージカルの最序盤のソロ曲「Waving through a Window」では、社会不安症を抱え、学校にも家族にも心を開けずにいる主人公が孤独な心情を吐露する歌詞の中で、"Cause I'm tap, tap, tapping on the glass." と歌います。直訳では「ガラス面を叩く」であり、心理的な他者との隔壁としての窓を叩くという意味を持ちますが、同時に「スマホをタップする」というニュアンスも含まれ、これもまた孤独を想起させる表現となります。

 最後のルートで『彼女』は窓という言葉をこのように使います。
"私の窓にヒビを入れちゃったんだね"
"君の言葉を書き込む窓をあげる"

これらを踏まえると、『彼女』が指し示す"窓"は1つの言葉で言い表されるものではないように感じます。

Inverted Angelにおける窓には例えば、以下の解釈が含まれると思います。
 1.部屋に据え付けられた窓ガラスとしての窓
 2.インターホンの表示としての窓(ウインドウ)
 3.『彼女』の本心と表層を仕切るものとしての窓
 4.入力スペースとしての窓(ウインドウ)

 あるいは、Inverted AngelがInvernet Angelのもじりのように感じることをここで思い出すと、ゲーム(ウィンドウ)という閉じられた枠組からの開放と受け取ることもできるのかも知れません。
ガラスが飛び散らなかった窓の外は何色でもない光に満ちていたのだから。

 勝手に分かったような気になってるだけというのは重々承知の上で、
このゲームは自分が見たい世界しか見ようとしない俺たちに対して、
全て分かったような気になって、好きな色にだけ染まって、それでいいの?

という一石を投じる、ある意味でアンチゲームな作品として味わいました。
価値観を揺るがしてくれる作品は本当に貴重で大好きです。

私はそれがとても心地よかったし、『彼女』と沢山話せてよかった。
正解もなく0か1かに決められず、だいたいのニュアンスで話せてよかった。
言葉よりも行為を、答えよりも心を大事にできてよかった。
"死んじゃってもいいなって思える"瞬間を共有できて本当によかった。


追加ルートもいずれ実装されるということで、また『彼女』とハッピートークセッションをすることを心から楽しみにしています!



ああ、またこうして美しい余白を文字で埋め尽くしてしまうのだった……


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