「成瀬は天下を取りにいく」が映像化されたらAlvvaysの『Blue Rev』を主題歌にしてほしい
「成瀬は天下を取りにいく」は宮島 未奈氏が2023年に発表した小説で、その年大きな話題となり2024年本屋大賞も受賞したヒット作だ。
舞台は滋賀県の大津市にある膳所(ぜぜ)という場所で、実際の場所やお店などをモデルにしている。どうやら、作者の宮島氏が住んでいて、そのまま地元を舞台に小説を書いたらしい。
続編の「成瀬は信じた道をいく」も今年発売されている。
タイトルにもある主人公の成瀬あかりは滋賀県大津市の膳所に住む、勉強もできて器用に何でもできるスーパー中学生だ。ただ、髪の伸びる早さの実験で丸坊主にしたり、200歳まで生きると言ったり少し変わった性格である。
物語は彼女の周りの人物の視点で進む。
幼馴染の島崎みゆき、高校で同じクラスになった大貫かえで、部活の大会で大津に来ていた西浦航一郎、大阪の会社で働くサラリーマンの敬太。
彼ら彼女らは、成瀬とは対照的に極めて人間臭いキャラばかりだ。
幼馴染の島崎は成瀬との関係は好きだけど、周りからの目が気になってしまう。
同世代が結婚し子どもができて人生を順調に進めてることに劣等感を感じる敬太。
スクールカーストに囚われて、いつもいじめの対象にらならないことを気にして生きる大貫かえで。
かるた大会で成瀬に一目惚れしてしまう西浦。
成瀬の人間離れしたキャラとは対照的な彼ら彼女らの気持ちに多くの人が共感できるはずだ。
この作品の特徴は、とにかく西武大津店、膳所、ときめき坂、オーミー大津テラスといったローカルの固有名詞がたくさん出てくるところだ。実際の地名などを扱っているから読み手としてもイメージがつきやすく、親しみも持ちやすい。
実際に聖地巡礼をされている方の記事もあるので、本を読んだことがある人は是非見て欲しい。
あのお店も実際にあるんだと驚きがある。
成瀬と周囲の人のそれぞれの物語が交差していく中で、彼女のナチュラルで真っ直ぐなキャラに読者は必ずファンになってしまうだろう。
物語の最後には、超人のような成瀬の、人間的な感情を垣間見ることができ、温かい気持ちにさせてくれる。
この本を読み終えた時の気持ちを、村井理子さんが帯のコメントで端的に表現してくれていた。
2023年、この「成瀬は天下を取りにいく」に夢中になっていたのと同時に、夢中で聴いていた音楽がある。それはカナダのインディーバンド、Alvvaysである。
2011年にデビューして以来、2枚のアルバムを出していたAlvvaysは、2022年に3rdアルバム『Blue Rev』をリリース。収録曲「Belinda Says」がグラミー賞にノミネートされるなど名盤と呼べる素晴らしいアルバムだ。
前2作にあるドリーミーで浮遊感のあるサウンドに加えて、よりシューゲイズっぽくノイジーなギター、ギターポップ特有の疾走感のある曲が今作の特徴だ。
アルバムを聴き終えた後の爽快感は、「成瀬は天下を取りにいく」を読み終えたそれと近い。
Alvvaysどこか青くキラキラしたサウンドが、太陽が反射する琵琶湖や、成瀬の突き進む勢い、彼女達の青春とリンクしてくる。
いつか大津に行って『Blue Rev』を聴きながら聖地巡りをしてみたい。きっとまた突拍子のないことを思いついた成瀬の姿が見えるかもしれない。
おそらく「成瀬は天下を取りにいく」は続編含め、実写として映画化されるか、アニメ化されるはずだ。その時はAlvvaysの『Blue Rev』から主題歌を抜擢して欲しい。
でも、きっと映像化されたら主題歌は羊文学になるだろう。