公園の砂をさわりながら、もう会えないあの人を想う
あぁ、もう夏も終わってしまうんだな。
暑さや、じめじめと湿った空気はまだまだ続くと思うが、カレンダーの記号上ではもう夏も終わりになる。
夏の終わりになると必ず行う、私には定例行事がある。
これを行いはじめて、もう何年になってしまうのだろう。
スマホのYouTubeを立ち上げて、登録チャンネルから彼の名前をひろい上げる。チャンネルを開いて、曲名を探して、再生ボタンをクリックする。
曲の再生が始まる。
『今年もまた来たよ』
◇
私が初めてフジファブリックを知ったのは、『夜汽車』という曲を偶然聴いてからだった。
こんなに【滔々と歌をうたう人】は初めてだった。当時、色んな事に疲れきっていた私の心にしっとりと染み込んできた。
志村さんは不思議な人だった。いつも悲しそうに歌っているようにも見えた。それが明るい曲でも、暗い曲でも。
そんな彼のスタンスが心地よくて、私はフジファブリックの曲を貪るように聴くようになった。
終わりゆく恋に焦燥感を抱いた時も、新しい仕事への揺らぎを抑えられない時も、どうしようもない怒りで自分が焦げ付いてしまった時も。
いつも、いつだって彼は一定のトーンで滔々と歌を聴かせてくれた。
私は、彼と何年もの間、一緒に季節を過ごした。
◇
ある日、彼が一曲の新曲を書き上げた。
タイトルは【若者のすべて】
はじめは『へー、新曲出たんだ』位の気持ちだった。
再生ボタンを押して曲が流れる。
なんだか、どう形容していいのかわからない気持ちになった。
幸せな気持ちなのか、切ない気持ちなのか、泣きそうな程悲しいのか。
感想を言われても、おそらく何も答えられないような気持ちを抱きながら、この曲の不思議な吸引力に心が引っ張られていった。
◇
彼の訃報を聞いた(見た)のは【JAPAN COUNTDOWN TV】という音楽番組を見ていた時だった。テレビ画面の中に、突然無機質な文字が現れた。
何の気なしにテレビを見ていた私は、一瞬時が止まった。そしてすぐに画面を食い入るように見つめた。
何回文字を往復しても同じ事が書いてあった。私はそれで志村さんがいなくなってしまった事を知った。
◇
今年も夏の暑さは私から気力と体力を奪っていく。
外で遊びたいとせがむ甥っ子と姪っ子に、『夕方だったらいいよ』と妥協案を提示し、許可がおりたので夕暮れになってから公園に繰り出した。
皆考えることは一緒みたいで、公園につくとたくさんの子供達があちこち走り回っていた。
姪っ子はそこでお友達を見つけて、その子と遊びだす。甥っ子はまだ小さいので、私と一緒に小さな砂場で山を作る。
公園にそびえ立った拡声器から『夕方5時のチャイム』が鳴り響いた。
私は背中でそれを聴く。砂場で無心に山を作りながら。
『志村さん、また来年も行くよ』
私は山の向こう側にいる甥っ子に聞こえないように小さく呟いた。