特定就職困難者は、今日も荒れ野で泣き叫ぶ
-BBAサバイバル13-
公的機関の、横並びの門前払いですっかり意気消沈した後、ようやく気を取り直して、またハローワークに行く。「あちら方面は、取り付く島なしなのね」と言うことが分かっただけでも、良い勉強になった、ということにしておこう。
ところで、「特定求職困難者雇用開発助成金」と言うものがある。高齢者、シングルマザー、障害者を雇用した事業主には、助成金を支給される。要するに、給料の一部を肩代わりする仕組み。困難さの程度によって、年間30万から3年間で240万まで。
ずいぶん失敬な話だと思っていたが、ここまで邪魔者にされると、なんでもいいから縋りたい。
面接にもだいぶ慣れてきて、正確に言うと、面接で落とされるのにも慣れてきて、ダメージを最小限にとどめるよう心掛けるようになった。要するに、期待しないことである。
かつて、面接は連戦連勝だった。最初の就職先は、学生の人気ランキング4位の会社だった。優秀な学生だったわけもなく、顔採用は最もあり得ない。次の就職先も、その次も、面接で悔しい思いをしたことがない。が、今にして思う。若さと言う途方もない高下駄を履いていたのだ。
もう、永久に手に入らない。
無い物ねだりをしても時間の無駄だ。今できることをしよう。
そう、このリーフレット、いただけないだろうか。プリンターで印刷することはできるが、カラーインクが無くなりかけだし、こんなにスベスベした紙じゃない。
幸運にも面接までこぎつけ、脈ありかな、と言う場合、このリーフレットを取り出すと、かなりな確率で驚きの表情と、隠しきれない「のどから手」の相まった、複雑なご面相を観察できる。面接時間が延びるとか、再度来社乞うなど、今一歩ではあるが、霊験あらたかな手応えを感じていた。
何枚かの紹介状の交付を受け、面接予約もポチポチ。本日の担当者は「竹」と「梅」の中間くらいか。ほとんど言葉を交わすこともなく、早く切り上げたがっている。余りにも素っ気ないので、人間かどうか試してみた。
「こちらに勤めて、どのくらいですか? 私も先日応募したんですけど、落とされちゃって」
「プライベートなご質問にはお答えできません」ロボットじゃなかった。
「このリーフレット、少し貰えないですかね」
「上の者に聞いてきます」
「差し上げられないそうです」
「どうして貰えないんでしょうか。こうした制度をご存じない事業主さんもたくさんいらっしゃるし、ちょっとひと押し、な感じで助かるんですけど」
担当者が変わった。返事は同じだった。みみずも、さっきと同じ説明を繰り返す。渡せない理由は、事業主が勘違いすると困るからだそうである。勘違いしないように、リーフレットがあるんじゃないのか?
意味不明の国会答弁を聞いているようだ。お役所の職階の仕組みは知らないが、パート職員ばかりの中で、権限のある人なんでしょうね。30代半ばくらいか、仕事をイヤイヤやっている人の顔だ。相手の目をきちんと見ない。「このババア、早く追い出したい」心の内が丸見えだ。
紙一枚(いや、数枚)なんで渡せないのか。この制度は、国として、心ある事業主及び、就職困難者の就職を支援しようとするものではないのか。広報活動が十分でないとは言わないが、知らずに不利益を被っている人がいるかもしれないのを、ハローワークの職員に代わってリーフレットを手渡しするのに、何の不都合があるのか。
押し問答をするうち、先日の不採用通知は、こいつの仕業だな、と確信した。終始一貫、理屈にもならない言い訳を並べるのにあきれ果て、途中からボイスレコーダーをONにしておいたスマホを、さりげなくカウンターの片隅に置いた。
念のため、先ほど来繰り返されてきた意味不明答弁を復唱する。
「このようにおっしゃいました。間違いありませんね」
さっきまで、あれほど高飛車で、暴言三昧だったのが、急に静かになった。
「えっ? 聞こえませんけど」
蚊の鳴くような声から、最後に無言になった。
なんだか、こっちまで情けなくなって、帰り道、空を見上げながら自転車を引きずっていった。