【小説】トップシークレット☆ ~お嬢さま会長は新米秘書に初恋をささげる~ 第3章
第3章 秘密の格差恋愛
会長としてすべきこと
「――絢乃さん、すみません」
せっかくやっとのことで想いが通じ合ったと思ったら、貢は突然わたしに謝った。
「ん……? 『すみません』って何が?」
わたしは彼から体を離すと、首を傾げながら彼の顔を覗き込んだ。理由も分からずに謝られても、一体何のことやらさっぱり分からない。
「いえ、あの……。もしかしたら僕は、絢乃さんが僕よりもっといい男性と出会う機会を奪ってしまったんじゃないかと思いまして」
「そんなこと、あるわけないじゃない! さっきも言ったでしょ? 貴方が初恋の相手でよかったって。貴方よりいい男性なんて、これから先も絶対に現れないから」
わたしは胸を張って断言した。
もしもあの夜、彼ではなく別の若い男性と知り合っていたら、わたしはきっとその人とは恋に落ちなかったはずだ。彼だったから、わたしは惹かれたのだ。これだけは紛れもない事実だった。
「そ……そうですよね。ハイ。……よかった」
彼はわたしの口からちゃんと聞けたことで、やっと安心したようだった。
「……実はね、わたしも昨夜、里歩に電話したの。あのことで相談に乗ってほしくて」
「えっ、そうなんですか?」
「うん」
貢は驚いていた。彼が悠さんに相談していたように、わたしも親友である彼女を頼っていたことが分かったからだろう。
「だからね、さっき『あ、この人もわたしと同じなんだ』って思ったの」
「そうですか……。そりゃ同じですよ。僕だってあなたと同じ人間ですから。ただ年上というだけで、まだまだ人として半人前なんですよ」
そんなことはわたしもよく分かっている。彼がそんなにできた人じゃないことくらい、百も承知だ。だからこそ、わたしは彼のことを放っておけないくらい愛おしいんだもの。
「うん、知ってるよ」
だから、わたしはもう一度自分から彼にキスをした。
「――ところで桐島さん。ひとつ、貴方に念押ししておかなきゃいけないことがあるんだけど」
「はい。何でしょうか?」
これはわたしたちカップルにとって、すごく大事な話だった。他の人が聞いたら、そんなに大事なことではなかったかもしれないけれど。
「わたしたちが付き合い始めること、社内では秘密にしておきたいの。そのことを貴方も了承しておいてほしくて」
別に、わたしと彼との関係は不倫でも何でもないし、法に触れるわけでもなかったのだけれど。前にわたし自身が気にしていたことを、彼にも打ち明けた。
「今のところ、このことを知ってるのはママと里歩だけなんだけど。二人は口が堅いから問題ないの。――でも、他の人たちもそこまで信用していいかどうかはちょっと自信がなくて」
「そうですよね……。今はマスコミやメディアだけじゃなく、どこの誰でも気軽に情報を発信できる時代ですからね。ましてや、絢乃さんは僕と違ってセレブですから。社員が何気なくSNSで発信した情報が、どこからマスコミに流れるか分かりませんもんね」
「〝僕と違って〟は余計だけど。余計な噂流されたり、冷やかされたりしたら貴方だって仕事がしにくくなるでしょ? だから、オフィス内ではなるべく恋愛モードは封印するようにしましょう」
わが社の女性社員たちは噂好きなのだ。特に、彼が所属している秘書室のお姉さま方は業務に関する守秘義務こそ守るけれど、それ以外の男女問題などに敏いときている。
彼女たち(男性もいるけれど)を信用していないわけではないのだけれど、念には念を入れて、ということだった。
「そうですね。分かりました」
――よくよく考えれば、この会話だって社内の他の人に聞かれれば危うい内容で、わたしたちはこれだけでも危ない橋を渡っていたと思うのだけれど。幸いにも、この間は誰ひとりこの部屋を訪ねてこなかった。
「わたし、貴方にはこれ以上傷付いてほしくないの。今の部署に異動する前にもつらい思いをしてたみたいだし。――あ、そうだ! 桐島さん、ちょっと来て」
「……はあ」
わたしはそこまで言うと、彼を再び応接スペースに呼んだ。
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