ゆるやかに、大らかに、自分のペースを守る生き方 『大家さんと僕』 #620
「どうせなら、かっこいいおばあちゃんになりたいよね」
友人とそう語り合っていたのですが、『大家さんと僕』を読んで、「かわいいおばあちゃんも捨てがたい……。なれるかどうかは置いといて」と思ってしまいました。
『大家さんと僕』は、お笑い芸人の矢部太郎さんが、自身が住む家の大家さんとの交流を8コママンガにしたものです。矢部さんはこの作品で第22回手塚治虫文化賞短編賞を受賞。続編の『大家さんと僕 これから』、番外編の『「大家さんと僕」と僕』も発売されています。
「大家さん」は、87歳のおばあさん。矢部さんの住むアパートの1階でひとり暮らしをされています。本が出版された後、2018年にお亡くなりになりました。
マンガに登場するおばあさんは、いちおうフィクションだそうですが、出版のきっかけになったのは、知り合いのマンガ家さんが、実際に矢部さんと大家さんがホテルでお茶しているところを見かけたからだそう。
マンガのまんまやん!
そう感じてしまうくらい、大家さんと密に交流されています。わたしも長い間ひとり暮らしをしていたけれど、大家さんと会うことなんてほとんどなかった……。
ふたりでお茶をしたり、お誕生日を祝ってもらったり。時間軸が若者世代とは違うんだなーと感じるエピソードがいっぱいです。「若者」っていっても、矢部さんも30代後半だったようですが。
いわゆる「ていねいな暮らし」そのものを実践している大家さん。戦争の記憶、亡くなった夫の思い出、そして今日この瞬間を生きていることの喜び。
年の差のある「友人」の言葉を聞くとき、ちょっと斜に構えてしまうことがあると思います。でも、矢部さんは言葉通りに受け取るんですよね。茶化すでもなく、冷笑するでもなく。そしてちょっとアタフタしてしまう。この目線こそ、おばあちゃんの温もりを伝えてくれていたなと感じます。
友人のひとりは「意地悪ばあちゃんがいいな」と言っていて、それもおもしろいかもと思っていたけれど。
大家さんみたいに、ゆるやかに、大らかに、自分のペースを守る生き方が一番かもしれない。