【わたしのこと】手術前日、リモコンを持ってうろつく
とりあえず心の準備はできた。
入院前日は、「行ってきます」と笑顔で伝えて会社を出た。「行ってらっしゃい」と送り出してくれた。
【わたしのこと】手術が怖いんじゃない。本当の怖さは自分にある。|なな https://note.com/3337777/n/n386baa4ae547
できる限りの引き継ぎも、心の準備もできた。
以前の手術と違い、後ろめたさと「逃避」の感覚なく迎えられる入院日。
朝イチで病院に行く。
入院窓口で説明を受け、あとは手術の準備。
最終の検査に、リスクの説明。
思ったよりハードスケジュールで時間がない。
新人の看護師さんがついたので、隣に指導役の看護師がいる。入院説明をするときに目の前で指導を受けている姿にちょっと自分までダメージを受けた。
「麻酔で死亡の可能性、いかなる結果にも異議申し立てはしない。」今度は担当医と麻酔医の説明。
おどろおどろしい文章が並ぶ。
麻酔の事前検査では、腰のレントゲン撮影も行った。歩行障害でからだに歪みがあるので、わたしの背骨にも歪みがある。背中からの麻酔が可能かどうか判断するための撮影と検査。
大丈夫だった。
わたしの背骨はまだ手術に耐えられるのだ。
朝から夕方までかかってやっと検査と説明が終わる。入院は約10日間の予定。
テレビは使用しないことにした。パソコンを持ち込んでいるし、スマホもある。
朝からの絶食。空腹感と戦いながらも、やっと夕方にはベッドで落ち着く。
今日寝て明日起きたら朝一番で手術だ。
腫瘍の数が多く、正確な数を把握できていないため、時間がかかることを見越しての順番。
疲れが先に来て、あまり深く考えられない。
すっかり夜になった頃、わたしの自宅に待機している母から連絡が入る。
当日の付き添いは断ったが、母は使命感に駆られていた。心配か励ましか?
「うたコンがみたいんだけど」
「ななちゃんの家のテレビの操作方法がわからない」
このタイミングで!? と思う。
テレビの電源はつけられたが、BSになっていてそこからどう操作したら良いのかわからないという。
LINEのやり取りでは要領がつかめない。
無意識にやっているリモコン操作の説明の文章化もやっているややこしい。
思わず通話可能エリアで、病室のリモコン片手に電話をかける。家のリモコンのボタン配置を思い出しながら説明する。
看護師さんが来たら恥ずかしい。思わず隠す。
試行錯誤の結果、「あー、今サラメシ映った!よかった間に合った、じゃあね。ゆっくりね」と言われ通話は終わった。
ゆっくりできなかった。
わたしはこんな廊下でリモコンもって、手術前夜に何をやっているんだろう。
とぼとぼ病室まで帰る。
明日から数日は、今日みたいに動けなくなる。
今の状態のわりかしきれいなお腹ともさようなら。
メスが入るであろう部分をさする。
一体どんな状態になるんだろう?
ちょっとセンチメンタルになりながらも、母の無神経さに思いをはせる。
イライラしているのか呆れているのか。それともちょっと情けなくて笑えてくるのか。
いろんな感情がごちゃまぜになる。
午後10時完全消灯の非日常は、もう始まっていた。
母は久しぶりに泊まる娘の部屋で、歌をつまみにビールを飲むらしい。
お互いの「非日常」がそれぞれの場所にあった。
その日はいつもよりさらさらしたベッドでいつもの時間に寝た。特に夢は見なかった。