2022年に読んだおすすめ本44冊
2022年に読んだ本の中でのおすすめを、自身が関心を持った時系列で紹介します。ビジネス書っぽいビジネス書はあまり無いですが、実務上での問題や疑問を解決するためにたどり着いた書籍が多いので、実務者に普段の角度とは違った点から参考になる書籍が多いと思います。
生かされている
『なぜか宇宙はちょうどいい: この世界を創った奇跡のパラメータ22』が2022年のハイライト。生命、人間は生かされているのである。
全社戦略
入社した会社にて、事業戦略と全社戦略を作りました。全社戦略を事業戦略と分けて会社のトップとして考えるというのは初めての経験で、インプットしなおしました。事業戦略だとやはり「市場」が論点ですが、全社戦略の場合自分の会社をどのように捉えるかが出発点になることから考えるのがアンラーニングであった。
一言で書くと、「どんな会社にもコア事業があり、そのコア事業の中に新しい事業のヒントが隠されているのでそれを見つけよう」。比較的古い本だが、思考のプロセスが整理されている。
どちらも戦略コンサルティングファームが記した本で、学術的にはどのような議論・整理がされているかを確かめようと思い、手に取ったのがこちら。
他にも「欧州」の経営学者が記した「企業(全社)戦略」のテキストを手にとってみようとしたものの、そもそも「企業(全社)戦略」に焦点を当てたテキストは少ないかつ欧州の人の議論は日本ではあまり紹介されていないように思った。その中でで、全社戦略に絞って元BCGのコンサルタントが解説した本書は論点を整理するのに重宝。
経営学における存在論と認識論
自社を捉えるためには、経営者の能力にかかっていることから、自分の「認知」の方法をメタ認知したいと思い、「経営者×認知」で探して見つけたのがこちらの修士論文。
元の理論は、「エフェクチュエーション(Effectuation)」。
経営学の研究において、どのように世界を認識しているのかを整理しようと理解しようと手に取った本。経営学の研究の方法論を整理した本であるが、とにかく強調しているのは「マネジメント研究の場合には、存在論・認識論的立場に立脚した研究方法の選択は必須」であること。経営学者の頭の中を覗ける良書。
経営者の能力の解像度をあげようとたどり着いた最新の戦略論。
「ケイパビリティ」でググっていたところ見つけた言葉「ネガティブ・ケイパビリティ」
フランス現代思想
そもそも現実をどう認識しているだろうか?という学問的な立ち位置。社会構成主義。
「複雑な事象をどう複雑に捉えるのか?」の方法論に興味を持ち、フランス現代思想に行き着く。
分かりやすいと表現してはダメだとは思うが、分かりやすかった。約10年前に東浩紀氏『存在論的、郵便的―ジャック・デリダについて』に躓いて以来の挑戦。
時系列でフランス現代思想がどう変遷したかを記述。時代の流れが分かって良き。
他にも、人間に意志なんで存在するのか?(マネジメントの現場において、成長する意志はあるの?みたいなやり取りは多いと思うが、自分は昔から仕事で「成長」したいと思うことがほとんどなく疑問だった)
この辺で最近の哲学や思想の関心事は概ね似たような感じでは?と思い、そんなことを書いている本が無いかと探したらピンポイントであった。この「Xを考えるために、Xではない何かを考える」ことは最近の日本の哲学では多いことみたい。特に自由のために不自由を考えること。
社会学
「複雑なものを複雑なまま理解する」の延長で社会学についても本を読み進める。
こちらも社会学の入門書。理論がどう発展したかの経緯を記述することで、社会学を説明しようとするアプローチ。
宮台真司氏が社会システム論を経営者に向けた書いた本。
哲学
「正しい合理化」のために、「合理性の認識」のアップデートをするための
ケア、公正についても多くを考えた。正義論とケアがどう交差するかはこの書籍がうまく整理していた。ケアに関する書籍は多いが、「正義とケア」をテーマに時間軸で整理することで、ケアの倫理が提示する論点を立体的に描き出した良書。
この辺を踏まえて人との話し方を大きく変えようと奮闘中。メタファシリテーションという手法で、途上国支援を通じて体系化されたもの。「事実のみを質問する」という極めてシンプルな方法ながら、難しい。自分に奢りがあったり、自分が知識を伝えたいと思ったり、相手が悪いと思った途端に、「事実を質問する」という当たり前のことができなくなる。
「社会構成主義」を基盤にした組織論のビジネス書が改めて多いと感じる。過去にベストセラーになったこの本もその文脈。
現象学を通じて職場を理解しようとする試みも。
人事戦略論、日本的雇用システム
会社の人事制度がまだ無いので、策定することにしました。結果疑問の嵐でした。なぜ年齢が上がると賃金があがるのか?ジョブ型ってそんなにいい制度なのか?なぜ定年で退職するのか?等々
まず手に取ったのが経営戦略と人事戦略の理論的交差点を解説したもの。特に「制度」の枠組みで日本の人事戦略の特性を捉えようとし、説得力がある。コンサルタントが「戦略」人事と言って概念を売り込むことは多いが、経営学の議論の延長からくる戦略人事論は実務の世界ではあまり見ないのかなと思うなど。
同著者による日本型人事戦略の変化を実証的に検証したもの。タイトルに「補完」とあるが、社会の変化を捉える上で、「補完」という言葉の強さを感じ取った本。
日本企業での人事変革の方向性を、欧州との実情を踏まながらその方向性を解説した良書。入門書としておすすめ。
日本的雇用システムがどのような歴史的経緯で成立したかを各時代を代表する書籍と著者との往復書簡で解説を試みる野心的な書籍。日本の全経営者・人事担当者必読の本。日本社会論としても読める。
ここから、日本社会の特徴をより歴史的に、多角的に捉えようと書籍・論文を漁る。
日本社会の記述に加えて、アメリカとドイツでどのようにジョブ型が成立したかを丁寧に記載。(おそらく)日本のビジネスパーソンはアメリカの経営者は「合理的に」ジョブ型を選択したと思っているかもしれないが、実情は違う。経営に制約をもたらすために、労働者が勝ち取った権利である。無理な働き方をできないよに、雇用契約に具体的な職務内容の記載を求めるようになったのが実情である。これは自分にとって衝撃的だった。
雇用契約の内容から、メンバーシップ型とジョブ型という要素を抽出し、日本型雇用システムの特徴を論じた名著。「ジョブ型」の誤用を指摘。「ジョブ型」の意味を正しく理解したい人がまず手にとるべき一冊。
なぜ、日本社会では働きづらく、子供を産みにくいのかを多様なデータと国際社会から明らかにしたもの。各国の特徴の捉え方として「工業化の過程はだいたいどこの先進国も同じ。ポスト工業社会となり経済が低迷する中で、各国の取った施策がそれぞれ異なり、それが今の状況を作っている。」今の日本の言論はだいたい「日本オワタ->(ここからすごい飛躍し)(狭義の、立憲主義的思想が無い国の)民主主義オワタ」となっているが、ポスト工業社会の先進国はどこも苦労している。
人材育成や雇用管理の国際比較を行った書籍としてはこちら。日本は「「ジェネラリスト」に偏っているので「スペシャリスト」を育成しよう」の議論がいかに浅はかであるかを痛感。将来経営を担う人は、ジョブ型の欧米であれ、みなジョブローテンションをさせられ、色んな国に派遣され、ジェネラリストとなっていく。では、その中で日本の雇用システムの特徴は何かを明らかにしている。
再帰的保守、リベラル保守
社会学者の北田氏が宮台真司氏に質問をし、実質的な宮台真司論になっていて面白い。
東浩紀氏の『一般意志2.0』を大学1年で読んで以来あまり読めていなかったが論文や書籍を読み直す。
本書で主張されている「再帰的保守」という概念にたどり着く。
そこから「リベラル保守」となり、宮台真司氏が回帰したように、「アジア主義」をもう一度考えみようと手に取る。
もう一度「保守」と「リベラル」を正確に理解しようと手に取る。
日本でなぜ長年「保守」党が政権にあるのか、野党が弱いのかの理解の助けになった。
これ以上紹介すると終わらないのでこの辺にするが他にも現代社会を理解する良い書籍と出会えました。
次の1年の好奇心
1)経営者の能力はどのように構成され、どのように鍛えることができるのか?
ダイナミック・ケイパビリティの話は、必然と経営者及びミドルマネージャーがそのような認知能力をどう有するのかという問題に結びつく。ヘルファットとペトラフが「ダイナミック・マネジリアル・ケイパビリティ」と名付けて研究を進めている。うまく自分の能力向上と結びつけたい。
学術的な議論ではないが、BCG日本代表の御立尚資氏の書籍は、経営知識を「使う力」を分解・説明していて面白い視点だった。
2)日本の社会保障制度はどのように進展するか? 福祉国家論の後発性をどのように克服するか?
「働き方」を各国がどのように形成してきたかについてはかなり理解が深まったものの、それが各社会保障制度とどのように結びついているのかはまだ理解が浅く深めたい。特に「福祉国家論」から、日本の後発性、東アジア各国がどうその後発性を克服しようとしているか、そこに新たな連帯を作れるのかはテーマとしたい。これに絡めて「財政社会学」にも射程を広げ、日本社会のビジョンを自身の言葉で語れるようになりたい。
3)歴史からの理論を創造する方法論
過去にモバイルペイメント事業に携わった時に、今の状態にどのような時系列になったかを調べたのだが、中国のような発展の仕方は絶対しないと思っていた。アメリカとも違う。日本独自の発展をすると思っていたが、まあまあ当たっていたと思う。この歴史から理論を作るという方法論を学術の世界から学び、実践で使える方法論に仕上げたい。