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140字小説まとめ8

2022.08〜2023.01

新たに打ち上げる探査船の名は白鳩しらはとと言った。その前は希望で、もうひとつ前は未来。ノアが放った鳩のように、せめて一葉ひとは、人が住める星の痕跡が見つかりますようにと名付けられた。本当はもう誰もが無駄な足掻きと知っているのに。欺瞞の鳩が帰るべき大地は、膨れた太陽に飲み込まれて間もなく消える。

#深夜の真剣140字60分一本勝負 
お題『①打ち上げる②葉③欺瞞』

夏の終わりのカキ氷を口に含むと体の芯がツンと痛んだ。氷が溶けるたび、この家で冷え固まった記憶も砕いて消えればいいのにと願う。ジャージ姿で膝を抱えたいつかの私が、暗い瞳で「馬鹿だね」と笑っている。引越しの荷物にカキ氷機は入らない。見送ろうとするジャージの私に、一人で平気と強がった。

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お題『ジャージ、馬鹿だね、カキ氷』

肌寒くなってきたので衣替えをする。寒暖の皮膚感覚が壊れている彼女に、箪笥から出したカーディガンをかぶせた。
「もう冬?」
「秋だよ、まだ」
そうかあ、と袖を通す彼女の皮膚は汗をかくことも鳥肌が立つこともない。冬には手袋を、春には薄い靴下を手渡し、僕は壊れた君を次の季節へ連れていく。

あったらノベルズ@attaranovels
中埜さくら著『季節かわれない君と』

彼の目の造作の美しいのが好きだった。じっと覗き込むと水面の月のように潤んで、ふるえる睫毛に閉ざされてしまう。喧嘩をした朝も、分かり合えない夜も、その目に見つめられれば許してしまえた。それなのに今夜、彼はアイマスクに月を隠し、不機嫌なまま眠ってしまった。雨月うげつの孤独に別れを滲ませて。

#深夜の真剣140字60分一本勝負 
お題『①雨月②分かり合えない③アイマスク』

彼女と喧嘩した翌朝、目覚めたら彼女が消えていた。キッチンの鍋には湯気のたった味噌汁。リビングのTVは無人のスタジオを映している。異変を感じ外に出れば、乗り手を失い衝突した車の群れに道を阻まれた。消えた。人が。彼女が。朝ごはんと、言えなかった昨日のごめんと、馬鹿な俺を置き去りにして。

あったらノベルズ@attaranovels
吉田優太著『あつあつの朝ごはんと、昨日のごめん。』

しょうがない、愛してしまったから。私はずっと『特別な子』だった。仲間のいない孤独を癒やしてくれたのが彼だ。私は彼と子を成す。それが純血の人類の絶滅を意味するとしても。彼らテレパスに通信手段は不要だから、この宛のない告白が最後の手紙になるだろう。迷いに封をし、私は同化する。愛故に。

あったらノベルズ@attaranovels
滝麻子著『人類最後の手紙』

十八の秋、コインの裏表で行先を決めて旅に出て、それきり生家には帰っていない。食べる物にも寝床にも不自由しない生活は、ただ自由だけがなかったから。日雇い労働に身を打たれ、仰いだ夕焼け空には鳥が群れて飛んでいた。ともしごろに帰りなく、暖め合う羽もないこの身に、ただ自由だけがある。

#深夜の真剣140字60分一本勝負
お題『①灯ともしごろ②コイン③食べる』

都落ちというやつだ。家財も職も失って、ずっと放置していた亡父の持ち家に逃げ込んだ。田舎の朽ちかけた平屋に這々の体で辿り着き、雨戸をこじ開けて崩れそうな縁側に寝そべった。かつて此処に住んでいた頃の記憶は安らかなものではないが、もう知る者もいない。庭の柿の木だけが辛うじて顔見知りだ。

10月の星々『着』の没作

誰かを待っていたのだけれど、と老いた魔女は首を傾げる。ぼやけた記憶の向こうにちらつくのは、鼠と、カボチャと、時計と、それから…… 「迎えに来たよ、呪われた姫」魔女の家の戸を骸骨王子が叩く。手にはガラスの靴。骨張った足に、それでも靴は約束通りに収まって、二人は元の姿に戻った。#twTorT

2022ハロウィンツイノベ

#twnvday
川辺でTwitterの化石を拾った。山から流れ着くようで、翡翠や柘榴石などの天然石に混じってこの辺りでは偶に採れる。光に翳すと物言わぬ嘴が空色に透けた。元はどんなアカウントだったのだろう。華奢な頸椎は、ささやかな囀りを想像させた。化石を耳に寄せ、黙祷のように目を閉じる。
#twnovel

2022.11.14ツイノベの日
お題『Twitter』

失望保険に加入しといてよかった。昔から要領が悪くて自分にがっかりしてばかりの私にはうってつけ。自分に、周囲に、失望するたびお金が入る。親も実は同じ保険に加入していたと知ったとき、最高額の保険がおりた。ああ成程、私に失望するほどお金を貰えるから、失望させるような子に私を育てたのね。

11月の星々『保』の没作

ふわふわの羊のぬいぐるみは、お腹を押すとメェと鳴いた。しわがれた声はおじいさんみたいで、羊はぼくの保護者になった。お出かけのときは手をつないだ、涙をふわふわですいとってくれた。毛が禿げて灰色に縮んだ羊はもう鳴かないけれど、一人暮らしを始めたぼくの部屋でまだ少しだけ保護者している。

これも11月の星々『保』の没作

バイト先の花屋の先輩に、真夜中さん、と呼ばれる男性がいた。本当は真中さん。いつも夜みたいに静かだから、真夜中さん。彼は今ビオラの鉢植えを抱えて、お客さんの質問に四苦八苦中だ。
「ビオラの花言葉って、知ってますか?」
真夜中さんの、しじまみたいな声に胸が騒いだ。
「……私を思って、です」

#深夜の真剣140字60分一本勝負
お題『①質問②真夜中③鉢植え』

道端の水たまりに薄氷が張っていたので踏み割ったら視界が暗転した。電源を落としたみたいに真っ暗闇だ。音や匂いはそのまま、手で探れば電柱と思われるものに触れた。車のエンジン音がして慌てて端によける。よろけてブロック塀らしきものにぶつかる。氷とともに俺が踏み潰したのは何だ。目か。誰の。

タイムラインに流れてきた写真などを見て
直感的に書いてみるテスト。
その1『薄氷』

その滝は随分前から動きを止めていた。躍動感あふれる水飛沫は凍りついたように宙で静止している。こうした静止現象は世界各地で観測されていて、巷じゃ『神様の瞬きの途中』と呼ばれている。いつかパチンと睫毛が閉じて、開いたら動き出す。一番美しい瞬間を瞼に焼き付けて、済んだら壊すのだそうだ。 

タイムラインに流れてきた写真などを見て
直感的に書いてみるテスト。
その2『瞬きの途中』

造花だと思ったのに違うらしい。増えている。水をやったわけでもないのに、昨日より一輪増えている。赤い花びらはカサカサで、茎も葉も冷たくて、何度触って確かめても造花なのに。増えている。数日したら花瓶から溢れて、花瓶を置いた机からもこぼれて、とうとう花がベッドにまで届いた。増えている。

タイムラインに流れてきた写真などを見て
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その3『造花』

今年の正月、とうとう時に追いつかれた。今日から私は歳をとるし未来もわからない。かつて描いたいつかの不安が私の背中にべったりと貼り付いて、去りもせず追い越しもしない。誕生日ケーキの蝋燭をいくつ立てたらいいかなと、それだけは楽しみ。ハッピーニューイヤー、ハッピーファーストバースデイ。

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その4『ハッピーバースデイ』

ホームで電車を待っている。曙色の空が明け、黄昏色に沈むまで。一日中。警笛は鳴らず、電光掲示板は消え、売店は沈黙して、乗降客は自分だけ。ホームで電車を待っている。行き先はもう忘れたけれど、何処にも行きたくないから待っている。電車がちっとも来ないから、この駅での自殺者は一人もいない。

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直感的に書いてみるテスト。
その5『休み明けの駅』

砂漠の真ん中に白い花の群生があった。砂風すなかぜが舞うたびにしゃらしゃらと身を擦り合わせ鳴く。「私たちは昔、魚だったの。花びらは白いヒレだったの。飛ぶように泳いだの。月の夜にはあぶくを吐いたの」貝はさそりに、海星ひとで蜥蜴とかげに身をやつし、覚えているのは花たちだけ。「ここは昔、海だった。海だったの」

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その6『海の記憶』

水面から突き出た海中電柱かいちゅうでんちゅうの列は、天に向けられた祈りの手のようでもあった。電柱は海の底に沈んだ無人の都市へと今も電力を送り続けているのだという。新月の夜、電柱は灯籠のように発光する。ある者は漏電だと言い、ある者は魂の道標みちしるべだと言う。都市とともに海に捧げられた人々の、恨みの鬼火だとも。

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その7『海中電柱』

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