140字小説まとめ3 石森みさお 2021年9月26日 15:50 ザ ザ ざ ザ──すか ────き……ますか ────きこえますか雨音のようなノイズの向こうから声がする。「僕が最後の──人類──希望は──」最後の少年が残した録画メッセージを開いたのは、三千年後の機械少女。生きた人間など今は昔の物語。 pic.twitter.com/rWahu1EGJB— 石森みさお (@330_ishimori) September 4, 2021 惨憺たる災害に見舞われ続けた令和が悲鳴をあげる。私など生まれてはならなかった!世界の矛先を変えるため、選ばれし航行士たちは《秘匿の元号》を託されて時間流遡行機で時を駆ける。目指すは改元の儀──すべての始まりと終わりの日。#twnovel https://t.co/azoX1C2zrr— 石森みさお (@330_ishimori) September 5, 2021 「夏の名残」西瓜を食むと月を齧っているような気分になる。そんなことを言っていた友人は若くして亡くなった。生きづらい感性だったのだろうな、と思う。今年も私は西瓜を食べるが、口に広がるのは生命の甘さと瑞々しさだ。ただ毎年、しずかに口元を拭っていた彼を、悼むように思い出す。#twnovel— 石森みさお (@330_ishimori) September 5, 2021 夜に閉じ込められた王国。夜明けを知らない少年ドーンは、星灯りを頼りに古の《朝》を求め旅に出る。旅路で出会うのは、主人の帰りを待つオートマタ、片腕の銀職人、星から落ちた迷子の少女。「一緒に行こう。《朝》はきっとあるよ」何かが欠けた世界で、かえる場所を探す彼らの果ては──#twnovel https://t.co/fWG7EIaJLZ pic.twitter.com/qLJXlFvZ9E— 石森みさお (@330_ishimori) September 6, 2021 微生物分離培養加速装置、略称『微分』で増やされた微生物群《クリーナー》は、本来は環境浄化に役立てられるはずだった。増えすぎた奴らは地上のあらゆる文明と命を津波の如く飲み込み、バイクの燃料が尽きれば俺も追いつかれ奴らの腹の中だ。人類は分解浄化され、星が再生する。#ノベルちゃん三題 https://t.co/4JjvLBIXiL— 石森みさお (@330_ishimori) September 8, 2021 スマホにゲーム運営から通知が届く。【プレイヤー100億人突破記念⭐︎新ガチャ解放!今夜8時】全人類参加型のこのゲームの特徴は、課金もレベルも関係ない運頼み。運営と書いて神と読むが、賽のゆくえは神すら知らない。増え過ぎた人口を間引くための強制クソゲー。【命の選別ガチャ、始まるよ♪】— 石森みさお (@330_ishimori) September 11, 2021 #ノベルちゃん三題「鰯雲の生成って面倒なの。雲の並べ方にもルールがあるし、風の予測が難しくて」先輩妖精がぼやく。新人の私は必死にメモを取る。「入道雲の方が得意。わーっと練り上げてぶわわーん!と破裂させるのね。わかる?」わかりません。感覚派の妖精ってなんで擬音で説明してくるの? https://t.co/sA4zWMDEqd— 石森みさお (@330_ishimori) September 12, 2021 #twnvday 石を愛する男がいた。拾った石を一つ庭に置く。景色が輝いた。二つ目の石を重ねる。愛らしい。三つ目。塔の趣きだ。積み続ければ天にも届くのではとそれから毎日石を積む。天に挑むなど不遜だと人になじられても。数百年後にそびえる塔。ついに天に届いたそれを、人は[神の塔]と称えた。 https://t.co/EqxnXEcW1V— 石森みさお (@330_ishimori) September 14, 2021 #ノベルちゃん三題月下の芒野原に野分が吹く。ざあざあ荒れる風の中、三人の御坊が酒を酌み交わしている。肴は漬物。ぱりんと齧る歯が異様に鋭い。「あの、もし」声をかけると御坊らはぎろっと此方を見、「人間」「無粋な」「ごっこは終いだ」そしてふっとかき消えた。 二百十日のことだった。 https://t.co/ZzUjCwFVDW— 石森みさお (@330_ishimori) September 15, 2021 突如空から現れた生命体は小さなエビフライのようだった。細長い体は硬い外皮に覆われ、尾の部分には赤い翅。空を飛び、群れで人に集り、肉を食い破って命を奪う。病魔の如く広まり人類を死地に追いやったそれらの名は──《Evil fly》かつて、実験の為に宇宙に放たれた恐るべき蠅の末裔だった。 https://t.co/xBoXrgrAqR— 石森みさお (@330_ishimori) September 16, 2021 一万年前には開墾地の永久私有を認める法があったそうだ。「それなら星丸ごと私達のものね」彼女がピアノ奏者のような指運びで端末にキーを打ち込むと、再生プログラムが起動し汚染地が浄化された。「次の敵はイタリア人。また星を壊すまで戦うのよ」容易く滅び甦る、そんな戦争が千年続いている。 https://t.co/rNaGVJCFwd— 石森みさお (@330_ishimori) September 17, 2021 「この植木はもうだめだね。《泣き虫》がついちまった。安楽死させて新しい木を植えるから診断書よろしく」庭師が去る。樹精の少女の泣き腫らした顔に、思い出すのは師匠の教え。『忘れないでね。精霊樹木医の使命は──』枯れた葉先にそっと触れる。死なせやしない。「泣かないで。助けに来たよ」— 石森みさお (@330_ishimori) September 18, 2021 空から落ちた星が金平糖になるのだと信じていた。口に広がる透明な甘みに、私はいま星をのみこんでいると。他愛もない幼い空想が大人の日々を支えるということが確かにある。淋しい夜には金平糖をかじる。桃色は秋の星。薄黄色は夏の星。お腹に宇宙が生まれて星がつながる。星座の名前はまだ、ない。— 石森みさお (@330_ishimori) September 19, 2021 #ノベルちゃん三題馬を駆る彼女は美しかった。僕は美術室から馬術場を見つめ、クロッキー帳に木炭を走らせた。躍動を、彼女を、時を止めて閉じ込めたくて。あれから数十年、今も美しい白髪の彼女は僕に寄り添う。「今朝は冷えますね。生姜湯でもいれましょうか」時は過ぎたが、彼女は捕まえた。 https://t.co/kBZhBpThJv— 石森みさお (@330_ishimori) September 19, 2021 #ノベルちゃん三題湯治場に駆け込んできた馬面の男は青い顔でヒンと泣いた。毒を出さねばと騒いで炭を齧り、生姜湯に浸かり、湧水を飲んでゲェと吐いた。聞けば馬術師から逃げる最中に馬酔木を食べてしまったと言う。やはりその顔は馬の化か、変化下手めと周囲が笑う。物怪の湯治場は今日も騒がしい。 https://t.co/kBZhBpThJv— 石森みさお (@330_ishimori) September 19, 2021 おばあちゃんの家の縁側にそれはいた。姿は見えず気配だけ。猫ぐらいの大きさのそれは、小学生の私が縁側に腰掛けていると音も無くやってきて寄り添った。ある夏、庭で花火をした夜、ふと縁側に手持ち花火を向けて振ったらぎゃっと悲鳴が聞こえ、犬小屋みたいな臭いがして、以降それは現れなかった。 https://t.co/1DZKuOzsdM— 石森みさお (@330_ishimori) September 21, 2021 #ノベルちゃん三題月の海。薄闇に浮かぶ澪つくしを頼りに、精霊、魍魎、木霊に水妖、あらゆる化生がめかして集う。大小上下入り乱れ、月に煌めく袖を振り、各々誇るファッションショー。歌うは神鶴、奏でるは泥舟の狸。今宵は愛でたき中秋の明月。一夜の宴は人知れず、踊れや呑めや、快い酔い佳い宵。 https://t.co/25C3jIUrhq— 石森みさお (@330_ishimori) September 21, 2021 俺の彼女は常に眼帯をしている。病気ではないそうだが頑なに外そうとしない。「取った顔を見たいよ」「やだ、取ったら死んじゃうもん」むくれる彼女の隙をついて眼帯に手を伸ばす。これで彼女の素顔を見──息絶えた恋人の恐怖に凍った顔を見下ろし彼女は呟く。「だから死ぬって言ったじゃない」— 石森みさお (@330_ishimori) September 23, 2021 うちの時代わ終わった……とコギャルが落ち込んでいる。「コギャルさんは一時代を築いた言葉ですよ!元気出して!」若朽が慰める。彼は語釈の割によく気のつく良いやつだ。「言葉は時代を映す鏡。いつか復活の機会もあるさ」「BBS……」「次会う時は全訳読解古語辞典かもな。皆、……元気でな!」 https://t.co/z6BWoRnVx0— 石森みさお (@330_ishimori) September 23, 2021 #ノベルちゃん三題手を繋げなくても抱きしめられなくても僕らの心は離せない。ウイルスだろうがヘイトだろうが僕らの城は汚せない。劇場、厨房、ベンチにトイレ、清掃はとびきり念入りに!ダンスの練習、ポーズの研究、観客なしでもやることは山積みさ、ハハッ!世界一有名なネズミは不敵に笑う。 https://t.co/SuQeGZ3k9V— 石森みさお (@330_ishimori) September 24, 2021 「食は命。フリーズドライじゃ味気ない」自称・宇宙基地の料理人は勝手に厨房と名付けた区画で調理もどきを始める。パックから出された白滝が宙を漂う。清掃ロボが回収した残骸は実験用マウスの餌になる。「手作り肉じゃが食わせてやる」俺はこのスペースからあげクンで充分です。#ノベルちゃん三題 https://t.co/SuQeGZ3k9V— 石森みさお (@330_ishimori) September 24, 2021 #ノベルちゃん三題「ここでスープに特製貝エキスを大匙1加えます。毒の含有量は約1万マウスユニット。充分な致死量です」「先生、これで味に深みが出るんですね」「そうです。症状は麻痺、呼吸困難、吐き気と下痢も併発。味わい深い死に様をお約束しますよ」「清掃班も厨房にスタンバイOKでーす」 https://t.co/SuQeGZ3k9V— 石森みさお (@330_ishimori) September 25, 2021 彼女がアイスココア飲みたいなんて言うから、炎天下に探しに出た。狂った太陽が照りつけ、道にゆらゆらりと陽炎が立つ。陽炎は、太陽に焼かれて蒸発した街の人の記憶を語る。「買ってきて」「あっつー」「明日はさ……」それから「アイスココア飲みたい」とか。コンビニの陽炎どこかにないかな。 pic.twitter.com/0tfjBboDuQ— 石森みさお (@330_ishimori) September 25, 2021 #ノベルちゃん三題「蕎麦の花見て蜜をとれ、ってね。期が熟したら皆殺しよ」美しい義妹は花を愛でるそぶりで毒を吐く。盗聴器も仕込めない広大な庭園は謀略に打ってつけだ。「後妻の母さんを嬲り殺した奴らは許さない。ね、義兄さん?」僕は微笑み一つで操られるピエロ。それでいい。君が好きだ。 https://t.co/cPBXo4ZIHC— 石森みさお (@330_ishimori) September 26, 2021 言葉が猛スピードですれ違っていく。おーい、そっちじゃないぞー。参ったな、一人歩き、いや、一人走りしたまま帰ってこない。僕の言葉のはずなのに別人のようだ。呼び続けたら時代を超えて戻ってくるかな。おーい。#マイクロノベル— 石森みさお (@330_ishimori) September 27, 2021 一人きりの部屋にもどうしようもなく朝日は差す。最低限のプライバシーしか守れやしない薄いレースカーテンに透ける金色。目覚めをはらんで空気が泡立つジンジャーエールのような朝。終わらない夜の悲哀を洗い流して生まれ来る今日。おはようと声をかける人はもういない。#ノベルちゃん三題 https://t.co/o4USnimcC8— 石森みさお (@330_ishimori) September 28, 2021 #ノベルちゃん三題海に沈んだ財宝なんて祖父の妄想だと思っていた。「見てな」形見の西陣織の帯を床に敷き詰め、教授は手にした瓶から日本酒を注いで回る。「特定のアルコールに反応して柄が浮かび上がるんだ。経錦が経度、緯錦が緯度」「嘘だろ……」足元には、宝を示す航路図が広がっていた。 https://t.co/iMQcStaCFv pic.twitter.com/ie0ZFvhjDG— 石森みさお (@330_ishimori) October 1, 2021 ダウンロード copy #小説 #140字小説 #掌編 #140字SS #twnovel #ss名刺メーカー #ノベルちゃん三題 この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか? 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