140字小説まとめ7(ときどき300字) 3 石森みさお 2022年8月22日 19:05 貧しかった子ともの頃、近所の駄菓子屋でチョコレートを盗んだ。店番の老婆は読書に夢中だった。駆けて逃げて公園の遊具に隠れて食べた。今ならわかる、老婆は青い顔の小さな盗人に気づいていた。久々の帰郷、更地になった店跡。憐憫、寛容、或いは愛。絶望せずに済んだのは、あの甘さのおかげだった。 https://t.co/NbmHckaB5I— 石森みさお (@330_ishimori) February 26, 2022 #深夜の真剣140字60分一本勝負 お題①チョコレート ②青い ③盗人特別美しくもおかしくもなかった私の世界に亀裂を発見したのはつい昨日のことだ。細く、けれど深く、ぱっくりと裂けた暗闇からは黒い靄がもろもろと溢れ出て、手で押さえても止まらない。まさかね、そんな、こんな小さなヒビで。希望的観測にすがる間にも靄は膨れる。カウントダウンは、始まっていた。— 石森みさお (@330_ishimori) February 26, 2022 昨日学生だった彼は、今日兵士になった。実感わかねーと笑って、軍服似合う?とおどけた。私も、卒業式には帰ってきてよと笑って、制服の方がマシかなとふざけた。二人で合格した志望校の、三年間着続けた制服。じゃあねと手を振ったあと、卒業式は中止になって、雪解けの頃が過ぎ、彼はまだ帰らない。 https://t.co/YxmYcaFqRj— 石森みさお (@330_ishimori) February 27, 2022 だいたいの人間はやさしい、と思っていたい。そうでない人もいるけれど、だいたいは平凡で、臆病で、普通で、やさしい。目まぐるしいニュースに耐えきれずTVの電源を切った。キャスターの重たげな吐息を最後に訪れる静寂。誰にも侵されないワンルーム。だいたいの人に必要なのはそれだけのはずなのに。— 石森みさお (@330_ishimori) March 13, 2022 そこかしこに君がいる。初夏の庭先、デートした公園、二人で買い物したスーパー。笑顔の君も、少し怒った君も、面影はじっと僕を見つめている。寂しいけれど思い出は美しい。些細な喧嘩をした事さえも。洗面台の鏡から君が僕を見る。頬を腫らして叫ぶ君。赤く染まった絨毯、庭の土の下。君が見ている。— 石森みさお (@330_ishimori) May 3, 2022 ↑星と屑鉄の番外 #深夜の真剣140字60分一本勝負 お題①投げる②バニラビーンズ③終点誘う香りは甘いのに口にすれば味気ないバニラビーンズみたいな恋が終わって、逃げるように飛び乗った電車の終点の駅からは海が見えた。もうここらでいいかと降り立ったけれど、夏の海は身を投げるには明るすぎた。ひと夏の恋なんてこんなものか。潮風に痛む程の傷でもない。しょっぱいなぁ。頬も風も。— 石森みさお (@330_ishimori) July 23, 2022 軍事衛星「おやすみ」が宇宙に打ち上げられた頃、地球はまだ青かった。「おやすみ」はミサイルで敵衛星を幾つも落としていった。その頃、地球は次第に白くなっていた。やがて「おやすみ」が任務を終える頃、地球は白く沈黙していた。「おやすみ」も沈黙し、自ら大気圏に落ちていった。みんなおやすみ。— 石森みさお (@330_ishimori) July 23, 2022 #深夜の真剣140字60分一本勝負 お題①帰郷②ドライヤー③飽食だから来ても良いことはないと言ったのに。洗面所の彼女の背をそっと見遣る。墓じまいで帰郷する俺に同行してきた婚約者は、宿の狭い内風呂と壊れかけたドライヤーに苦戦している。飽食暖衣に慣れた彼女に鄙びた田舎宿は辛いだろう。貴方の故郷をみたい、という優しい願いが変質していないことを祈る。— 石森みさお (@330_ishimori) July 30, 2022 霜焼けの手で折った紙ヒコーキは不格好で、羽が少し凍っていた。向かいのベランダの、夏の国の貴方に向けて飛ばす。風を切り裂いて届く。夏の国からもヒコーキが返ってくる。夏のヒコーキは貴方の汗で湿っていて、冬のベランダで凍りつく。紙の裏のメッセージを、私たちはまだ互いに読めたことがない。 https://t.co/F1vDOGjrtL— 石森みさお (@330_ishimori) August 12, 2022 #深夜の真剣140字60分一本勝負 お題①日記帳②宿雨③ひらく今はもう亡い人の日記帳を蒐集するのが趣味だ。今日も古書店の片隅で商われていたそれを求め帰った。紙面に刻まれた筆跡、涙の跡、漢字をひらく癖から、持ち主に想いを巡らせ慈しむ。さて、私のこの日記はどの好事家のもとに届くだろう。八月十三日、宿雨。私はまだ見ぬ貴方に向けて日記を書いている。— 石森みさお (@330_ishimori) August 13, 2022 店先に並んだ花はどれもが特別なオンリーワンだと古い歌がうたいあげる。花屋で働く産業AIロボの私は、腹部のスピーカーから店内BGMを流しつつ花束をこしらえる。特別とは、他者との差異。唯一無二。同じ花でも異なる命。草花の汁で緑に染まった合成プラスチックの指先は、劣化かしら。特別、かしら?— 石森みさお (@330_ishimori) August 14, 2022 少女の幼虫は齧ると甘くて、琥珀糖のように光に透ける。あんまり美味しくて虫が群がるから、大抵脱皮する前に喰われてしまう。だから私は守ってやる。身をあずける枝と、心地好い湿り気と、暗く静かな部屋を用意して。だって、ふるえる翅が空気に触れて、蛹から羽化する瞬間が一番の食べ頃なのだから。 https://t.co/YU0YhDTl7c— 石森みさお (@330_ishimori) August 19, 2022 ダウンロード copy いいなと思ったら応援しよう! チップで応援する #小説 #掌編小説 #140字小説 #140字SS #twnovel #深夜の真剣140字60分一本勝負 3