書評:『ギリシア人の物語II 民主政の成熟と崩壊』(塩野七生)

1巻よりこの2巻は退屈で面白い。こんな小学生一年生みたいな表現になってしまうのが2巻である。

アテネの興亡がよくわかるのがこの本。1巻でも英雄が出てきて、アテネがギリシアの雄として立つ。その理由は、世界初の海軍設立というイノベーションと、ペルシアという外圧。外圧をやっつけたのは、ペルシアの長い兵站。しかし、このIIになると、興亡を決めるのは、民主政治下のリーダーであるところが2巻の面白さだと思う。

ペリクレスの時代に、民主制の中の実質的な独裁によって、アテネはギリシア全体の覇権を握る。ライバルのスパルタは陸軍国でもう一つの盟主だけど、ほぼ鎖国政策である。ギリシアの盟主アテネは、広い国土は持たぬが、同盟で、地域の覇権を握る。オープンなシーパワーである。偉大な政治家は、ペルシアともスパルタとも和平を結び、経済的にも勝ち続ける。超大国ならぬ超大都市である。

偉大すぎるリーダーの後のアテネの没落は激しく、衆愚政治に陥る。最後は、シチリア島への遠征で量としての海軍を失う。当時の海洋技術では、シチリアは兵站が持たない。指揮官もまずい(ただ、その指揮官は、民主的に決められ、人気のあったリーダーである)。

その後、圧倒的な財務能力で一度は量を復活するが、衆愚政治は、優秀な指揮官を次々に死刑にし、指揮官がいなくなったなか、量が復活した海軍が壊滅する。最後は、スパルタに滅ぼされる。アテネは覇権を失い、ただの都市になる。戦争で負ける理由は、「現場の指揮官に指揮権がなく、現場の情報に疎い、安全なところにいる民衆が間違った意思決定をするから」である。優れたリーダーなら回るが、凡庸なリーダーでは、長い兵站は維持できない。悲しいまでの衆愚政治の描写が見事だが、没落のストーリーはやはり退屈である。

現代に例えるならば、「個人株主や投資アナリストが人気の経営者を選んで、投資アナリストが分析した戦略を企業で実施してみたら、見事に潰れてしまった。独善的な結果を出し続けるオーナー経営者の方がましだった。どっちも上場株式会社」みたいな話であり、「どこかの大塚家具さんでみたような話が、もっと大きなスケールであったんだな」ということだ。すぐ明日没落する訳ではないが、民主制が、おかしなリーダーをトップに据えると、没落は早い。勃興と没落のストーリーとして2巻は退屈だが為になるのである。


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