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日本刀を支える伝統技術「たたら製鉄」に見る日本のものづくりの精神: BSS山陰放送『たたらの國 奥出雲』を観て (元教授、定年退職295日目)
私は中学時代に剣道部に所属していました。短い期間でしたが、礼に始まり礼に終わる剣道の作法と精神は、今でも私の心に深く残っています。その後、剣道に触れる機会はほとんどありませんでしたが、「三つ子の魂百まで」というように、当時の経験が今も役に立つことがあります。
研究室を主宰していた時、体育会剣道部に所属する学生が研究室に加わりました。彼は私のような短期間の「なんちゃって」部員とは異なり、四段の段位を持ち、大学の剣道部でもレギュラーを務める実力者でした。彼の鍛え上げられた腕の筋肉は、驚くほど太く硬かったのを覚えています。研究に疲れると、夜中に一人で素振りをするような熱心さを持つ学生でした(現在は某国立大学で准教授を務めています)。ある時、彼に日本刀を振ったことがあるか尋ねたところ、「日本刀は想像以上に美しく、そして重い。それに触れたことは特別な経験だった」と教えてくれました。それを聞き、やはり真剣は別格なのだと改めて感じました。
岡田准一さんが進行を務める BSS山陰放送制作の「たたらの國 奥出雲」
今回、その日本刀の魂を支える、たたら製鉄の世界を描いた番組をご紹介します。BSS 山陰放送制作の「たたらの國 奥出雲」(TBS 系列放送、JNN 企画大賞受賞作品、タイトル写真:注1)を視聴しました。進行役は、俳優であり武道家でもある岡田准一さんでした。以前、私の note でも、岡田さんの NHK 番組「明鏡止水」を4回のわたり取り上げ(note; 7/31, 8/1,13,14)、武道の奥深さとオリンピック種目との関連について考えました。彼の武術に対する真摯な情熱と、専門家顔負けの知識が、番組に深みを与えていました。
玉鋼の伝承: 奥出雲「たたら製鉄」が紡ぐ歴史と文化
日本刀の原料として不可欠な最高級の玉鋼(たまはがね)は、良質な砂鉄が採れる島根県奥出雲町で、千年以上続く「たたら製鉄法」によってのみ作られます。この製鉄法は、自然の材料を用い、職人たちの手によって受け継がれてきた、世界でも類を見ない技術です。番組では、武道に造詣の深い岡田さんがこの伝統技術に迫り、玉鋼の製造過程やその文化的意義を探っていました。玉鋼から作られる日本刀は、現在、日本文化を象徴する美術品として世界からも注目されています。(下写真もどうぞ)
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たたら製鉄とは、砂鉄と木炭を原料に、粘土で作った炉の中で三日三晩かけて燃焼させ、砂鉄を溶かして炉の底に鉄塊「鉧(けら)」を作るという、日本古来の製鉄法です。その歴史は一時途絶えましたが、近代製鉄では生み出せない日本刀の原料となる玉鋼の需要に応えるため、1977 年に島根県奥出雲町で「日刀保たたら」として復活を遂げました。現在、日本で稼働しているたたら製鉄は、この「日刀保たたら」のみです。(下写真もどうぞ)
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砂鉄から玉鋼へ: 三日三晩の炎が生む「たたら製鉄」の深淵
作業は全員で息を合わせ、燃やした薪を叩いて床を乾燥させるところから始まります。使われる炉は、操業ごとに粘土を積み上げて作られます(製造終了時に壊されるため)。まず、操業の前に火入れ式で、金屋子神への祈りを行います。「村下(むらげ)」と呼ばれる高度な技術を持つ職人が、炉の温度や炎の色、音など、五感を駆使して炉内部の状態を判断し、操業全体を指揮します。村下は長年の経験と勘によって、砂鉄や木炭の投入量、送風量などを調整し、最適な状態で三日三晩、昼夜を通して操業を続けます。(下写真もどうぞ)
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操業が終了すると、炉を壊し、内部で生成された鉄塊を取り出します(上写真)。この鉄塊は様々な種類の鉄が混ざり合った状態のため、その中から最も良質な鋼が「一級の玉鋼」とされます。この玉鋼は不純物が極めて少なく、強靭で粘り強いという特徴を持ち、日本刀の材料となります。
たたら製鉄と循環する地域文化
たたら製鉄は、単なる鉄づくりの技術ではなく、日本の文化や精神性とも深く結びついています。現代において、日本では伝統の「ものづくり」の精神が揺らいでいるように感じるため、この技術はぜひ後世に残してもらいたい文化だと強く思いました。また、一般的な産業開発では、資源採取後の跡地が放置されることが多い中、この地域では砂鉄や木材を採取した跡地が放置されずに棚田や蕎麦畑として活用され、現在では地域の名産となっているそうです(下写真)。これは、資源の循環利用という点で、現代でいう SDGs に通じる素晴らしい取り組みであると思います。
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最後に岡田さんが精神を集中し、日本刀で試し切りを行う場面で番組は締めくくられました(下写真)。一度で成功するのはなかなか難しいと聞いていましたが、見事な試技でした。
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注1:BSS 山陰放送制作「たたらの國 奥出雲」より
ホームページは、https://www.bss.jp/tv/tataranokuni/