元教授のパリオリンピック観戦記、その5:若きクライマーの挑戦 (定年退職133日目)
パリオリンピックも残すところ数日となりました。寝不足の日々が終わりに近づき、一抹の寂しさを感じています(下写真)。昨日は多くの決勝種目が行われ、日本は金メダル3個、銀メダル1個を獲得しました。これで海外開催のオリンピックにおける最多金メダル獲得数でアテネ大会に並び、今日にも記録を更新する可能性があります(先程、越えました)。もちろんメダルの数がすべてではありませんが、日本は堂々の世界4位につけていて、私は少し嬉しいです。
昨日の金メダルは、日本のお家芸種目のレスリング男女と新種目のブレイキン女子で獲得しました。特にブレイキンは今大会が最初で最後の開催となるため、優勝した Ami 選手は唯一の女王となりました。屋外で 15 ラウンドという過酷なスケジュールをこなす体力には本当に驚かされました。また、ブレイキンは体力や技術、独創性に加え音楽性も求められるため、日本勢の活躍は難しいのではないかと懸念していましたが、杞憂に終わりました。
私が今日注目したのは、スポーツクライミング複合です(タイトル写真:注1)。男女ともに決勝に新鋭2人(安楽宙斗選手、森秋彩選手)が進出しました。昨日は男子決勝が行われ、世界ランキング1位の安楽選手が最後に登場しました。
スポーツクライミング複合は、瞬発力が求められるボルダーと、真逆の持久力が試されるリードの2つのラウンドで競われます。どちらも数分間の下見でルートを読み取り、戦略を立てる点が興味深いです(下写真)。選手の体格や筋力によってルート選択やアプローチが変わってくるのも見どころの一つです。一般的に手足の長い選手が有利とされていて、実際今回の決勝進出者も安楽選手を除いては全員が欧米の選手で、190cmに近い選手もいました(下写真)。
予選をトップで通過した安楽選手ですが、他の選手が筋力を駆使して登っていく中、力を抜いた独自のフォーム(「脱力系」と言われています)で軽やかに壁を登り、別次元の動きを見せてくれました。指と腕の筋力、バランス感覚、体幹の強さに加えて、複数の動きを組み合わせるコーディネーション能力がずば抜けていると感じました(あくまで素人の感想ですが)。
ボルダーラウンドでは、4つの課題を各4分以内に完登することを目指します。安楽選手は他の人が苦戦する課題を一撃(ミスなしで一回で完登)したり、唯一完登する課題もあり、全体でトップに立ちました。続くリードラウンドは、6分以内に15m の壁を登る競技で、ボルダーの能力に加えて持久力と精神力が求められます。直前のボルダーでの疲労の蓄積も考慮しなければなりません。そして精神力としては、時間制限による焦りや一発勝負の緊張感にも打ち勝つ必要があります。
リードで安楽選手は善戦しましたが、惜しくも最後のところでイギリスのライバルに及びませんでした(下写真)。日本人初の2位という素晴らしい結果ながら、本人は「リードで完敗で悔しい!」と語っていました。東京五輪銅メダリストの野口啓代さんは「安楽選手は誰よりも緊張していて、中間地点で落ちてしまうのではないかという不安定さの中で最後まで頑張った」と彼の健闘を称えていました。
オリンピック初出場で最終競技者という重圧もあったことでしょう。予選の時と比べて動きが慎重になっていたように見受けられましたし、解説者の指摘にもあったように、制限時間をより有効に使えたかもしれません。しかし、私は彼の戦いぶりに心から拍手を送りたいと思います。そして、この経験をバネに、今後さらに大きく飛躍してくれることを期待しています。
翌日は女子のスポーツクライミング複合が行われます。森選手が絶対女王のガンブレット選手にどれだけ対抗できるか、目が離せません。それでは、また。
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注1:NHK テレビより