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ホタテ漁業の進化と廃棄貝殻のアップサイクルによる万博ヘルメット (元教授、定年退職224日目)

先日の note(9/29,30)では、大阪産業創造館が発行した「『こんなもの』からアップサイクル」(下記写真、注1)をもとに、消防用ホースが野球バットケースに転用された例や、カニ殻を活用したナチュラルコスメの事例を紹介しました。近年、不要になったものを資源(原料)に戻さず再利用する「アップサイクル」が注目を集めています。本稿では、ホタテ貝殻から開発された万博公式ヘルメットについて解説します。

大阪産業創造館発行「『こんなもの』からアップサイクル」(注1)


ホタテ産業の最新事情

NHK テレビ番組「有吉のお金発見 突撃!カネオくん」において、ホタテ漁業の最新事情が紹介されました(下記写真)。その中では、ホタテ漁の現状、養殖技術、自動殻剥きロボット、そして輸出状況が取り上げられました。

NHK テレビ番組「有吉のお金発見 突撃!カネオくん」(注2)


・ホタテ養殖技術の進化

昭和初期までは天然ものに依存していたホタテ漁業は、乱獲や環境変化により一時衰退の危機に直面しました。しかし、1960 年代以降に養殖技術が確立され、現在の生産体制が整いました。0.3 ミリほどの稚貝を「採苗器」と呼ばれる特殊なネットで集め、1年後に数センチまで成長させ、その後さらに4年間海底で養殖する方式が確立されました。この方法により、ホタテが海底を自由に動き回れるため、貝柱の発達した高品質なホタテの生産が可能となりました。(タイトル写真、下写真をどうぞ(注2))

1960 年代以降に養殖技術が確立される(注2)


稚貝を採苗器(特殊なネット)で集める(注2)
数センチまで成長したホタテを海にまく(注2)
4年間、海底で養殖(注2)


・自動殻剥きロボットの進歩

2014 年から開発が始まった最新の自動殻剥きロボットは、ようやく最近実用化されました。ホタテを洗浄・サイズ分けをした後、装置にセットすると、蒸気処理で開殻し、不要部分を吸引で除去し、ヘラで貝柱を自動ですくい上げます(下写真)。このロボットにより、1分間で 100 枚近くのホタテを処理することが可能で、これは熟練職人10人以上の作業量に相当します。

最新の自動殻剥きロボット(下は開殻と貝柱を自動ですくい上げの様子)(注2)


・ 肉厚ホタテ貝柱は輸出の主力商品

日本産ホタテはその肉厚な貝柱が特徴で、主にアメリカやベトナムに生食用として輸出され、水産物輸出の主力となっています。この貝柱の発達は、天敵であるヒトデから逃れるための進化の結果だとされています。

日本産ホタテは肉厚な貝柱が特徴(注2)
天敵であるヒトデから逃れるための貝柱の進化(注2)


廃棄貝殻からの環境配慮型ヘルメットの製造

ホタテ産業が発展を遂げる一方で、大量に発生する貝殻の廃棄は、地域社会にとって大きな環境問題となっています。例えば、北海道猿払村地区だけでも年間約4万トンもの貝殻が発生しています。


この課題に対し、甲子化学工業(株)は廃棄ホタテ貝殻(炭酸カルシウム)を廃プラスチックと組み合わせた、オール廃棄物由来の新素材「カラスチック」を開発しました。そして、この素材を使用した環境配慮型ヘルメットを製造しました(下写真)。特徴として以下が挙げられます。

・貝殻を 20% 配合し、ホタテ貝の波型をデザインに活かすことで強度を 33% 向上
・新品のプラスチックを 100% 利用する場合と比較し、最大 36% の二酸化炭素排出量削減
・粗い貝殻粒子を意図的に用いることで、再生材料を使用していることをアピール

廃棄ホタテ貝殻から環境配慮型ヘルメットの製造(注1)


このヘルメットは、サステナブルな取り組みとして高く評価され、2025年の大阪・関西万博における防災用公式ヘルメットとして採用されました。


廃棄物問題を解決し、新たな価値を創造するこの革新的な取り組みは、循環型社会の実現に向けた大きな一歩と考えられます。今後、同様の創造的な取り組みが各地で展開されることが期待されます。


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注1:ビープラッツ・プレス238号、「『こんなもの』からアップサイクル」より
注2:NHKテレビ番組「有吉のお金発見 突撃!カネオくん」より


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