音が消える!「重いゴム」の未知なる可能性: 元教授、定年退職191日目
45年ほど前、大学生になったばかり私は、初めてのアルバイト代で下宿にステレオコンポを揃えました。廉価品でしたが、レコードプレーヤー、アンプ、カセットデッキ、スピーカーのセットで、様々なジャンルのレコードを楽しんでいました。レコードに針を落とす瞬間の緊張と高揚感が、たまらなく好きでした。隣室の浪人生に配慮して夜はヘッドホンで、外出時にはカセットに録音してウォークマンで楽しんでいました。懐かしい思い出です。
音楽の聴き方が大きく変わったのは、iPod の登場でした。家にあるレコードや CD をすべて持ち歩けるという、まったく新しい世界が開けました(今思えば、大容量ハードディスクの恩恵ですね)。ヘッドホンはイヤホンになり、無線で音楽を楽しめるように。少し高価でしたが、Bose のノイズキャンセリング機能付きイヤホンも購入しました。
その効果は衝撃的で、外でも雑音・騒音が全く耳に入らなくなりました。一番驚いたのは、ある時、駅のプラットホームで電車を待っていた際、列車が入ってくる音がまったく聞こえず、突然目の前に車両が現れて驚いたことです。一時は「これは危ない」と、屋外でのノイズキャンセリングの使用をやめたほどです。
現在は下写真の AirPods Pro を使用しており、快適な音楽生活を送っています。喫茶店での執筆作業や、列車・飛行機の移動時間など、様々なシーンで活躍してくれています。
さて、先日、日曜朝のTBS番組「がっちりマンデー!!」で興味深い材料を見つけました。番組内では、まず東京ビッグサイトで開催された「第 11 回東京労働安全衛生展」(7/24-26)が紹介されていました(下写真:60° の坂を登れる自動ワイヤーや、塗るだけで雨の日も滑らないコーティング剤など)。
その中で私が今回取り上げるのは「騒音・振動対策展」エリア内に出展していた共和ゴム(株)の「重いゴム」です。同社は大阪府枚方市にあり、特殊な産業用・工業用ゴム製品の製造を手がけています(注2)。
番組で紹介されていた「重いゴム」は、一見普通のゴム板ですが、番組のADさんが実際に持つと「重っ!」と声が出るほどの重量感だそうです(タイトル写真:注1)。水にも沈み、鉄と同じくらいの比重をもつため、名称は「超高比重ゴム」と名付けられています(下写真)。その製造法は、硬度が高く工作機械の材料として知られるタングステンをゴムに混ぜて作るそうです。今回の技術展には、その用途を模索するため出展したとのことです。一つの可能性として、「大きな音を小さくする性質がありそうだ」とのことでしたが、具体的な用途はその時点ではまだ見つかっていませんでした。
その後、番組スタッフが共和ゴムを訪問したところ、同社は吸音材としての可能性を探っているとのこと。そこで、防犯ブザーを用いた実験が行われました(下写真)。アクリル板で作ったボックスでは音量に変化はありませんでしたが、高比重ゴムを使用したボックスでは音が完全に消え、皆が驚いて拍手するほどの効果がありました。実験に使用された材料は、吸音スポンジを高比重ゴムで挟み込む構造でした。一般の騒音にはさまざまな周波数の音が混じっているため、キーンという高周波の音は高比重ゴムで、低周波の音は中央のスポンジで吸音する仕組みです。
現在、同社では高比重ゴムを橋の裏側に貼って、騒音防止や揺れの抑制に使用する検討が行われています(下写真)。このような技術のマッチングは非常に重要で、一見無価値に思えるものも他分野で貴重な資源となることがあります。たとえば、秋田では廃棄されていた檜の木屑が、京都では香り袋の中身として有効活用されている事例もあります。
近年はインターネットなどを通じて、このようなマッチングをコーディネートするシステムが進化しています。産学連携などもその一例です。是非このような取り組みを推進し、新たな技術や製品が生まれることを期待しています。
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注1:TBS テレビ「がっちりマンデー!!」より
注2:共和ゴム(株) ホームページより https://www.kyowa-r.com