雑草の逆襲: エネルギー資源としての新たな可能性(元教授、定年退職292日目)
「雑草」という言葉を耳にしたとき、野球ファンなら「雑草魂」で知られる元巨人・レッドソックスの上原浩治選手を思い浮かべるかもしれません。一方、「雑草という草はない」と述べたのは植物学者の牧野富太郎さんでした。彼は、NHK 連続テレビ小説『らんまん』で神木隆之介さんが演じたことで(ドラマでは彼の名前は万太郎)、改めて注目を集めました(<追記> もどうぞ)。また、妻の壽衛さん(ドラマでは寿恵子)を演じた浜辺美波さんの演技も印象深いものでした。牧野さんは、国際的にも評価された型破りな学者であり、「自分らしく生きる」を貫いた彼の人生は非常に充実したものであったと推察します。
「ヴィランの言い分」で知る、雑草を利用したメタンガス生成技術
最近、NHK Eテレの『ヴィランの言い分』という番組を初めて視聴しました。「世間から忌み嫌われるものたち、それを我々はヴィランと呼ぶ」というナレーションで始まる、一風変わった番組でした。今回のテーマは「雑草」ということで軽い気持ちで見始めたのですが、知らなかったことが多く、結局、最後まで目が離せなくなりました。
特に興味深かったのが、番組後半で紹介された「雑草からメタンガスを生成する技術」です。当初は「眉唾物かも知れない」と思ったのですが、科学的・技術的に実現可能な話でした。さらに驚いたのが、バケツ3杯半(約 17.5 キロ)の雑草で、一般家庭の一日分の電力をまかなうことが可能だというのです。
その仕組みを以下に説明します。メタン発酵微生物は、本来、糞尿などの排泄物に含まれる糖質を分解して、都市ガスの主成分であるメタンガスを生成します。しかし、従来のメタン発酵微生物では、雑草に含まれる硬いセルロースの分解は困難でした。一方、ウシは胃袋の中に生息する微生物、ルーメンの働きで雑草を分解できます。当初、ルーメンはウシの胃から取り出すと分解能力が低下するという課題がありましたが、研究の進展により、発酵装置内で長時間その能力を維持することに成功しました。このルーメンとメタン発酵微生物の組み合わせで、雑草からのメタンガス生成が可能になったのです。(下写真もどうぞ)
メタンガス生成の現状と展望
しかし、現状でのメタンガスの生成効率は十分とは言えず、コストや安定性においても課題が残されています。ただこれは、普及に向けての基礎データとしては十分であると言えます。雑草は廃棄物として大量に存在するため、将来的には環境に優しいエネルギー技術として期待できます。メタンガスは二酸化炭素排出量が実質ゼロのカーボンニュートラルなエネルギーであり、メタン発酵後の消化液は肥料として利用可能です。一般への普及はまだ先ですが、まずは災害時などの緊急時に電力やガスを供給する設備としての導入が期待されます。
雑草に学ぶ生命力と生存戦略
番組の前半では、雑草の巧みな生存戦略が紹介され、こちらも興味深く見ました。特に関心を持ったのは、雑草の茎といえば一般的には先端だけで細胞分裂が活発だと思われがちですが、実際には根元にも活発な成長点があったり、地中の種子が光に晒されると発芽するなど、多様な戦略を備えている点です。また、スミレの種にはエライオソームというアリが大好きな栄養豊富な部分(下写真の白い部分)が付いていて、アリに餌として遠くまで運ばせて子孫を残しています。(下写真もどうぞ)
踏まれてもへこたれないオオバコの戦略
子供のころ、下校途中の道でオオバコを使ってよく遊んだ記憶があります。オオバコの茎をU字型に絡ませて引っ張り合い、切れたら負けという「オオバコずもう」です(タイトル写真(注2)、下写真もどうぞ)。それほど、オオバコの茎は丈夫な繊維でできており、踏まれても簡単には折れません。それだけでなく、人や車に踏まれることを逆手に取り、地面に押し付けられると粘着性の種子を靴の裏や土にくっつけて拡散させるという戦略も持っています。本当に巧妙な戦略です。
普段何気なく目にしている雑草にも、このような知られざる一面がたくさんありました。これまで邪魔者扱いしてきた雑草が、驚くべき生存戦略や繁殖方法を持ち、エネルギー供給にも活用できる可能性を秘めていると知り、とても勉強になりました。
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注1:NHK Eテレ「ヴィランの言い分:雑草」より
注2:「相撲草」の写真素材(フリー素材)より
https://www.photo-ac.com/main/search?q=%E7%9B%B8%E6%92%B2%E8%8D%89#google_vignette