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祝いの席を彩る鯛: 披露宴の思い出と「にらみ鯛」の風習 〜NHK「美の壺」より〜 (元教授、定年退職264日目)

最近では、大規模な結婚式や披露宴が減少傾向にあると感じます。振り返れば、約 10 年前までは、2ヶ月に1度ほど参列する機会がありました。当時の私の自慢は、新婦以外のすべての役を経験したことです。新郎、仲人、主賓をはじめ、司会、乾杯、先輩・同僚の代表、友人代表の言葉・余興なども担当しました。友人の晴れやかな表情、親戚の緊張した面持ち、そして休日を潰されるという個人的かつぜいたくな不満(笑)が、今となっては懐かしい思い出です。近年は立場上、挨拶を頼まれることが多く、光栄ではありましたが、その準備には毎回苦心しました(パワーポイントを使った授業なら得意なのですが・・・)。


結婚式から消えつつある「鯛の尾頭付き」と日本の伝統

和食の披露宴で姿を消しつつある風習の一つに「鯛の尾頭付き」があります。鯛は夫婦で同じ場所で生息する数少ない魚であり、その美しい姿や味わいに加え、「めでたい(鯛)」という語呂合わせもあって、特に結婚式で供されてきました。時にはウェディングケーキ入刀の代わりに「鯛の塩釜開き」が演出され、新郎新婦が参列者の「ヨイショ、ヨイショ」という掛け声に合わせて木槌で塩釜を割る光景も見られました。

<追記> 恥ずかしながら、私は 65 年間「鯛の尾頭付き」を「お頭付き」(頭が付いているという意味)と誤解していました。今回、漢字変換を通じて、頭から尾まで全てが付いている、つまり完全な形であるという本来の意味を知りました(汗)。

鯛の尾頭付きは、漆塗の盆などに美しく飾り付けられますが、披露宴では実際には食べないのが通例です。通常は食事後、係の方が鯛を丁重に箱に収め、持ち帰り用の紙袋に入れてくれます。笑い話のような実話ですが、ある友人がこの風習を知らずに食べ始めてしまい、係の方が困った顔をしていたことがありました。結局、その友人は半分骨になった鯛をそのまま箱に詰めてもらい、持ち帰ったようでした (笑)。


NHK「美の壺」で知る鯛の世界:にらみ鯛から鯛焼きまで

さて、先日視聴した NHK BS 番組「美の壺」の「鯛」特集から、興味深い話題をいくつかご紹介します。まず取り上げられたのは、関西独特の正月の風習「にらみ鯛」です。兵庫県明石の「魚の棚(うおんたな)」商店街にある、創業 100 年を超える老舗焼き魚専門店が紹介されました。看板商品である焼き鯛は、市場から仕入れた新鮮な鯛を丁寧に下処理し、ヒレに飾り塩を施してピンと立て、じっくりと焼き上げる職人技の逸品です。(タイトル写真、下写真もどうぞ:注1)

魚の棚商店街と老舗焼き魚専門店(注1)
ヒレに飾り塩をして、じっくりと焼き上げます(注1)


お正月に欠かせない焼き鯛ですが、関西ではお正月の焼き鯛をすぐには食べません。三が日は鯛を鑑賞し(睨んで過ごし)、その後にありがたくいただくのです(近年は元旦から食べ始める家庭も増えているようですが)。私はこの風習の名称は聞いていましたが、詳しい内容は今回初めて知りました。

<追記> 関西で育った奥様によると、三日おいたにらみ鯛はちょうど上品な干物のようなうま味が出て、とても美味しかったそうです(下写真)。

にらみ鯛(注1)


料理人の技も印象的でした。鯛はその透明感のある身が見た目も味も優れていますが、さらにピンク色の血合も鯛ならではの魅力の一部です。他の魚では敬遠されることが多い血合いですが、鯛の場合はその色合いを活かした盛り付けが好まれます。また、刺身を作る際は平造りではなく、身の繊維に対してやや斜めに切るへぎ造りという方法を用いることで、独特の歯応えを生み出し、美味しさを格段に増すとされています。(下写真もどうぞ)

ピンク色の血合いとへぎ造り(注1)
鯛のお造り(注1)


番組の最後では、鯛のお菓子ということで、鯛焼きの発祥の地とされる店が紹介されました。明治 45 年創業のこの店では、一匹づつ焼く「一丁焼き」という手法で、強火で一気に焼き上げることで、外はカリッと中はしっとりとした食感になるそうです。丸い今川焼き(関西では「御座候」が有名)も魅力的ですが、私は鯛焼きの方が好みです。頭からかじる派、尻尾から食べる派など、食べ方の違いを見るのも楽しいポイントです。(下写真もどうぞ)

明治45年創業の鯛焼き屋と一匹づつ焼く一丁焼き(注1)
鯛焼き(注1)


番組では他にも、「海幸彦山幸彦」の神話、唐津くんち、大漁旗、金花糖など、鯛にまつわる多彩な話題が特集されていました。それだけ鯛が日本人の生活に深く根付いているということでしょう。ちなみに、私個人としては「鯛茶漬け」が最も好みです。ご飯の上に鯛の刺身とわさびを載せ、醤油を数滴たらしてお茶を注ぎ、1分ほど蒸らすだけで絶品の味わいになります。ぜひお試しください。


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注1:NHK BS 番組「美の壺:とにかくめでたい!鯛」番組とホームページよりhttps://www.nhk.jp/p/tsubo/ts/3LWMJVY79P/episode/te/L2K78G6QYN/


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