ラヴェル「道化師の朝の歌」
さて、またクラシック音楽オタク話をだらだらと書きますか。本日は授業が夜しかありません。寝不足だったので、午後まで寝ていました。寝不足が解消されてよかったです。そのあと、数学教室ブログを2つ書き、予約投稿いたしました。さらに時間があるので、いまからここにクラシック音楽オタク話を書きます。オタク話に興味のあるかたはどうぞお読みください。クラシック音楽話にご興味がなく、ごく普通にお読みになれる記事として、以下の最近の記事をはっておきますね。
さて、オタク話です。
ストコフスキーのフランス国立放送局管弦楽団(いまの名前はおそらくフランス国立管弦楽団)へ客演したときに作られたレコードからです。1958年5月12日、ストコフスキーはパリでこのオケを指揮しました。プログラムは、バッハ=ストコフスキー:パッサカリアとフーガ、ブラームス:交響曲第1番、イベール:「寄港地」、ラヴェル:「道化師の朝の歌」、ドビュッシー:「イベリア」でした。この演奏会の後半であったフランスもの3曲がレコーディングされたわけです。(ちなみにこの演奏会のうち、そのフランスもの3曲のライヴ録音は30年近く前からCD化されていました。そのころからそれも持っています。いい演奏ですが、録音がいまいち。さらにずっとのちにそのブラ1もCD化されたのですが、編集上のミスで、不自然に音が飛んでいるところがあり、聴くに堪えません。)
このうち、イベールの「寄港地」はわりとすぐに手に入りました。20歳のころには持っていた記憶があります(当時、交際していた女の子と部屋で聴いた記憶があります。ストコフスキーの「ヒット・コンサート」というあやしいタイトルのCDに突っ込みを入れられたのです)。その「ヒット・コンサート」というCDもそうなのですが、当時はインターネットがほとんどなく、音楽を聴くとしたら、もっぱらラジオかテレビでなければCDみたいな時代です。ストコフスキーがアルバムとして完成度高く仕上げていたレコードが、CD時代に、細切れで売られていたのです。しようがないですね。レコードよりもCDのほうが長く音楽が入りますので、お得な感じにするためには、ストコフスキーおよび当時のレーベルの意図を無視してでも、CDを作らねばならなかったのでしょう。それで、イベールの寄港地は前から持っていました。欲しかったのは、ラヴェルの「道化師の朝の歌」とドビュッシーの「イベリア」でした。先述の通り、ライヴ録音のCDはかなり初期の段階から持っていましたが、ストコフスキーの正式なレコーディングが聴きたかったのです。
東大オケのOBオケを聴いたことがあります。いま、私の部屋は散らかっていて、すぐにパッと出るかはわかりませんが、この部屋にその日のプログラムはあります。記事を書いた記憶がないですが、その日の日記とともに、その日の記事を書くことはできます。いずれ書きましょう。その日、ラヴェルの「道化師の朝の歌」は演奏されました。この曲を生で聴いた唯一の機会かもしれません。ますます私はCDが欲しくなったのでした。
そのころだと思います。すでにインターネットは存在しました。ただしAmazonみたいなものはまだなかったと思います。というのは、インターネットで、東京のある場所で、中古CD市場が開催されている、という情報を得たのです。ストコフスキーの珍しいCDも売っていると。私は都合をつけて買いに行ったのでした。そこで入手したCDがいま持っている宝のようなCDです。
ストコフスキーの指揮するドビュッシーとラヴェルの作品集。収録順に、ドビュッシーの「イベリア」(フランス国立管弦楽団)、同じく「夜想曲」(ロンドン交響楽団)、ラヴェルの「道化師の朝の歌」(フランス国立管弦楽団)、同じく「スペイン狂詩曲」(ロンドン交響楽団)。
これはわくわくするCDです!ついにストコフスキーの正式なレコーディングの「道化師の朝の歌」が聴けました!先述のライヴ録音は、ラジオから取ったものであるようで、なんと曲の開始にアナウンサーの声がかぶっているのです。これはいただけません。ようやく「まともな」ストコフスキーの「道化師の朝の歌」が聴けました。コントラファゴットを強調するストコフスキーのレコーディングマジックが効いており、わくわくするような演奏です!
このCDが中古CDであった証拠のようなものがあります。当時の値札みたいなものが貼られたままなのですね。
このフランス国立管弦楽団の演奏会およびレコーディングについては、先述の通りですが、意外にも「道化師の朝の歌」およびドビュッシーの「イベリア」はストコフスキー唯一の録音です。もちろん得意な曲であり、1937年の映画「オーケストラの少女」では、ストコフスキーの指揮する演奏会のプログラムとしてさりげなく"ラヴェル「道化師の朝の歌」"と書かれています(1937年だったらラヴェルは現代音楽だったでしょうね)。(「唯一」といっても先述のライヴ録音は除きます。でもそれを含めても2種ずつですね。)
イベールの「寄港地」はステレオ再録音です。ストコフスキーには1951年のモノラル録音の「寄港地」があります。学生時代にこの曲をスコアを見ながら聴いてたまげたことがあります。こんな複雑な曲をよく演奏したり指揮したりできるものだと…。このステレオ再録音ですが、当時のフランス国立管弦楽団には、フェルナン・デュフレーヌという有名なフルーティストがいました。冒頭のフルートソロは、もしかしたらデュフレーヌなのかもしれません。いずれにせよ、非常にうまい人が吹いておられます。
そして、このCDには、ドビュッシーの「夜想曲」、ラヴェルの「スペイン狂詩曲」が入っているわけです。ロンドン交響楽団(およびBBC女声合唱団)。これは、前年である1957年の録音で、これでひとつのアルバムだったと考えられます。これも、1957年6月26日の演奏会と並行して行われた録音であると考えられます。この2曲はストコフスキーの若いころからの得意曲であり、つい最近、私は同様の「好きなCD」というブログ記事で、ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団のライヴ録音について書いたばかりであり(そちらはマーラーの交響曲第8番がメインの記事でしたが)、重複を避けるためにあまり書かないことにいたしますが、この日の演奏会を聴いた日本人のかたの本を買って読んだことがあります。そのかたは、当時、ヨーロッパで仕事をしており、たくさんの演奏会を聴いたかたで、それで1冊、本になってしまったのです(いまなら紙の本ではなく、ブログでしょうかね)。その人は、ストコフスキーは映画で見るようなオーバーアクションの指揮者ではなく、もっと小さな地味な動きをする指揮者だった、と書いていたと記憶しています。この日のプログラムは、ベルリオーズのローマの謝肉祭序曲、ラヴェルのスペイン狂詩曲、ドビュッシーの夜想曲、プロコフィエフのスキタイ組曲、ストラヴィンスキーの「火の鳥」組曲でした。
このころのストコフスキーのヨーロッパ滞在を見てみると、これはおそらくプロムスなのでしょうか、直後の6月30日にもロンドン交響楽団を指揮して、シューベルトのロザムンデ序曲、ヴォーンウィリアムズの交響曲第8番、シューマンの交響曲第2番を演奏しています。これと同じヨーロッパ滞在だとすると、5月8日、9日にウィーン交響楽団を指揮して、ドビュッシーの「牧神の午後への前奏曲」、モーツァルト「ジュピター」、ドヴォルザーク「新世界」を演奏しており、直後の5月15日、16日にベルリンフィルに初登場、ファリャの「恋は魔術師」、ストラヴィンスキーの「火の鳥」組曲、ドビュッシーの「牧神」、ストラヴィンスキーの「ペトルーシュカ」組曲を演奏しています。この演奏会と同時並行で、火の鳥とペトルーシュカはレコーディングされました。この話もいずれ書きたいですね。これも好きなCDですので。(フルートはニコレであると感じられます。牧神が録音されなかったのは惜しいですね!)そして、6月9日には再びウィーンで、ウィーン交響楽団、ファリャの「三角帽子」組曲、ドビュッシーの「夜想曲」、クルト・ライマーのピアノ協奏曲第4番(作曲者のソロ)、ストラヴィンスキーの「火の鳥」組曲とやっています。
ところで、これらのCDは、私は「EMI」と書いてあるCDで持っています。どういうレコード会社の仕組みなのかは知りませんが、この当時、ステレオ最初期のストコフスキーの録音は、まとめてセットのCDになっています(買おうと思ったときもあったのですが、持っていない曲がバッハのある小品だけであったので、買うのをやめた経緯があります)。いま、そのセットはナクソス・ミュージック・ライブラリで聴けますが、ドビュッシー4曲が1枚になっています。すなわち、この夜想曲およびイベリアのほか、「月の光」(ストコフスキー編曲)と「牧神の午後への前奏曲」です。「月の光」は先述の「ヒット・コンサート」のメインのアルバムである「ストコフスキー名曲集」のなかの1曲です。牧神のフルートソロは、ジュリアス・ベイカーであると書いてある輸入盤のCDを持っています(当時、新宿のムラマツ楽器でも、この牧神のフルートソロがベイカーであると知っている人はいなかったものです。ベイカーの棚にこのCDはなかった。教えてあげようと思いながら、教えないままになったかもしれません)。ところが、ナクソス・ミュージック・ライブラリのデータは間違いだらけで有名ではありますが、この4曲のオケがすべてロンドン交響楽団になっているのです。このなかで本当にロンドン交響楽団なのは「夜想曲」だけですが、あとは間違えたのでしょう。「イベリア」はフランス国立管弦楽団であるわけです。そして、罪が重いのが「牧神の午後への前奏曲」ですね。ストコフスキー指揮の牧神では、ほかに、ほんとうにロンドン交響楽団のものがありますから!(デッカの録音で、あります。)みんな間違えるではないですか!
というわけで、ストコフスキーのフランス国立放送局管弦楽団に客演したときに作られたレコードについてでした。この機会がなければ残らなかった曲も多く、貴重な記録です。この中古CDは宝です。
(ストコフスキーはしばしばフランスのオケも指揮しました。そもそもデビューは1909年5月12日のコロンヌ管弦楽団ですし、いかにも録音が残っていそうな晩年にも、パリ管弦楽団、パリ・オペラ座管弦楽団、プルミエ・プリ管弦楽団(なぞのオケ)など、いろいろ客演しています。でも、ストコフスキーのフランスでの録音って珍しい気がします。これだけ!?)
いまでも、ドビュッシー「イベリア」、イベール「寄港地」、そしてラヴェル「スペイン狂詩曲」などは、授業の開始前の時間調整音楽として重宝しています。いずれも後味が悪くなく、時間的にもちょうどよいのです。曲もいいし、演奏もよい。最高ですね!