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「傾向」の話
「傾向」というものがあります。たとえば(前にも出した例で恐縮ですけど)「イタリア人、女好き」とか「名古屋人、派手好き」みたいなものです。イタリア人はわからないので名古屋人の話をしますね。この「傾向」というものは何かと言いますと、名古屋人というものは、全員が派手好きだとは言っていないのです。ただし、名古屋人には派手好きな人が多いという「傾向」にあるという話をしているのです。(「音楽の都ウィーン」も似たようなものですね。もちろん音楽の嫌いなウィーンの人もいるわけで。大塚敬子『ウィーンに生きて』ご参照。)
たとえば、名古屋の人の派手好きが最も顕著に表れていると思うのが、しゃちほこを金で作り、お城に乗せるという感覚です。何年か前、名古屋のある宝石店で、「こどもの日」のころ、ビルの屋上に、金の鯉のぼりを立てていたことを思い出します。お城に金のしゃちほこを乗せる感覚と、何百年も変わっていないではないですか!それから、名古屋市役所の建物はまるで「ルパン三世 カリオストロの城」のようであり、愛知県庁の建物は「歌舞伎座」のようです。名古屋出身でない人が愛知県庁を見て「これが名古屋城ですか。立派なものですなあ」と言った話も知っています(いえ、それは県庁です)。ですから、傾向としては、名古屋人が派手好きだというのは、なんとなくあると思います。
高校の数学で「統計」を習うようになって10年はたつでしょうか。中学数学、小学校算数でも、統計的な要素は入ってきています。日本の人は統計に弱いと昔から言われていて、最近、入るようになったのです。ですから、ある年齢以上のかたはご存知ないことかもしれません。相関係数というものがあります。たとえば、喫煙率と肺がんの発症率には、正の相関があります。これは「傾向」の話です。(たくさんたばこを吸っても肺がんにならない人はいますし、まったくたばこを吸わなくても肺がんになる人はいます。しかし、たばこをたくさん吸う人が、肺がんを発症しやすいという「傾向」があるでしょう。)まだ統計が本格的に教えられていなかったころ、(私はそのころ数学の教師でした)この話を生徒にしたところ「そんな、あいまいなものを数学で扱ってよいのですか?」という質問が来たことがあります。しかし、これはあいまいではありません(そう言いたくなった生徒の気持ちもわかるとして)。2つのデータ(ここでは喫煙率と肺がんの発症率)があったとき、その相関関係を数で表すのです。0から1までの値をとり、大きいほど(1に近いほど)相関があります(学校ではマイナスの相関も習いますが、普通はプラスの相関を扱いますので、相関係数は0から1までと言っておきます)。これは、実際に手を動かしてみて、地道な計算を積むと、実感がわいてきますが、たとえば、相関係数が0.9くらいあったら、もう「比例」ではないか、というほど、強い相関があります。0.5でもけっこう相関があります。まったく関係ありませんというのが、相関係数0です。
(サムネの図を例にとりますね。これは、何のデータか知りませんが、散布図とか相関図とか言われる、縦軸と横軸にデータをとった図です。3種の異なるデータがあるみたいですが、はっきりと、右肩上がりの直線を描いているのが見て取れますでしょうか。これくらいあれば、かなり強い正の相関があり、直感で言いますが、おそらく相関係数は0.9を超えるくらいではないかと思いますね。)
というわけで、「傾向」というものはあります。たしかに、男の子は車のおもちゃが好きな傾向にあり、女の子は、おままごとが好きな傾向にあります。これは、「男の子だからぜったいに車や戦隊ものが好きなはずだ」と言っているのでもなく、「女の子は例外なくおままごとやお人形あそびが好きだ」と言っているのでもありません。おままごとが好きな男の子もいれば、車のおもちゃが好きな女の子もいます。ただし、私はここで「傾向」の話をしています。するからには、ちゃんとデータを取らなければいけませんが、傾向というものがあるのは確かです。ひとつ、はっきり傾向があると言える例を挙げますね。私は「不妊」の経験がありますが、「不妊ブログ」を書いている人は、ほとんど女性です。不妊はカップルの問題ですので、男性で不妊ブログを書いている人はいるはずですが、その数は極めて少ないと思われます。不妊ブログの著者は、ほとんど女性です。これは「不妊」で検索すればすぐにわかることです。(不妊のかたを傷つけるつもりで書いているわけではないことをどうかご理解いただきたいと思います。私も不妊治療の経験のある者として、不妊で苦しんでおられるかたは、精一杯、応援したい気持ちは人並み以上にあります。)
なにが言いたいかといいますと、ジェンダーの議論で、しばしばこの点が見落とされがちに感じるからです。「女の子はこう」「男の子はこう」「そもそも性は男と女だけではない」その他もろもろの意見がありますが、私は純粋に数学的な話をしております。「傾向」というものはあるのです。そして、それは、決してあいまいなものではなくて、数値化できるものです。いまの高校生は、高校1年で、標準偏差や相関係数を学ぶと思います。そういった知識が、たんに「大学に受かるためだけのツール」になってしまうのでなく、「生きた知識」として、世の中の現場で生かされれば、と思います。