ストコフスキーのデッカのワーグナー「指輪」抜粋
また、クラシック音楽オタク話を書こうかと思います。
私がストコフスキーにハマったのは高校3年のときです。1993年のことです。そのときはいなかに住んでおり、情報も少なく、翌年、東京の大学に進んで、たくさんのCDが売られているのに接して、のめりこんで行ったわけです。
今回、話題にするCDは、デッカに録音された、ストコフスキー指揮ロンドン交響楽団による、ワーグナーの「指輪」抜粋です。
これは、高校3年の終わりに買いました。すでに私は東大に合格を決めていました。もうすぐ高校を卒業です。ある、高校1年のときにお世話になった社会の先生のお宅におじゃますることになりました。その先生は、クラシック音楽がお好きでした。とくにワーグナーなどがお好みのようでした。私は、その先生のお宅へおじゃまする「予習」のような感じでこのCDを購入したのでした。だからやはり30年前ですね。このデッカのストコフスキーの録音は、当時、いなかでも売られていたのでした。
その社会の先生は、たくさんいた当時の私の高校の名物教師のおひとりでした。若いころはコピーライターを目指していたそうです。1000人以上の応募者から、最後の2人まで残ったことがある話なども聞きました。
いまでいうところの(私が教員であったころいったところの)「現代社会」のような科目を担当なさっていた先生でした。高校1年のときに授業を受けました。本来は世界史の先生であり、私は日本史選択となったため、高校2年以降はお世話になっていません。この先生の授業で印象に残っているのは、「第何回仏典結集」「アショカ王」などの話でした。ご自身の得意な「世界史的な話」をなさっていたのでしょう。
この先生は、クラシック音楽マニアでしたが、以下のような楽しい思い出があります。文化祭でわれわれオーケストラ部は「1分間指揮者コーナー」というのを設けていました。これは同様の名前である東大オーケストラのよりもずっとバラエティに富んでいました。東大オケはベートーヴェンの運命の最初の1分だけですが、この高校オケは、さまざまな曲でやるのでした。一般公開のときはお客さんに指揮してもらうのですが、内輪の発表のときは、名物先生に指揮してもらうのでした。この先生は、高2、高3のときと指揮してもらいました。もはや「1分」ではないのでした。高2のときにはワーグナーのマイスタージンガー前奏曲を指揮してもらいました(適当にカットするのは私がやりました)。高3のときには「キエフの大門」の最後のほうをかなり長く指揮してもらいました。この先生は、得意満面で堂々と指揮なさるのでした。
思い出が長くなっていますが、このCDです。「ワルキューレの騎行」「森のささやき」「ワルハラ城への神々の入場」「夜明けとジークフリートのラインの旅」「ジークフリートの葬送行進曲」からなります。もともとのLPそのままだと思われます(収録時間からしても)。1966年8月26日の録音です。同じイギリス滞在(プロムスだと思われます)の9月10日には例のニュー・フィルハーモニアのチャイコフスキーの交響曲第5番も収録しています。それは日を改めて書けたらと思います。この日の「ジークフリート・コール」は、このCDには記載がありませんが、バリー・タックウェルです(のちに輸入盤のCDに書いてあるのを見たことがあります)。ちなみにそのチャイコフスキー5番のホルンソロはアラン・シヴィルです(これは柴田南雄の書いたもので知ったような)。
とてもすばらしい演奏です。このころは、まだストコフスキーは音楽の集中力を保っていた時代であることを思わされます。まったくゆるむことのない音楽が展開されていきます。長く聴き続けたCDです。
ところが、数年後に、私はこのCDを紛失するのです。私はある学生寮に住んでいました。そのころはまだインターネットやスマホなどはなく、音楽を聴くとすればCDしかなかった時代です。ある後輩から、「ワルキューレの騎行」を聴きたいと言われたのです。彼の好きなプロレスの選手が、この音楽で入場するのだということでした。私は彼にこのCDを貸しました。そのころからないのです。彼は、自分は返したと言いました。私もそんな気がします。しかし、どうしてもないのです。
ない状態が、四半世紀くらいは続いたと思います。私は、およそ2、3年前に、これを中古で買いました。おそらくAmazonだったと思います。便利な時代になったものですね。使用感があるものの、とてもいい中古が手に入りました。改めて聴いてみて、ほんとうにいい演奏だと思っています。これもまた、私の青春のCDです。