ストコフスキーと彼の交響楽団の1958年9月25日ライヴ
これはまた私がときどき書くクラシック音楽オタクネタの記事です。また、だらだら書きますよ。好きなものは好きなのだ!
ストコフスキーの1958年のライヴ録音で、4曲すべてがCD化されているライヴ録音があります。9月25日のカーネギー・ホールでの演奏会で、オケは「彼の交響楽団」と書いてあります。このCDはすでに学生ではなかったころ、しかしもう十数年前に購入したものです。いまでもひんぱんに聴く、非常に気に入っているCDです。
演奏順に収録されているかどうかがわからないのですが、CDの収録順に、ヴォーンウィリアムズの交響曲第9番、リーガーの新しい舞曲、ホヴァネスの「神秘の山」(交響曲第2番)、クレストンのトッカータ、です。現代でもこれは「攻めた」プログラムでしょう。お客さんにとっておそらく親しみのある曲が1曲もないです。
「ストコフスキーと彼の交響楽団」は、レコードで有名になったオケです。もともとレコード録音のために結成されたオケで、レコードが好評で、演奏会活動をするようになったというオケはときどきあるようです。ストコフスキーの時代にはNBC交響楽団がそうであり、またフィルハーモニア管弦楽団もそうであったと聞きます。しかし、現代ではそれはなかなかない話だろうと思います。おそらくこの演奏会は、ストコフスキーの知名度で、興行として成立した演奏会ではないかと思います。(この演奏会がCD化されるのも、やはりストコフスキーの知名度ゆえである気もします。)
このうち、ホヴァネスの交響曲第2番「神秘の山」は、ストコフスキーの委嘱で成立した音楽であり、ストコフスキー指揮ヒューストン交響楽団によって初演されました。ストコフスキーはホヴァネスの多くの作品を初演しています。現在、正式なCDとしてリリースされているものとしては、交響曲第1番(追放者)(NBC交響楽団)、交響曲第3番(シンフォニー・オヴ・ジ・エア)があります。ほかにも非正規の録音ならばたくさんありますが、私はホヴァネスの作品としてはもっぱらこの3曲を好んで聴いています。交響曲第3番は、数学の授業前の音楽としてパソコンに取り込んでいるほど気に入っています。
ストコフスキーがホヴァネスの「神秘の山」を初演しているらしいことは、まず「クラシック音楽作品名辞典」の、初演の時期と場所(ヒューストン)から推測したことです。それ以外はわかりませんでした。のちに、ストコフスキーの初演した曲のリストに入っていることを見、それで、ぜひ聴いてみたいと思いました。しかし、当時はインターネットのない時代です。もちろんYouTubeなどあるはずもなく、ラジオでやらない限りは、CDを買うしかなかった時代です。しかし、この曲は珍しすぎて、CDがほとんどないのでした!かろうじてCD屋さんで見つけたフリッツ・ライナー指揮のCDは経済的理由から買えなかったことを思い出します。
それで、近所の区立図書館に、ひんぱんにリクエストを出しました。しかし、買ってもらえません。出ていないから当たり前でした(上述のライナー盤は輸入盤であり、区立図書館では買えないのでした)。何年もねばった挙句、シュウォーツ指揮のホヴァネス作品集が国内盤で出ました!(シアトル交響楽団の再録音ではありません。このときのオケはなんだったかな。忘れました。)このチャンスを逃すことなく、私は区立図書館にリクエストをし、購入をしてもらい、ついにホヴァネスの「神秘の山」を聴いたのでした。
これは、3楽章からなる15分くらいの、それほど長くない交響曲でした。ト長調の印象的な和音で開始されます。ホヴァネスはこのように、独特の和声進行で聴かせる作曲家だったのです。先述の「クラシック音楽作品名辞典」には「ただし通俗音楽の域を出ない」というやや失礼な書き方がなされていましたが、当時はシュトックハウゼン的なものが前衛的とされていた時代だったことと、それからどうやらコステラネッツという通俗的と思われていた指揮者がホヴァネスをレパートリーとしていたかららしいことは容易に想像がつきました。もちろんいまではホヴァネスをそのように評する人はいなくなったと思います。
シュウォーツという指揮者は、ストコフスキーの指揮していたアメリカ交響楽団でトランペットを吹いていた人物であり、私の知っているころはもう指揮者として著名でした。来日して日本のオケも指揮していたと思います。ホヴァネスに理解を示すのもストコフスキーの影響かもしれない?と思ったりもしました。(ハイドンとフンメルの協奏曲の「吹き振り」のCDを求めたときもありましたが、楽器も非常にうまいかたでした。)
さらに、朗報がありました。ストコフスキー指揮のアメリカ交響楽団の演奏会で、このホヴァネスの神秘の山を取り上げているライヴ録音が、マニア間で発掘されたのです!これは万難を排してどうにか入手しました。ブラームスの交響曲第1番の演奏された日です。それこそトランペットは若き日のシュウォーツが吹いているのかもしれません。その演奏でようやく私はストコフスキーの指揮でホヴァネスの神秘の山を聴いたのでした。
この1958年ライヴはそれよりも前の録音であり、ストコフスキーの指揮するホヴァネスの神秘の山としては最も状態よく残されたものだと思います。ホヴァネスの交響曲としては、先述の第1番、第3番と並んで私の好きな音楽です。
この「神秘の山」とは、日本の富士山をイメージしているのだ、と後から知りました。ただ、多くの日本の人がイメージする富士山とはだいぶ違う印象を受けると思います。
さて、ヴォーンウィリアムズの交響曲第9番です。これはアメリカ初演時のライヴ録音になります。これもストコフスキーのアメリカ初演曲であったため、私はだいぶ前から聴きたかった音楽なのです。かなり若いころから、ヴォーンウィリアムズの交響曲第8番のBBC交響楽団によるプロムスのライヴ録音のCDを持っていて、(いまでもよく聴きますが、)それを気に入っていた私は、どうしても聴きたい音楽でした。しかし、これもやはりラジオでやらない限りはCDを買うしか聴きようのない時代であり、経済的にもCDがなかなか購入できないのでした。
あるとき、ヴォーンウィリアムズの交響曲第9番のCDが格安で売られているときがありました。バーゲンみたいなときに当たったと思います。イギリスの有名な指揮者、オケによるCDでした(きちんと覚えていなくてすみませんが、たとえばブライデン・トムソン指揮のロンドンのオケみたいな感じだったと思います)。それを購入し、親しんだのが学生時代でした。ストコフスキーの指揮でこの曲を味わうことはないのだろうと思っていました。
それが、いまから十数年前だとは思いますが、あるCD屋さんでこのCDを見つけたわけです。ストコフスキーの指揮で、しかもそのアメリカ初演時のライヴ録音がある!これはすぐに買いました(勤めていたころで、生涯で最も経済的には余裕のあった時代。最も精神衛生上よくない時代でしたが・・・)。少し古い録音ですが、よさは十分に伝わります。ストコフスキーの、ヴォーンウィリアムズ語法を熟知した見事な演奏に打たれた次第です。
このほかの2曲も見事であり、リーガーの新しい舞曲、また、クレストンのトッカータと、珍曲が続きます。(ようするにベートーヴェンだのチャイコフスキーだのがまったく演奏されない演奏会だということです。)しかし、いずれも手を抜いたあとはなく、何回、何十回、聴いても飽きのこない名演奏なのです。曲もよいです。これを生で聴いたら圧倒されたことでしょう。
いずれの曲も、珍しすぎるせいだと思いますが、ストコフスキーの正式なレコーディングはなされませんでした。しかし、このライヴ録音が残ったことはありがたいことです。ファンとしては、これは宝だと言えます。65年前のアメリカでの演奏会ですが、鮮やかな記録として残されています。とくにホヴァネスはもっと人々から愛されてよい音楽である気がします。ヴォーンウィリアムズの交響曲も、第4番、第6番、第8番などと並んで、愛される価値のある音楽だと思います。
以上です。マニアックな話で失礼いたしました。