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ストコフスキーの生涯の最後から3番目の演奏会のライヴ録音

さて、息抜きに、またクラシック音楽オタク話をだらだらと書きますよ。「好きなCD」の話です。指揮者ストコフスキーの生涯で後ろから3番目の演奏会のライヴ録音です。1974年2月10日、ロンドン交響楽団を指揮したロンドンでの演奏会。オール・ベートーヴェン・プログラムで、「コリオラン」序曲、交響曲第8番、交響曲第3番「英雄」です。このすべてがCD化されています。

私がストコフスキーにハマったのが高校3年のとき、高校オケがムソルグスキーの「展覧会の絵」を取り上げたときです。17歳のときですね。いまからちょうど30年前ということになります(1993年)。そして、私は大学は東大に進み、東大オケに入りました。私が大学2年のときに東大オケはベートーヴェンの交響曲第3番「英雄」(以下「エロイカ」と書きます)を取り上げました(1995年)。私は降り番でしたが、みんなでおおいにエロイカに夢中になったものです。当時はインターネットなどほとんどない時代です。曲を聴くとしたら、生演奏でない限り、ラジオ等か、もっぱらはCDでした。皆さんが夢中になって部室で聴いていたのは、たとえばアーノンクール指揮ヨーロッパ室内管弦楽団によるもの。「うまい、うまい」と皆さん聴いていました。私もいくつかのエロイカのCDを買い求めたものです。フルトヴェングラー指揮ベルリンフィルのライヴ録音とかね(いまも持っています。これは、フルートがニコレなのではないかという思いから買ったCDです。おそらくニコレです)。当然、ストコフスキーのエロイカは聴いてみたかったものでした。しかし、当時、ストコフスキーのエロイカは、ひとつもCD化されていなかったのでした。当時、ストコフスキーのエロイカを聴くことは絶望的でした。

同じ年に、やはり東大オケで、ベートーヴェンの「コリオラン」序曲を演奏することになりました。これも私は降り番でしたが、ストコフスキーのコリオラン序曲を聴くことも、当時は絶望的だったと思います。

このころのストコフスキーは、演奏会と並行して、レコーディング活動を行っていました(というべきか、レコード会社の作戦でしょう)。この演奏会のうち、エロイカとコリオラン序曲は、ビクター(というのでしょうか)が録音しました。レコード用のセッション録音です。いずれも、ストコフスキーが公式には録音して来なかった2曲です。これらは、確か1999年くらいだと思いますが(院生の1年だった気がするので、そう思っています)、ビクターにステレオ録音されたストコフスキーのレコーディングがすべてCD化されてボックスとなって発売されたことがあるのです。私はいまでも持っています。それで、はじめてストコフスキーのエロイカとコリオラン序曲を聴いたのでした。

エロイカはすばらしい演奏でした。わけても第2楽章の二重フーガでテンポが上がるという設計はすばらしいと思いました。(当時は朝比奈隆+新日本フィルなどの、そこでかえってテンポが落ちる演奏が好まれていたものです。)ロンドン交響楽団らしい、ホルンの活躍もすばらしい。コリオラン序曲は、不自然なほど(通常の演奏より)速いテンポを取っており、どうもしっくり来ないものではありました。あとから考えると、どうもこの時代のビクターのストコフスキーのレコーディングは、出来不出来の差が激しいと言いますか、ストコフスキーの真価を伝えていないのではないかと思えるのでした。

ところで、1995年の東大オケに話を戻しますと、そのときは早川正昭先生が指揮されました。早川先生は「ベートーヴェンの当時は現代(その当時の)の標準よりテンポが速かったはずだ」という信念を持った稀有な指揮者でした。当時はまだカラヤンが亡くなって数年という時代でした。カラヤンのようなベートーヴェンが通常だった時代です。(いまでこそこの「早川正昭流」は世界の標準となって久しいですが。)アンケートには「私はベートーヴェンを聴きに来たのであって、早川正昭を聴きに来たのではない」というようなものもありました。のちにこのわれわれの本番が部員のあいだでCD化されたとき(私は自分の乗り番しか持っていません。そのCDを買わなかったのです)、ある乗り番だった仲間が「早川先生指揮のわれわれの演奏は、発売されているどのCDよりも、第2楽章が速い」と笑いながら言っていたことを思い出します。しかし、実はストコフスキーの第2楽章は、その早川先生の第2楽章よりも速かったのでした。(1974年にして!ストコフスキーは偉大かな!)

さて、ようやくだんだん、本日のCDの話になります。これは、そのレコード録音と並行して行われた演奏会のライヴ録音であるわけです。ストコフスキーは92歳。(いやよく見るとまだ誕生日を迎えていないから満年齢で91歳か。)生涯で最後から3番目の演奏会と書きましたが、最後から2番目の演奏会が「ロンドン告別コンサート」で、それがストコフスキーのラスト演奏会になる予定だったのが、1975年にちょっと人前に現れたので、それがラストになってしまいました。つまりこの演奏会は、ストコフスキーのラス2の演奏会と言ってよいものだと思います。

中プログラムである交響曲第8番は、さらに私が聴くのに時間を要した演奏です。ストコフスキー指揮のベートーヴェンの交響曲第8番は、シカゴ交響楽団の記念ライヴCDが発売されるまで、聴いたことがなかったのです。ストコフスキーはベートーヴェン8番は、1920年(いまから103年前ですな)に第2楽章をアコースティック録音したのを除いて、正式なレコーディングを残しませんでした。この1966年のシカゴ交響楽団のライヴは、長いことストコフスキー唯一のベト8でした。ショスタコーヴィチの交響曲第10番とともに演奏され、ともにシカゴ交響楽団によってCD化されました。いずれもすばらしい演奏です。ショスタコーヴィチ10番のすばらしさについてはまたの機会にしましょう。とにかくストコフスキーのベト8についてはこんな感じだったと思います。

このストコフスキーのラス2(ラス3)の演奏会のライヴ録音がある(CD化された)というのは、どこで聞いた情報でしょう。東京の秋葉原の石丸電気で売っているという情報を目にしたと思います。(おそらく東京を去ってから。東京にいたら買いに行っていたと思います。)しかし、どうもその情報があやしい。私の記事にたびたび登場する、オランダの国際的ストコフスキーマニアに聞いても、「ロンドン交響楽団のライヴ録音のベートーヴェンの8番と3番」と言っても、「シカゴ交響楽団のライヴ録音のベートーヴェンの8番と2番」と間違えるくらい(まあお互いに英語でやり取りしているから意志の疎通が難しいというのもある)、国際的に知られていない録音だったのです。彼が知らないとはね!(ちなみにシカゴ交響楽団のベートーヴェン2番は、彼によるとスタジオ録音のライヴ録音。ホールではなくスタジオにお客さんを入れて取った録音らしい。)

そして、いつのことだったか。10年以上は前である気がしますが、私は日本のマニアックなクラシック音楽のCDを扱っているネット通販で、このCDを見つけたのです。CD-Rでした。(石丸電気で売られていたのもCD-Rだという情報でしたが。)買いました。聴きました。驚きました!

汗びっしょりになるほどの超名演奏だったのです!

コリオラン序曲は、先述のビクターの「不自然な」演奏とは違い、いきいきしています。ビクターの録音にはない小技もあります(本来ないところにティンパニを入れている。これがまた絶妙)。あとからこの録音を聴いたそのオランダ人マニアも「ファンタスティック!」と絶賛していました。

ベートーヴェンの8番もすばらしい。第3楽章の思い切った繰り返しの省略、第4楽章の独特のリズム。シカゴ交響楽団ライヴとどちらがいいのだろう。(録音状態はシカゴのほうがよさそうですが。)

エロイカは、ストコフスキーの未発表ライヴはいくつかがCD化されるようになりました。フィラデルフィア管弦楽団ライヴや、アメリカ交響楽団ライヴが2種など。そのうちでも、格別に上出来なのがこのロンドン交響楽団ライヴなのだ!すごい!なにより、ストコフスキーの指揮のもと、オケが自由に、のびのびと、いきいきと演奏しているところがすばらしいです。ロンドン交響楽団の名物、「ホルンのかまし」も、ようするにストコフスキーがやらせているというより、「やりたいようにさせている」のです。

ストコフスキー92歳(91歳)のときの、生涯でラス2(ラス3)の演奏会のライヴ。オール・ベートーヴェン。ストコフスキーはこの日、ホールに集まったお客さんに「芸術とは芸である」ということを身に沁みさせたのではないか。やはりストコフスキーは偉大であった!

本日はこのへんまでにしますが、今後、書く予定の記事。※ベートーヴェンのエロイカについては、東大オケのずっとのち、中高オケの顧問であったときに、やることになり、何回か指揮もしました。うち、第2楽章をお客さんの前で指揮した記事はまだ書いていなかったと思います。いつか書こうと思いながら。※ここに書いた「ロンドン告別コンサート」のライヴ録音のCDは、それこそ30年近く前から持っています。これも「好きなCD」のタグで書かねば。※ロンドン交響楽団をストコフスキーがはじめて指揮したのは1912年。その60年後である1972年に同じプログラムで同じロンドン交響楽団で演奏会が行われ、レコーディングもされた。これこそ30年近く前から持っているCD。これもいつか書きます。※ストコフスキーは、ベートーヴェンの交響曲では、第5番「運命」、第7番のように、ひんぱんに取り上げ、たくさんの録音が残った曲もあります。そんな得意な演目による記事も書きたい。

最後の最後にひとこと、ふたこと。①このロンドン交響楽団のエロイカは、あまりに好きな演奏で、数学の授業前の時間調整音楽として、パソコンに取り込み、ひんぱんに聴いています。②この演奏会ライヴは、かの世界的マニアのオランダ人も知らなかったやつです。彼に私が知らせることによって、おおげさには世界のストコフスキーマニアの知識の水準をあげたことは、ちょっとした私の誇りでもあるわけです。

本日は以上です!いい息抜きになった!長い記事でした!お読みくださりありがとうございました!

※サムネは記事とあまり関係ないですが、ある日本のオケによるエロイカの演奏のラジオ放送を私が楽譜にしたもの(finaleという楽譜作成ソフトを使っています)。決定的な間違いがあるのですが、わかりますか?よくまあ崩壊しなかったものですね。

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