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18 新学習指導要領における「知識」をどう捉えるか(その2)

前回の最後に、ベン図としてまとめましたが、知識については「曲想と音楽の構造」がポイントであることがお分かりいただけたと思います。ところで、学習指導要領における知識については、「知識の理解の質を更に高め」という言葉も出てきます。例えば、学習指導要領解説の「まえがき」には、以下のように書いてあります。

※高校は21年改訂となっています。

この言葉は、皆様よくご存じの「主体的・対話的で深い学び」と合せて使われます。具体的には、

知識の理解の質を高め資質・能力を育む「主体的・対話的で深い学び」

というように、主体的・対話的で深い学びの目的を説明する言葉として使われます。これは、これまでの学校教育が、知識に重点を置きつつも、その質的な高まりが十分でないため、これからは主体的・対話的で深い学びを実践することで、知識の質的な高まりをめざしていこうという方向性を示すものです。では、質の高い知識とは、何でしょうか?

質の高い知識とは?

質の高い知識とは、単に知っているだけではなく、分かって、使える知識を意味します。例えば、リコーダーの音色や響きと奏法との関わりについて理解する場面では、タンギングという技術があることを知る段階があり、その次にリコーダーを吹き、タンギングした響きと関わらせて分かる段階があります。そして、活用する段階として「このフレーズはなめらかに音をつなげたい」という思いから様々なタンギングのシラブルからレガートのタンギングで演奏していきます。つまり、そのフレーズの奏法について、タンギングという知識と技能を得たり生かしたりしながら、滑らかにつなげるという思考判断をした結果、技能が高まっていくということです。

また、例えば、夏祭りにいきお囃子を聴いた際、「この篠笛の音の切り方は、リコーダーのタンギングと違うようだ」などと、篠笛の指うち、つまり西洋と日本の笛における音の切り方の違いについて知識を更新する段階に到達します。今の例は特別な例でなく、教室の中でもどんどん知識は更新されていきます。

このように、知識にはその質の高まりがあることを踏まえると、教材となる曲の形式などを覚えたり,単純なエピソードなどを知ったりするのみでは不十分であることがうなずけると思います。

実感を伴った理解

この知識の質の高まりは、単に新たな事柄を知るということではなく、理解し、音楽活動に生かすことで得られます。逆を言えば、先ほど見ていただいたように、知識の理解や質の高まりのためには、音楽活動を通して、実感を伴いながら理解されることが不可欠であると言えます。

もう少し具体化してまとめると、このようになります。

音楽科・芸術科音楽における知識の習得に関する指導に当たっては、

① 音や音楽を伴わなくても得られる知識にとどまることなく
② 音楽を形づくっている要素の知覚・感受により実感を伴いながら理解したり
③ 表現や鑑賞などの音楽活動を通して得たりすること

が重要となるのです。資質・能力の名称として「知識」と示しているものの、知っているだけでなく、分かる,活用するという理解のレベルを求めていることに留意する必要があります。そして、この知識は、生徒個々の感じ方や考え方等に応じ、学習の過程で既習の知識と新たに習得した知識等とが結び付くことによって更新され再構築されていくものであることは、先ほどのリコーダーと篠笛の例でも確認したところです。

期末テストの謎解き

ここで、「知識をどう捉えるか(その1)」で示した期末テストの例に戻りたいと思います。

上の問題は、謡や舞の伴奏を「囃子」と呼ぶことや、能舞台の向かって右側に座り地の文の部分を謡う人々を「地謡」というなど、音や音楽を伴わずに知ることのできる知識です。
一方、下に示した問題は、能「敦盛」の3つの場面を実際に聴取し、それぞれがどのような謡い方なのかについて、コトバ、ツヨ吟、ヨワ吟それぞれを特定します。この解答に当たっては、例えば、「ツヨ吟はシテが腹の底から迫力ある声で朗々と歌う謡い方だった」などのように、知覚・感受を伴いながら、シテという役割やツヨ吟という謡い方の知識と関連付けて理解している子どもたちの姿が見えてきます(こうなると、「知識の評価はどの時点で、どんな形で位置付けるのか?」を考えることも必要ですね)。


以上が新しい学習指導要領でいう実感を伴った理解であり、「知識」なのです。こうして見てみると、「期末テストで、何を問うか?」が変わってきますし、「そもそも期末テストが必要なのか?」ということも考えていく必要もありそうです。

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