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17 新学習指導要領における「知識」をどう捉えるか(その1)

一般には、「技能教科」などと呼ばれることも多い音楽科・芸術科音楽。そんな音楽の学びにおける「知識」とは、どのようなものでしょうか?「知識」を評価する方法から逆算する形で、考えていきましょう。

こちらは、今年度、ある中学校の先生が作成した3年生の2学期の期末テストの一部です。こうしたペーパーテストは一般に、知識の習得状況を見取る方法として考えられています。

上の問題は、語群から選択肢を選び能の音楽の全般についての文章を完成させていく問題です。それに対し下の問題は、能「敦盛」の3つの場面を聴き、それらの特徴からコトバ、ツヨ吟やヨワ吟を特定するという問題です。どちらの問題も矢印で示したように、能に関する知識の問題である点で同じですが、「新学習指導要領」における知識という視点では、大きく異なります。

01 教科の目標における知識

「何が違うのか?」の前に、そもそも「新学習指導要領」において、知識はどう示されているのか、特に重要な部分を確認しておきましょう。
まず、1点目は教科の目標における知識の位置付けです。例えば、中学校音楽科では、教科で育成を目指す資質・能力を「生活や社会の中の音や音楽,音楽文化と豊かに関わる資質・能力」とし、これに続いて、その資質・能力の具体として、⑴知識及び技能、⑵思考力、判断力、表現力等、⑶学びに向かう力、人間性等という、いわゆる3つの柱として示しています。

これらの資質・能力は、相互に密接に関連し合うものであり、別々に分けて育成したり、順序性を持って育成したりするものではないことに留意したいものです。

具体的な内容

では、具体的な知識の内容を見てみましょう。以下は、小学校音楽科の教科の目標の知識及び技能の内容です。

曲想と音楽の構造などとの関わりについて理解するとともに,表したい音楽表現をするために必要な技能を身に付けるようにする。
小学校学習指導要領音楽科の目標より

太字で示した「理解する」までが知識の内容で、その後「身に付ける」という形で結ばれているのが技能の内容です。小学校音楽科では「曲想と音楽の構造などとの関わりについて理解する」ことが知識の内容として求められていることが分かります。
つづいては、中学校音楽科の知識及び技能の内容です。

曲想と音楽の構造や背景などとの関わり及び音楽の多様性について理解するとともに,創意工夫を生かした音楽表現をするために必要な技能を身に付けるようにする。
中学校学習指導要領音楽科の目標より

小学校音楽科の内容と比較すると、曲想と関わらせて理解する対象に「背景など」が加わることでより深まり、また「音楽の多様性」について理解することが新たに求められることで、知識の対象がより広がっていることが分かります。
そして、最後に高等学校芸術科音楽における知識及び技能の内容は、コチラ。

曲想と音楽の構造や文化的・歴史的背景などとの関わり及び音楽の多様性について理解するとともに,創意工夫を生かした音楽表現をするために必要な技能を身に付けるようにする。
高等学校学習指導要領芸術科音楽Ⅰの目標より

中学校音楽科の内容と比較すると、「背景など」としていたものがより具体に「文化的・歴史的背景など」となっていることが分かります。中学校や高等学校で示されているこの「背景など」との関わりについての理解は、ソナタ形式など単に教材となる曲の形式などを覚えたり,ロマン派の歌曲の背景にロマン主義の文学があって・・・などの単純なエピソードなどを知ったりするのみでは不十分であることに留意する必要があります。なぜ不十分なのか?の理由は、冒頭で示した期末テストの謎解きと同じ理由ですので、もうしばらくお待ちください。まずはここで一度まとめておきましょう。

一旦まとめ

ここまでで、各校種の目標における知識が「曲想と音楽の構造との関わりを理解すること」を中心に、発達段階に沿って示されていることが理解できました。そして、その具体的な内容が「歌唱,器楽,創作,鑑賞の領域や分野ごとに」事項として示されているので、それを見ていきましょう。

02 各領域・分野における知識

こちらは、小・中・高等学校の鑑賞領域の知識のうち、「曲想と音楽の構造」に関する事項をまとめたものです。

曲想と音楽の構造系

太い赤の枠で示した中学校の内容を中心に小学校と比較したり、高等学校と比較したりすることで、曲想と音楽の構造との関わりについての知識の内容の違いが御理解いただけると思います。
その違いは、大きく2つあるようです。

  • 文末にある「気付くこと」なのか「理解すること」なのかということ。

  • 高等学校の内容に示されている「表現上の効果」です。

表現上の効果とは、音楽作品や演奏に施されている様々な工夫によってもたらされるものです。また、同じ曲であっても,個々の演奏者が作曲者による表現上の工夫をどのように受け止めたかによって,当然ながら演奏された音楽表現は異なってきます。このように、気付きから理解へ、音楽の全般的な曲想から個別の感じ方へと、目標だけでなく、小学校、中学校、高等学校における知識の内容も深まり、広がっていきます。

伝統音楽・多様な音楽系

冒頭の期末テストで扱っている能に直接関連してくる、我が国や郷土の伝統音楽、及び諸外国の様々な音楽に関する知識の事項を並べてみました。こちらも、アジアから諸外国へ、そして現代の音楽へと、中学校から高等学校へと音楽の多様性に触れる学びが求められていることが理解できます。

領域・分野を俯瞰してみると

ここまで鑑賞領域内で校種間の比較をしてきましたが、これを表現の歌唱、器楽、創作の各分野にも広げ、ベン図のようにまとめてみました。

全ての校種、領域・分野において共通するのは、「曲想と音楽の構造との関わり」です。これは、全ての校種で教科の目標に据えられており、本質的な知識の内容であるので中央に赤で示してあります。その下に、創作の知識の内容である音やその組合せ、旋律や和音、反復変化対照などの構成などがあります。実は、音楽づくりや創作の事項には、「曲想と音楽の構造」という語句が使われていないのですが、音楽づくりや創作における知識は「曲想と音楽の構造との関わり」そのもので、より具体的に示されていると理解してよいと思います。
そして、歌唱と器楽、鑑賞についてそれぞれ円で囲って示してありますが、それらが重なり合うところ、例えば、歌唱と器楽が重なる部分は、両分野に共通する「様々な表現形態」や「生活や社会との関わり」を示してあります。なお、これらの文言については小学校から高等学校までの知識の内容を要約し、簡略化しているので、正確な内容はそれぞれの学習指導要領を参照ください。

03 次回予告

できるだけ丁寧に説明をしようと思ったら、だいぶ長くなってしまったので、ここで一度終わりにして、次回「その2」として、冒頭の2つのテスト問題の違いについて謎解きをしたいと思います。

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