ショートショート:秋の空時計
大きなヤマボウシの木がありました。黒猫のつぶちゃんは、いちばん低いところにある葉と仲良しです。その葉は新しく生えた若い葉で、二歳のつぶちゃんはちょっとだけ先輩でしたから、いばっていろんなお話をしたのでした。
「鰯雲だ。鰯って名前だからきっと旨い雲なんだぜ」
つぶちゃんが空を見て言うと、へえ、と葉はうなずきました。その日から葉は、よく空を見上げるようになりました。
「お前、そんなに鰯雲が食いたいのか」
「違うよ。秋の空時計を見てるんだ」
「秋の空時計?」
「僕らに『その時』を教えてくれるのさ」
あおあおとしていた葉は、いつの間にか薄い茶色になりました。
「もうすぐ『その時』がくるよ」
「遠くに行くの?」
「ああ」
つぶちゃんは空を見上げました。鰯雲が広がっています。
「じゃ、鰯雲って旨いのか調べてくれる?」
「いいよ」
強い風が吹きました。葉は木を離れ、飛び立ちます。また冷たい風がびゅっと吹いて、つぶちゃんはくしゃみをしました。
(410字)
※フィクションです。
たらはかに(田原にか)様の『毎週ショートショートnote』に参加しました。
秋を通り越して冬になりそうですね~。
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