がんサバイバーと肥満症 ダイエットをするメリットと3つの課題
このnoteはこんな方におすすめです。
・がんサバイバーと肥満症の関係についての科学的な知識を得たい方
・ダイエットを考えているけれど一歩踏み出せない方
・なぜダイエットがうまくいかないのか理由を知りたい方
このnoteで得られる知識を1枚で!
肥満症のがんサバイバーは多いですし年々増えています。
化学療法や手術治療を始めた段階ではその治療に必死ですが、ある程度治療が落ち着いたり終了したりすると余裕が出てきます。がん治療の主治医が「痩せた方がいいですよ」と伝えられた場合、「デリカシーがないなあ」と思われるかもしれませんが、その先生は相当いい先生である可能性が高いです。なぜなら、がんサバイバーの肥満症は重要な課題だからです。
肥満関連がんとは?
そもそも医学的に体重を定義するときには主にBMI (Body Mass Index) が用いられています。
BMIは、体重 (kg) を身長 (m) の2乗で割った値で、以下の基準で分類されます。
低体重: BMI 18.5未満
普通体重: BMI 18.5以上25未満
過体重: BMI 25以上30未満
肥満: BMI 30以上
最も権威のある医学雑誌の一つであるNew England Journal of Medicineの肥満症とがんについてのレビュー
Lauby-Secretan B. N Engl J Med. 2016;375(8):794-798.
では過体重や肥満がリスク要因となることが、十分なエビデンスをもって示されているがんを「肥満関連がん」と位置づけています。肥満症は慢性炎症・ホルモンの異常・腸内細菌叢の変化を通して発がんを促進します。
この論文では、2016年時点で、以下の13種類のがんが肥満関連がんと結論づけられています。
閉経後乳がん
子宮体がん
卵巣がん
大腸がん
食道腺がん
胃噴門部がん
肝臓がん
腎臓がん
膵臓がん
胆嚢がん
髄膜腫
甲状腺がん
多発性骨髄腫
肥満関連がんに関する研究はまだ発展途上であり今後異なるがんも肥満症との関連が示される可能性があります。注意点としては、肥満だけががんの原因ではなく、肥満はがんを発生させる一要素にすぎません。肥満だったからがんになってしまったんだ、とは思う必要はありません。
肥満症のがんサバイバーに対する減量の科学的根拠
Chlebowski RT. J Clin Oncol. 2016;34(35):4238-4248.
この論文は2016年までの肥満症に対する減量介入をまとめた、女性のがんサバイバー(乳がん・卵巣がん・子宮内膜がん)を対象とした減量ランダム化比較試験(RCT) に関する包括的なレビューです。
減量により以下が改善することが示されています。
・体重減少・血液検査の代謝マーカーの改善
・QOLの改善:身体的・精神的にQOLが上がる可能性
・がん再発と死亡リスクの改善:乳がんサバイバーに対する二つの研究を引用して肥満症の改善が再発を減らし死亡リスクを下げる可能性を言及しています。正確には研究内では、乳がんの再発リスクの有意な改善を示せませんでしたが、介入が良い影響を与える可能性が高いです。
がんサバイバーの肥満症:特有の問題と未解決の課題
肥満症を併発するがんサバイバーの方は増加しています。
しかし、一般の肥満症とは異なり、がんサバイバーの肥満症には特有の問題が存在し、その解決には慎重かつ多面的なアプローチが必要です。ここでは3つの観点から、がんサバイバーの肥満症特有の問題を考察します。
1. がん治療による毒性:長引く副作用はダイエットの強敵!
ホルモン療法と体重増加: 乳がんや前立腺がんなどに用いられるホルモン療法は、体重増加の大きな要因です。アロマターゼ阻害薬、タモキシフェンといったホルモン療法は基礎代謝の低下、脂肪量の増加、筋肉量の減少を引き起こし、体重増加につながります。
化学療法による心毒性: ドキソルビシンなどのアントラサイクリン系薬剤は、心機能低下を引き起こす可能性があります。心毒性は、運動時の息切れや疲労感の増強、運動耐容能の低下を招き、運動療法の実践を困難にします。
化学療法や放射線療法による倦怠感: 多くの化学療法薬や放射線療法は、遷延する倦怠感を引き起こし、身体活動量の低下につながります。
味覚障害: 化学療法や頭頸部への放射線療法は、味覚障害を引き起こし、特定の食品への偏食や、高カロリー食品への嗜好の変化を招く可能性があります。栄養指導や、味覚障害に対応した調理法の工夫など、専門的なサポートが必要です。
2. 肥満症治療の安全性に関するエビデンス不足
GLP-1受容体作動薬の可能性とリスク
近年、GLP-1受容体作動薬などの有効な肥満症治療薬(ウゴービの患者さん用リンクです)が登場しています。GLP-1受容体作動薬は、2型糖尿病患者や肥満症患者において、特定のがんのリスクを低下させる可能性が複数の研究で示唆されています。
Wang L. JAMA Oncol. 2024;10(2):256-258.
Wang L. JAMA Netw Open. 2024;7(7):e2421305.
しかし、すでにがんを発症したがんサバイバーにおける安全性は確立されていません。特に、甲状腺髄様癌や多発性内分泌腫瘍症2型(MEN2)の患者・家族歴のある場合、GLP-1受容体作動薬の使用は慎重に検討する必要があり添付文書にもリスクが記載されています。
外科的治療や薬物療法の選択における課題
肥満外科手術(いわゆる減量手術)は、大幅な体重減少に効果的な治療法とされますが、がんサバイバーに対する長期的な再発リスクや全身状態の変化についての研究はまだ不十分です。
3. 『がんだから痩せちゃダメ』は誤解!
がんサバイバーにおける肥満は再発リスクや生存率だけでなく、QOLの低下にも直結します。それにもかかわらず、「がんから回復したばかりだから体力を落とすような減量は避けるべき」という思い込みにより、適切なアドバイスや支援が遅れるケースがあります。
また、がんサバイバーの肥満管理の重要性は、医療者間でも十分に認識されているとは言えません。多くのがん専門医は、がんの治療や再発予防に重点を置いており、肥満管理は後回しにされがちです。
Demark-Wahnefried W. CA Cancer J Clin. 2015;65(3):167-189.
まとめ
まだまだわからないことも多い分野ですが、この記事を読んで「ダイエットしてみたいな」と思ったら、私はその気持ちを応援したいです。がんサバイバーに対して確立された肥満症の治療は運動・食事を整えることです。食事や運動を一歩ずつ改善して生活を整えていきましょう!
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