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蜃気楼

僕がなりたかったのは
偉人でも賢人でも聖人でもなかった
できる人 と呼ばれたくもなかった
ただ身近な人間に優しくありたかった
裏切られても
誰も傷つけずに耐えていたかった
どんな痛みも甘んじて受ける強さが欲しかった
怒りには笑顔で
憎しみには それを覆えるほどの愛をもって
応じたかった
それさえ守れれば
あとは何も要らなかった

なぜ 傷つけてしまうのだろう
なぜ 壊してしまうのだろう
なぜ 裏切ってしまうのだろう

僕が欲張って手を伸ばしたものは
追われるのが嫌いな蜃気楼の悪戯
満ちない瓶の発端
欲しがったのは
慈しみの眼差し
いたわりの温もり
癒しの音
理解のことば
消えない哀しみを包み込むほどの大きな腕
そして まごころ…
緊急入院した時みたいに誰かにそっと
付き添ってもらいたかった

なんだ 僕はまだ“~してもらいたい”んだな

怖れも手伝って破壊を招いた
混乱していた
愛する者たちに食ってかかった
こんな自分をひどく憎んだ
死んだ方がいいとまた強く思った

いつまでたっても癒えない傷があって
内部からは腐った血と膿ばかりが滲み出るだけならば
こんな繰り返し 終わればいいと何度も願った
でも 誰も本気にはしなかった
いまだに僕の壊れた心は助けを求めている
でもきっと誰も気付こうとしない

give and take もしくは
give and give の理想は
遠い遠い蜃気楼の悪戯……

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