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Lesson 2. いかにして魂を生かすか

-訳者まえがき-

 人生には、いかに生きるか、を瞬きする間に深い次元で理解する時がある。わたしのそんな、生き方の心の原風景の一つに、インドの環境教育の国際会議のプレナリーホールがある。

 プレナリーは全員出席の、みたいな意味だから、プレナリーホールはつまり全体会会場だ。ホール、と言っても野外の施設の中庭に仮設の屋根を張った空間で、フロアは地面だった。屋根はブルーシートのようで、天蓋を支える辺縁の柱の外にはモンスーン地域の独特の草木が茂っていた。

 季節は11月、少し、暑さも引いて、北インド・グジャラート州のアーメダバードを訪れるには良い季節だった。

 東京で受けた奨学金の面接のために1日遅れで到着したその野外会議場のプレナリーホールでは、日本の大臣だか大使が招かれて、スピーチをする段になった。

 私はそれを、隣に座ったインドネシアの新しい友人と聴こうとした。

 スピーチが始まり、私は唖然とした。そのお偉いさんは、スピーチ原稿を、か細い声で、読み上げ始めたのだ。心のかけらもこめず。心なしか、猫背で、自信なさげに。

 一瞬、私の心に憤りが芽生えそうになって、それはすぐに憐みに凌駕された。隣を見て、新しい友人の表情に、同じような思いが脳裏を駆けめぐったことを認めた。

 彼の人生の何が、彼をこの壇上に上らしめたのだろう?

 国際会議の主賓挨拶に招かれる程の素晴らしい肩書きと、対照的にそれに埋没してしまったかのような彼自身の意思の灯のはかなさ。

一体、彼は何を自分に課して、この初老に差し掛かった壮年期まで歩いて来たのだろうか――?

 そういう、人生の航路として誤れる振れ幅、のような機微を一瞬で共有した青年期の私たちは、スピーチはそっちのけで、人生の目的は何だろうね、何を目指して生きているんだろう、環境教育で本当に人の意識は変われるのだろうか――というようなことを、国際会議のロゴの入った参加者用のノートに、筆談した。

 哀しげな棒読みのスピーチは、前途に希望を持つことのできた若者の逆説的なカタルシスになったから、そういう意味では、意義深かったのかもしれない。

 きっとあのおじさんは、彼自身の心の灯――「好き」というエネルギーや、情熱、こうありたいという理想、といったもの――を敢えて吹き消して、他人が彼に求める社会的立場や生活水準を追求してきたのだろう。そして今では、彼は彼自身が仕事を通して何を実現しようとしているのかを、完全に見失っている。だからもちろん、自分自身の生きてきた人生が後進たちに何を伝えられるか、何てことには考えが及びもしない。

 そんなふうに仕事をしている人に、ごくまれだけれど、たまに接することがある。そんなふうに生きている人の、人生を垣間見る機会が。そんなふうに産み出された仕事の産物を享受する立場になることが。いや、ごくまれ、よりも、頻度は高いかもしれない。悲しいことに。

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 インドのプラナリーホールで講演を聞いてから12年が経ち、私もいい大人になった。大人になるうちに、途中、私も人の求めるように生きて死んだ魚のような眼をしていた時間もある。そこから自分を取り戻して、今がある。

 そのお魚だった時も含めて自分は自分だけれども、そんな時間は必ずしも過ごさなくても良かったのではないか、と思う。若い人には、できれば過ごさずに、自分の「好き」のエネルギーを追求すること、仕事とそれを書け併せていくこと、に、人生の早くから時間を注いでほしい。若さという資源に恵まれた時間を。

 まだ大人になりきっていない人達には、灯を消さずに大人になって欲しいのだ。

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 …長い前書きですね。

 そういうことを、この章は適格に述べています。
 なぜかアップしそびれていた、タイムウォーリアー第2章です:

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Lesson 2. いかにして魂を生かすか


あなたの望みを知りたければ、世の中があなたに望むように諭すことに頭を垂れる代わりに、自分自身の魂を生かしておけばよかったのだ。

ロバート・ルイス・スティーブンソン
『ジキル博士とハイド氏』『宝島』


 私がタイムウォーリアーという生き方を選ぶとき、まず心がけるのは、いかにして自分の魂を生かすか、ということです。多くの人がそれを敢えて選択せず、ニセモノのアイデンティティに魂を吹き込もうとするのとは、対照的に。

 (心配する「worry」のウォーリアーではなく)戦士「warrior」としてのウォーリアーである私は、毎朝この世に目覚めたら、どのようにこの世界へ【奉仕したいか】を軸に、一日を創り出します。そしてこれは形を問わず、例えばホテルで皿洗いをしていたとしても、十分に愛とエネルギーとユーモアの心を込めてすれば、できることなのです。

 俗にいう「つまらない」仕事に心を込めて取り組んだ人は、あっという間に出世し、より「良い」仕事に就くようなるものです。それは彼らが、ロバート・フロストの言うところの「The way out is through」――出口はくぐりてこそ外へ通ず――ということを、理解しているからなのです。

 一方で、「たいしたことのない」仕事を「不当にも」「ずっとやらされて」いる人達は、いつも出口の外を探そうとしています。出口はくぐり抜けてはじめて外へ通じる、ということを、理解しようとしないのです。

 戦士は「抜け出し」ません。

 戦士は、くぐり抜けるのです。




本プロジェクトはStive Chandler 著「TIME WARRIOR」を邦訳し、リアルタイムでシェアするnoteです。翻訳したての原稿ですので後で加筆・修正があるかもしれませんが、1章1章、週1~2のペースで必要なメッセージを受け取ることができるのが魅力です。
 数章を無料で公開し、その後はnoteマガジン「TIME WARRIOR ・タイムウォーリアー」登録者への有料配信とする予定です。
 101章の一つ一つがレッスンになって、あなたの時間に対する観念を生まれ変わらせ、自分の夢を生きるためにアクションを起こさずにはいられなくしてくれます。
 わたしも、ずっとやりたかった翻訳をすることを決め、人に尋ね回り、英文契約書のやり取りをし、版権を購入し、こうして翻訳をしています。わたしの夢を応援してくれる方の購入も、大歓迎です^^

*Lesson 6. からを有料配信とする予定です。どうぞご購読のうえ、この本の智慧を吸収してください。

TIME WARRIOR: How to defeat procrastination, people-pleasing, self-doubt,
over-commitment, broken promises and chaos
Copyright © 2011 by Steve Chandler
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