【アンソロジー】天をめざした青豆
いつの間にか夏が来ていて
ずっと雨だと思っていてまだ梅雨の空気なのに
そとは蝉の夏を乞うような鳴き声
理性の認識と、感覚の認識にこんなにズレのある夏は初めてかもしれない
学校で働いて3年が経つ
コロナの色々で夏休みが海の日過ぎても来てない
それも、変な感じを生んでる
――君のいない世界など 夏休みのない夏みたいだ、
みたいな歌詞が「君の名は」の挿入歌であった
まさに、そんな感じの、宙ぶらりんな夏
月が二つある世界に迷い込んだような夏
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外出自粛中に昨秋に植えていたスィートピーが蔓を伸ばし、満開を迎えた
貪欲に 上へ上へと絡みつく何かを探しながら、でも光の方へ螺旋を描いていくその姿は美しかった。
赤がいちばん先に咲いて、白、ピンク、紫が続いた
初めの頃の花がやがて青い鞘をつけた
鞘は次第に膨らんで、最大限に飽和すると、茶色くなった。
種が採れたことを、わたしは心から喜んだ。
来年もこの蔓と花を目いっぱい楽しめると思った。
全ての花がそうして種をつけることを期待していた。
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でも、そうじゃなかった。
種をつけたのは咲いた花の1割強で
花が咲き切ると
あんなに青々と伸びていた枝葉は
茶色くなって役割を終えたことを告げた
全ての花が実を結ぶ訳ではない
そんな当たり前の事実
かといって天をめざした蔓と花の盛りは
確かに何かを賛美していた
その青さに何が欠けているというのだろう?
・・
全部で35粒の青豆は
茶色く熟し、乾燥し
水分が殻のタイムカプセルを開けるのを待っている。
青豆の小さな願いは来年も天まで届くだろうか
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