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忘れもの女王が、白いバラを赤く塗らなくてもすむように。

ものごころついてから、忘れもの女王の名を欲しいままにしている(嬉しくない)。

ハッと気が付くと手に持っていたものが無くなっており、置い場所を思い出して猛ダッシュすることもあれば、思い出せなくてぐるぐると探し回ることもある。

すぐに思い出せればいいものの、数時間後、数日後に「どこの記憶のポケットに入ってたんだ?」と突っ込みたくなるタイミングで、浮き上がってくることもある。

プライベートや学生時代なら、仕方ないね、で損害が自分と周りの小さなサークル内で収まっていたから良かったのだが、社会人になるとこれが日々、ボディーブローのように効いた。

何かの事務局をするような仕事では、会議なりイベントなりに必要な物品をヌケなく、準備して持ち帰ってくることが業務に含まれている。何も忘れないように持って行って帰って来るには、相当な神経を使った。

それでも、バタバタしたりする瞬間が、イキモノである行事や出張や日々の業務には付きもの。ものごとが立て込んだり、想定外のことが起こると、私の注意は次々と目の前のことに移り、手元にあるモノの管理からは意識が離れる。

すると、忘れる。

ADHDがある。本を読んだり、二次障害のうつで病院に行ったり、ADHDコーチングなんていうのも受けたり、特性を知って対処しようと自分なりにがんばってきたと思う。

数年前、WAIS-V(IVだっけ?数字の感覚が弱い)という知能検査を受けてわかったことは、ワーキングメモリと処理速度が比較的低いことで、取る情報量に対して一度に扱える情報量が少ないらしい。かつ、目の前の刺激に対して注意が常に向いている。結果、注意が次々と移ってしまう。その中で脳内にプールできなくなった「モノ」をもっていることへの自覚は、自然、意識外へと拡散してゆく。

結果としての、無自覚にモノを置いて、からの、忘れもの。

わたしの頭の中の消しゴム、なんてタイトルの、確か韓国の映画かドラマがあったような気がするが、自分の脳にも消しゴムが備わってるんじゃないかと思う。

100回目のプロポーズだかアイラブユーみたいな、一晩寝て起きると昨日の記憶が消えてしまう女性とその恋人の映画もあった。大切な人との思い出や感情が消えるのは哀しいことだけれど、毎日初心に還って、でも恋をする。素敵な映画だった。


ヌケモレなく、確実に遂行する。

社会人として当然の、業務に求められる能力。
みたいになっているけれど、自分にとってそれは相当にきつい。

間違いは不注意で不真面目な職務態度の現れであり、本人の過失である、と言われてしまうと、本当に必死で忘れないように、できるように心を砕いて玉砕している身としては、身も蓋もない。

心から謝りながら、過去の叱責がフラッシュバックして心身がこわばる。失敗は失敗として受け止めて、反省して、切り替えて次の行動、っていけたらいいのに、と思う。

この社会には、自分の安寧の居場所はないんだろか?
時折、そんなふうに嘆きたくなりながら、平日は精一杯気を張り詰めて、職場へ向かう。正直しんどいけれど、学びも多いし、もう少し里の修行なのだろう。

初代ドラゴンボールのチャラー、へっちゃら―♪という主題歌の、「頭からっぽの方が夢つめこめる」という歌詞がほんとなら、きっとわたしの脳の空に近づきやすい性質は、夢をつめこめる素敵な脳だ。

「不思議の国のアリス」で、女王様は 赤がお好き♪ と唄いながら、トランプの兵たちが白バラを赤に塗りたくるシーンがある。

楽しくて大好きな、この滑稽なシーン。
女王様をそんなに赤いバラにこだわらせた・・・・・・ものは、何だったのだろう?と思い致してみる。

でいなくちゃいけない、無味無色の白では、女王職は務まらない。権威を示さなくちゃいけない――そんな思いこみを深く心に刷り込むようなできごとやのっぴきならない状況が、あのむちゃくちゃな王国で、女王という権限と責任を伴う職を頂くにあたって、あったのかもしれない。

一国の王という要職にあって、それは仕方のないことなのかもしれない。
でも、その国が自分自身の内面のメタファーだったのだとしたら、そんなにせかせかと「〇〇であるべき」を迫り、そうでないもの・・・・・・・を断頭するような王国ドメインは、控えめに言ってかなり窮屈なのではなかろうか?


エルサが雪の女王として君臨することをアレンデールの民が受け入れたように、忘れもの女王は忘れもの女王として、その美しい欠落と代償に恵まれた感受性の両方を愛でられる王国を、自分の中に築きたい。

……そうきれいにまとめようと書いていて、あれ?アナ雪Ⅱで、エルサはお母さんの故郷に還ったんだっけ?と思い直す。故郷って、何か辺境の、魔法あふれる国だったような。


近代文明の行き過ぎた街のひとごみの中では、自分自身として自然に息をしながら生きてくのは、やっぱり難しいのかなぁ…



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すかーれっと/Scarlett
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