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人生最悪の失敗と忘れられないうた

私の通っている学校から少し離れたところには所謂自殺の名所というものがあった。

いつものように通学のために電車に乗った。前々から、死にたいとは思っていた。自殺に繋がる行動を繰り返していた時期だった。何の変哲もない登下校。それでも、電車に揺られながらふと思ってしまった。「このまま、死ににいこう。」と。

いつもの駅で降りた。切符を買い再入場し、停車していた先程まで乗っていた電車に再び乗った。
ふとスマホを見る。好きだった人、付き合っていたけど振られてしまって、それでも忘れられなかった人から連絡が来ていた。連絡を返しながら、長い時間電車に揺られる。乗り換えをして、いつも見ない風景をぼんやりと眺めながら、私は何を考えていたのだろう。思い出せなかった。
駅からその場所まではかなり長い道のりだった。駅にはクリスマスの装飾が施してあった。カメラロールを見返してみればこれから死にに行くというのに私は呑気にその写真を撮っていたようだ。あの人から連絡がきていないか確かめる、まだ来ていない。Googleマップを頼りにして好きな音楽を聴きながら歩いた。
あ、通知。なぜだか私はその人と、その人が好きなアーティストの話をしていた。前々から影響されてそのアーティストの曲を聞いていた私がこの曲きいたよ、と送信すると、これは?じゃあこれは?とすぐに返信が返ってくる。道中歩きながらその曲を聞いていた。hideのHARRY GO ROUNDだったはずだ。他にも色んな曲を並べて勧めてくれた。その時はなんだかそれが嬉しくて、自殺しにいくとは思えないような足取りだったのを覚えている。まるで通学路を歩くかのように歩いていたんだと思う。hideってすごいなー、歩きながらそう思う。そういえば彼はもうこの世に居ない。今からhideがいる場所に行くのか、とも思った。
曲を聴きながら歩く歩く。空気は冷えきっていて、ダウンジャケットと帽子、手袋があっても寒いくらいだった。鼻なんて凍ってしまいそうなくらい。枯葉が落ちた道、コンクリートでがたがたの道、車で渋滞していて渡れなかった道。ざっと1時間ほど歩いたはずだ。全体的に人通りもなければ時々トラックが通る程度の田舎道だったので割とすんなり歩いてこれた。目的地であった橋が目の前に見えた。死ぬために歩いていたことをやっと思い出す。

名所というだけあってかなり高い柵と有刺鉄線が張り巡らされていた。ほとんどなにも思っていなかった。そうするものだ、というように私は柵を登りはじめる。そういえば、あの人もここで死のうとしたんだった。「有刺鉄線があるんだけど、服とかかければ余裕で越えられるよ。」有刺鉄線に手が届きそうになってその言葉を思い出す。荷物を背負ったままでは無理だ。1回降りてリュックをおろし、なんとなく携帯の電源を切ろうとした。







間違えた。

かなり参っていた私は間違えて緊急通報にスライドしてしまう。すぐに切った。もう一度電源を切ろうとしたところで、折り返しの電話がかかってくる。もうだめだ。ここで私は失敗を悟った。電話に出る。
声はさほど若くない男性のおそらく警察官だった。「〇〇警察署です。」その言葉を聞いてやはりか、と肩を落とした。見知らぬ警察官は私の命のために怒ってくれる。その時は頭が真っ白で何を言われたかほんとうに覚えていない。
もう少しだったのに。それだけしか思っていなかった。本当に馬鹿な間違いをしました、私は。私の自殺を止めたのは他でもない私だった。私が死なせてくれなかった。死ぬのでさえ私はこんなに不器用なんだ。
遠くからサイレンの音がする。


色んな確認をされて、パトカーに乗った。保護が必要だからという理由なのだけど犯罪者になった気分だった。深く絶望した。

頭は真っ白だったし、目の前は急に真っ暗くなった感覚だった。「また春に会いましょう。」hideがずっと頭の中で歌っている。ノイズが混じっている。いつまでもいつまでも耳の中で反響していた。あの歌が忘れられないのはそういうことだ。

まだこの件についてかきたいことは山ほどある。あんまり長くても誰も得をしない気がするのでまた今度かきたいと思います。

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