僕の実家は、トメにとっての、セカンドハウス(別荘)
年に何度か、旦那さんと僕とで旅行をする。
一番遠かった旅行はオーストラリアで、
一番近い旅行は…、箱根だろうか。
トメを連れていける時は、連れていく。
レンタカーの後部座席に僕とトメを乗せて、旦那さんが運転をする。
でも、飛行機や新幹線に乗る旅行だと、
トメを連れていくわけにはいかない。
オーストラリアの他にも、九州や島根・鳥取に旅行した際は、
トメを連れていくわけにはいかず、娘は東京に置いていくことにした。
そんな時、僕たちは、トメを、僕の実家に預ける。
(ペットホテルというものを利用したことは、まだないのだ)
僕たちが住んでいるところから、僕の実家までは、
電車を乗り継いで45分くらい。
トメは公共機関を使った移動のために、
お姫様のように、籠(かご)に入れられる。
普段はクローゼットにしまってある籠を取り出すと、
トメは「おやおや? いつもと様子が違いますね」と、
そわそわし始める。
でも、籠に入るのは、別に嫌ではないようで、
いつも使っているブランケットを籠の中に敷き、
「トメ、中に入って」と言うと、おとなしく入る。
籠、といっても、要するに車輪が4つ付いたケージなわけで、
トメはガラガラとキャリーケースのような籠で、運ばれる。
アスファルトの道は、意外とガタガタするもので、
初めての実家帰りの時は、トメが怖がるのではないか、と、
内心ヒヤヒヤしたのだけれども、
そんな飼い主の心を知ってか知らずか、
トメは籠の中でくつろいでいた。
電車内でも、トメはおとなしい。
籠の側面は網になっていて、一応、トメは外を見ることができる。
僕も籠の中のトメを見ることができる。
電車内の乗客がトメに気づくと、「あら」と声をかけてくれる。
「可愛いわね」とか「おとなしいわね」とか言われる中で、
トメは「そうなんです、可愛いんです」といった表情で、
「私はいい子だから、叫んだり喚いたりしないんです」と、
品格のある雰囲気を醸し出す。
よくできた娘である。
話が逸れたが、実家帰り、である。
父親は、もともと幼少期から犬を飼っていた経験があるので、問題なし。
僕たちがトメを迎え入れた時も、「おー、楽しみだね」の反応だった。
母親は、幼い頃に犬に噛まれたことがあるらしく、
当初は「えー、犬は怖いな」と言っていた。
でも、2人とも、トメにメロメロである。
実家のマンションに到着し、玄関で籠の戸を開けると、
トメはまだチャックが開き切る前に、鼻を突きだして、
「はよ、出せ。はよ、出せ!」といった勢いで、籠から這い出る。
もう、お姫様、ではない。
わんぱく娘だ。
実家は全室、床面がカーペットなので、
トメにとっては都合が良い。
まずはリビングをめがけて走り、一通り、リビングを走り回ったら、
次は廊下を伝って、両親の寝室や、
かつて、僕や妹が使っていた部屋をかけ巡る。
僕が今、住んでいるマンションはフローリングだから、
トメは、若干、滑ってしまうのだけど、
実家はカーペットだから、踏ん張りが効くのだろう。
走り走って、息を切らして、やっと僕と両親のもとに戻ってくる。
旅行前に、ちょっとお茶なんかして、
トメは「はー、さっきは興奮しました」みたいに息を整えて、
リビングに横になる。
「じゃぁ、そろそろ飛行機の時間があるから」と立ち上がると、
トメは、「あれ!?」と異変に気づく。
「じゃぁね、少しの間、お別れね」と言うと、
トメは玄関先まで、僕を追いかけてきて、
「え? 私を、ここに、置いていくの!?」という表情をする。
両親が「トメちゃん、大丈夫だよ、また帰ってくるから」となだめ、
外に飛び出さないよう、身体を押さえつける。
その間に、僕は、玄関の扉を閉め、旦那さんが待つ空港へ向かう。
(旦那さんはシャイなので、僕の実家には着いてきたがらない)
さて、実家から羽田空港までは30分程度。
空港に着く頃に、母親からLINEで連絡が入る。
「もう落ち着きました。すやすや寝ています」というコメントと一緒に、
トメの寝落ちした写真が送られてくる。
「待って! 置いていくの!?」と慌てた顔は、どこに行ったのだ…
旅行中、両親からは毎日、トメの状況と写真が送られてくる。
「お父さんが2時間も散歩に連れ出しました」
「道端の雑草を食べようと必死でした」
「うんちしました」
ちなみに、ここ数年は、トメは母親のそばにいたがるらしく、
「台所にいると、知らないうちに足元に忍び寄ってきます」
「女同士だからか、お母さんのそばにきます」
といった嬉しそうなLINEが来た後、母は何を悟ったのか、
「お母さんが、というよりも、食べ物を準備する人が好きなようです」
といったコメントが追って届いた。
旅行が終わり、トメを迎えに行くと、またトメは部屋中を駆け回る。
興奮がマックスになり、息を切らしながら、僕の足元に来る。
その後、お土産話をしながら、コーヒーやワインを飲んでいる間、
トメは僕の足元から離れない。
トイレに行こうと立っても、着いてこようとする。
「やっぱり、飼い主だってわかるんだね」と両親は関心する。
どうやら、どんなに打ち解けても、両親の前でのトメと、
僕の前でのトメとでは、様子が違うらしい。
「また来てねー」と言う両親の声を背に、トメはまた籠に乗り込む。
また45分の電車に揺られ、「可愛いわね」と声をかけられ、
トメは、旦那さんの待つマンションに帰ってくる。
「トメ―、久しぶりー」との旦那さんの声に、トメはまた興奮する。
残念ながらフローリングだから、滑りながら、トメは旦那さんに抱き着く。
日常生活に戻るために、夜の散歩に出かける頃、両親から、
「トメがいなくなっちゃって、静かな日常に戻りました」とLINEが届く。
この一連の流れを終えて、「あぁ、旅行してきた!」と僕は実感する。
さて、今度はいつ、旅行に行けるかな。
さて、今度はいつ、トメは別荘に泊まれるかな。
これからも、何度も、10kgの娘を散歩に連れて行けるよう、
両親には健康で長生きしてもらいたいものである。
(旅に出たい)