同情するなら、食べ物をくれ。
トメの食欲はすごい。
保護されたトメを引き取りに行った時、
ちゃるさん(保護してくださった方)が、
「この子はとてもいい子だけど、食い意地はすごいかも」
と笑って言っていたが、笑いごとではない。
食欲はエンドレス、底なしだ。
朝は僕が早く起きる。
キッチンに立ち、コーヒーを淹れようと思えば、
いつしか、足元にはトメが、いる。
ソファで目を閉じて寝ていたはずのトメは、
瞬時に、キッチンで目をキラキラさせて、
「私、ここにいます」のアピールを開始する。
そして、右足で、ちょいちょいする。
トメの利き手は間違いなく、右手だろう。
催促が時に、おばちゃんくさいけど、いじらしい。
夜ご飯は、旦那さんが作ってくれる。
僕はお酒を飲みながら、だらだらしているのだけど、
トメは集中力を維持して、キッチンで挑み続ける。
目を開いて、利き手でちょいちょいして、
調理中の人間から、食べ物を、獲得する。
ニンジンの皮とか、大根の切れ端とか、
キャベツの芯とか。
でも、やがて終わりは来る。
人間は「これ以上、あげてはいけない」と判断する。
トメは「次の作戦に出よう」と判断する。
それが、この姿勢だ。
「私、もう、ダメ…」の無気力さをPRしながらの、
利き手でない左手の伸ばし方。
天才か。
僕は「その手には乗らないよ」と告げるけど、
旦那さんは優しい心の持ち主だから、
「じゃぁ…」と、犬用ビーフジャーキーを取り出したりする。
まんまとひっかかってるやん?と、
関西人の友達が「きもい」と言いそうなイントネーションで、
旦那さんに突っ込んでみるけど、
旦那さんは「トメはね、昔、ひもじかったの…」と、
愛娘を擁護する。
そんな2人の人間を横目に、トメはご馳走を味わう。
トメは賢く、生き残るタイプだ。
自分の可愛さ、健気さをPRして、欲しいものを得る。
今日もまた、トメは欲しいものに、手を伸ばす。
今日もまた、人間は欲しがる娘に、手を指し伸ばす。
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