8.3 はちみつの日
はちみつ味のお酒を飲みながらチーズを齧る夜。
藍色と水色のグラデーションが窓枠の中を彩るけれどそれは知らない。
さっきブリキの月に流れ星が当たって角が曲がってしまった。
遠雷が鳴る。
口の細い瓶に入ったはちみつ色のお酒はあと半分。
グラスにつぎ足すと残りはあと三分の一。
夜の三分の一のところで、寝床で眠る蜜蜂の羽音が響いたのはきっと寝言であろう。
透明なちょうちょがチーズにとまっていたが、それを知らずにクラッカーに載せて食べた。
甘い甘い溶ける夜。
夜の中では誰もどこへも行けない。
銀色の檻に閉じ込められた脳みそ一つ。
箱庭の世界の中で、はちみつ色のお酒は減り続けた。
目の前には、はちみつ色のお酒とチーズだけ。
そのほかの夜のことは気づかないので知ることは出来ない。
知らないことだらけの夜の中で、透明な呼吸を繰り返しながらはちみつ色のお酒を飲む。
夜の残りはあとどのくらい。
8.3 はちみつの日