2.10 布団の日
寒い。寒すぎる。
嘉六は薄い煎餅布団を三枚重ねた中でぎゅむっと膝を折り身を縮めた。
いくら煎餅並みとはいえ三枚重ねた布団を最初は重いと感じていたが、人間は慣れるものだ。しかしそのくせ嘉六は寒さにだけは慣れることが無かった。
勇気を出して目元までを外に出して片目で様子をうかがってみる。
六畳の散らかった部屋にかかったカーテンの隙間からは、明るい光が漏れていた。朝ではない。これは昼の光だ。
嘉六は薄ぼんやりした気持ちと、一角が醒めた頭でまた布団に潜り込んだ。
あと一眠りしたら確実に夕方になってしまうだろう。
いくら明日が祝日だからといって、このまま日曜日を棒に振ってしまっていいのだろうか。
嘉六を罪悪感が襲ってくる。それは怠惰な自分への罪悪感だ。
しかし、誰が見ているわけでもないのだ。
全世界の中で、自分しかこの三枚がさねの布団に昼過ぎまで包まっていることを知らぬのに何故、どういう理由で、誰に対して、罪悪感を抱くというのか。
人間というのは不思議なものである。休日なのだから好きなだけ眠り休養してもいいではないか。昼に起きて活動しなければならないという法律はない。
しかし、真面目一辺倒の嘉六にはそれすらも怠惰な自分への言い訳のように思えてきて、結局は堂々巡りだった。
嘉六は、うんうんと唸って頭を痛めている間に、またうつらうつらと眠りについてしまった。
夕方に目を覚まして悲しみに暮れようが、しようがないではないか。
怠惰と幸福は布団の中で裏と表に貼り付いている。
どうぞ皆さま、よい眠りを。