2.7 フナの日
まだ木陰には雪の残る山合いの沼だ。
河童は暇になって釣りをしていた。
釣り糸の先につけた餌は小学生が落としていったパンの耳を千切ったやつである。
まだ魚がかからないうちに、針にかかっているパンは水に溶けて崩れていった。
じっと垂らした釣り糸の先を見つめる河童は、それを知らない。
ただ音もなく頭上から落ちてきたふやけたパン屑を、フナが口先で突いて食べた。
その美味しさにフナは雪のように降るパン屑を食べきってしまい、お腹が重くて沼底に沈んでいった。
河童はただじいっと、動かぬ釣り糸の先を見つめている。陽が傾いても、まだ見つめている。