7.5 ビキニスタイルの日・江戸切子の日
晴れた日の窓辺に、青い江戸切子のぐい呑みを置いた。
中に満ちているのはただの水道水であったが、顔を近づけるとふと潮の匂いがする。
私は何度も繰り返す夏の只中で、その溺れそうに潔い青の光の淵を、赤いビキニ姿で歩く。
小さくなった私は、強すぎて残像の残るような太陽の光を全身に浴びている。
まだ十代の、通学で程よく灼けていたころの肌の上を、透明な光の束が幾度も過ぎる。
誰も見ていない、果てしなく姿を変える江戸切子の乱反射の光の中の私。
ビキニの水着姿を有り難がる者も無く、その清々しさに手足を投げ出して砂浜に倒れる。
背中や手足にはりつく砂は乾いて、思ったよりもやや固い。
光の世界で終われたらいいのに。
こんなにも静かで美しい世界が、本物であればいいのに。
巨人のごとく大きくなった窓辺の私は、江戸切子の中の水を隣にあった花瓶に注いで、その場を後にした。
妄想のなかの赤いビキニが、花瓶に挿さった野花に変わる。
江戸切子の中で、誰もいない夏がひっそりと乾いていく。
午後二時十八分の筆記帳には、そんな秘密が書かれている。
7.5 ビキニスタイルの日、江戸切子の日