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時代と人とピアノと。

以前調律していた、あるピアノの中に入っていた調律記録です。

ふだんこういった名前はぼかして公開していますが、さすがにここまで古いと歴史的資料なのでそのまま掲載します

出荷された「12年」は平成でもなく、もちろん2012でもなく昭和12年。87年前に製造されたピアノです。

ちなみに出荷検査はヤマハの創業者・山葉寅楠のご長男らしく(養子に出ているので河合姓)、歴史を感じます。

この年は第二次世界大戦の始まる2年前。記録を見ていくと戦時中も調律をされていたようです。

20代の自分には昔過ぎた

やはり終戦の頃には調律はストップしていて、終戦後の昭和24年に再開。今になって見るとこの数字だけの記録からも、いろいろなことを考えてしまいます。

このピアノを担当していた頃の自分には昭和12年は昔すぎて、歴史と目の前のピアノを紐づけることはできませんでした。この古さの国産ピアノになかなか出会うことはないので、ただただ古さに驚いて、造りの良さに驚いてと言う感じ。

持ち主の方は数年後に亡くなられ、もう当時のお話を改めて聞くことはできません。でもピアノが届いたときには人生が変わるような大イベントだったということを、ものすごく嬉しそうに話されていたことは今でも覚えています。

時代ならではのピアノとの関わり

少し前には他のお客さまからもこの時代のお話を聞かせてもらえたことがあります。その日はひたすら単純作業な修理を数時間かけておこなう回だったので、ゆっくりお話をしながら作業ができました。

終戦直後、その方のお家には家を失ったお医者さん家族が間借りをしていました。部屋にはその一家の娘さんのピアノがあったそうです。幼かったその方はお医者さん家族が留守のあいだ、勝手に部屋に入ってそのピアノを弾くのが楽しみだったそうで。

そのときから今でもずっと、ピアノは特別なものだとおっしゃっていました。現代の倫理観では測れないエピソードなことも含めて、貴重なお話です。

世代とピアノと

ある世代以上の方のピアノに対する想いは自分の世代とは明らかに違ったものに感じます。特に1980年代生まれの僕たちはピアノの販売ピーク直後の世代なので、生まれたときからピアノが身近にあるのが当たり前すぎるかもしれません。

どの老人ホームに調律に行っても話しかけてくれる方が数人いらっしゃいますが、ピアノについて語るときの表情はみなさん特別なものです。自分も40代を目前にして以前よりは歴史上のことをリアルに捉えられるようになり、その気持ちに少し共感できるようになった気がします。

年齢を重ねると昔のことが逆に身近に感じられるというのは本当ですね。


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つくし@ピアノ調律師の書斎
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