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ミスド、スーパーラブゆえに

私は、親や親友にも呆れられるほど、思い出を忘却している傾向がある。
つい先日も母親に「じゃあ何なら覚えているの?」と訊かれて、何も言えなかった。私は何なら覚えているのだろう。

そんな私が、つい先日、高崎のREBEL BOOKSで購入した『ミスドスーパーラブ』

Twitterのタイムラインで存在を知り、文フリに行けない自分を嘆いていたらREBEL BOOKSの荻原さんが入荷案内で紹介されていて、ちょうどトークイベントに参加する予定があったこともあり、思いがけず(あっさり)入手できてしまった。嬉しい。

トーキョーブンミャクの西川さんがミスドの本つくりたいとおっしゃっているのをずっと前に見たような、「いいね」したような、いや、「楽しみだ」とまで言ったような(それすら覚えていない)待望のミスド本。執筆陣は、もう私が何か言うまでもない精鋭ばかりで、これはもう面白くないわけがないと読む前からわかっていたし、実際どれもめちゃくちゃ面白かった。ビジュアルも素敵だ。

しかし、それよりも衝撃だったのは、読みながら自分の「ミスドの思い出」が次々と蘇ってきたことだった。おいおい、覚えてるじゃねぇか。


そう、私もかつて「ミスドスーパーラブ」だった。

そう、だった。

ミスドは、まるごと「思い出」になっていた。


今の私はミスドに行かない。
確固たる意思で我慢しているとかではなく、目の前にミスドがあると「美味しそうだなぁ」と漠然と思うのだが、そのまま素通りしてしまうのだ。
ミスドのドーナツが身体にあわなくなってしまった。あんなに美味しかったのに、ご褒美のような存在だったのに。もっと言うと、ドーナツよりも先にダメになったのがコーヒーだった。おかわり自由の制度が今も存在するのかわからないが、あの保温機に何時間座っていたのかと訊きたくなってしまう風味のコーヒーは、2杯飲むと必ず胃が痛くなった。それに気がついたのは大学生の時で、なぜかちょっと裏切られたような気持ちで愕然として、それ以来、ミスドをイートインで利用することはほとんどなくなった。

大学生の私は、仕送りをもらわずに奨学金とアルバイトのお給料でおおよそをやりくりしていたので(米や野菜や服などはよく送ってもらったが)、ふだんのミスドのドーナツは高級品だった。100円セールの日であっても、「ドーナツ1個100円……食パン8枚切り98円……」と内心でぶつぶつ言いながら駅前をうろうろし、だいたい店に入ることもなくミスドをあとにしていた。食パン8枚あれば、1週間分の朝ごはんが確保されるのだから。それでも時々は猛烈に「ミスド」が食べたくなって、そうなったらもう他のドーナツではだめだった。かろうじて箱にならない個数におさめ、それでも3個か4個のドーナツをほくほくとした気持ちで買って帰って、一人暮らしのアパートでパソコンの画面を眺めながらもそもそと食べていたような気がする。奮発しても、ドーナツが消えるのは一瞬だった。

大学に入る前、受験生だった私は塾までの時間を駅のミスドで過ごすことが多かった。少し(と言っても10分くらい?)歩けばロイヤルホストがあったのだが、どうせコーヒーしか飲まないのにドリンクバーはもったいないし、スイーツが高い。しかも席がボックス席ばかりだったので、(あの頃はまだ勉強お断りなどという貼り紙はされていなかったが)4人掛けテーブルに1人で長居する申し訳なさが足を遠のかせた。
駅のミスドには「いつもの店員さん」と呼べるような店員はおらず、誰かと顔見知りになることもなく、(ロイホでの遠慮はどこへやら)ドーナツ1つをちびちびとかじり、コーヒーをおかわりしまくる「図々しく長居する高校生」を淡々と続けていた。
そんなある日、いつもどおり「ドーナツ1つとホットコーヒー」を注文した私に、店員の女性が「灰皿ご利用ですか?」と尋ねてきた。
……灰皿?
「……いえ、つかわないです」
と、言ったかは覚えていないが、内心で「ご利用だったらどうするんだ」とは思ったような気がする。高校生だぞ。
たぶん、制服じゃなかった日だったのだろう。かなり寒かった日だったような気がするから、コートとマフラーで年齢がわかりにくかったのかもしれない。中学生の時に親戚から「大学生だっけ?」と言われるくらいだから、高校生の私が大学生に見えたこともないとも言えない。受験生だったから、疲れた顔が社会人にすら見えたのかもしれない。というか、何も考えずに、マニュアルどおりに口をついて出てしまっただけかもしれない。そんなことをモヤモヤ考えていたら勉強も上の空だし、その日はなんだか胃が重いような、嫌な気持ちだった。しかし、その日以外でも、その「重さ」は私にのしかかってきた。それでも私はそのミスドに通い続け、「ドーナツ1つとホットコーヒー」で居座り続けたのだった。そういえば、あの頃はまだ駅の西口と東口に、2つのミスドがあったような気がする。今はもう、どちらもなくなってしまった。その座はスタバにとって替わられている。

その前は、環状線にある一戸建てのミスドが私にとっての「ミスド」だった。
あの頃からドライブスルーだっただろうか。幼い私は、どんなタイミングでミスドに連れて行ってもらっていたのだろう。

ミスドのキャンペーンが好きだった。スクラッチカードを集めて?いたような気もする。ピングーの電子手帳みたいなオモチャをくれたのはミスドだったのではなかったか。ドーナツを動物にしたキャラクターがマスコットだった時期があり、Dポップのひよこみたいなキャラクターがあまりにツボで、つい最近までそのキーホルダーを持っていた。いい加減に捨てようか、と悩んだような気もするが、今もまだ部屋のどこかにしまわれているかもしれない。

せっかくミスドなのに(という言い草もないかもしれないが)、飲茶が好きだった。小さなカラシを付けてくれる中華まんの季節が待ち遠しかったし、おかゆがなくなった時はがっかりした(いつのことだろう)。

このミスドの思い出の登場人物は自分一人だ。
高校生以降はたしかに一人だったことが多いかもしれないが、他の時はどうだったのだろう。

そして、肝心な、好きだったドーナツも思い出せない。
私はいつも何を食べていたのだろうか。


こんなにも思い出があるのは奇跡的だと思う一方で、
やっぱりほとんど覚えていないのかもしれない。
おいおい、結局ろくに覚えてねぇじゃねぇか。




こんなにもミスドスーパーラブゆえに思い出にまで穴があいてる




ごちそうさまでした

お粗末様でした

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