カリカリに水分を無くした人たち
今日は平日の休日。
天気大雨。
息子が、高校生活第1日目のスタート日だというのに慣れないコンタクトレンズを目に入れ込むのに時間がかかり、結局息子の学校まで車で送迎する所から、休みの朝がはじまった。
4月の花粉は強く
息子の目は白目を覆うほど赤く腫れていたが、息子は「今日は写真撮影があるから」と言って、眼鏡で登校する事を頑なに拒否し、痛い目にコンタクトレンズをようやく入れ込んだようだ。
息子は助手席に座ると、車内の中でソワソワと持ち物の確認をしていた。
登校早々に実力試験があるそうだ。
学校側の新しい生徒の成績をある程度把握しておこうという魂胆が読める。
入学試験が終わりホッとしたのに新入後試験、という事か。
人は競い合いランク付けする事を常にする。それは誰が上で誰が下か、の目安をつける判断基準とする。たかが紙の上での問題の解き合いなのに、まるで”人間”そのもの”個”たるものをランク付けする。会話も無い。していないのに、だ。
一体なんなんだ。
それは社会人になっても続く。
人間のランク付けは機能していない社会システムと一緒だ。
4年に1回のオリンピックの様に、その時その一瞬だけ勝利を得ればいいのだ。
それで世界一の名誉を与えられる。
息子を学校に送り、ひとつ目の信号で気がついた。助手席のドアポケットに英語の単語帳、ダッシュボード上に花粉用のマスクを忘れている。
小さい頃からの癖は変わらないものだ。
ポケットやバッグから物を出せば、出した分だけ忘れ物をする。
まだ間に合うかな、と息子に電話をかけようとしたが、車を降りる前に律儀に電源を消す姿を見ていた。あきらめた。
強い雨が昨日から車のボンネットに舞い積もった花粉を洗い落としていく。
今日は洗車をする予定だったが、この雨で良しとしよう。
息子の義務教育が終わり
市内の県立高校へ入学したといえ、実際入学時にかかる経費を甘く見ていた。
自分が想像したよりもだいぶかかる。
今日は資金を準備するとしよう。
保険の切り崩しは溜まっていない。2年前ぐらいに自家用車の買い替えで使ってしまった。
月々の積み立て金は10万円程なら残っているはずだ。
毎月の給料は残金が残らず、月々の積み立てから切り崩し事も多い。積み立てといってもこんな程度しか貯まらない。
子供の通帳には月々5,000円ほどの積み立てをしている。それをおろすしか、ないか。とも思うが子供の将来を案ずると悩む。。
子供手当は、なんだかんだいって子供の通帳に入ることはない。日々の暮らしの中で消化されてしまう。
特に贅沢をしているわけでもなく、
たまにお酒を買って、夜ひとり晩酌をするぐらいなのに。。
銀行に着いた。
朝1番、開店と同時に窓口へ。
久しぶりの銀行窓口、、
1番乗りなのに、受付番号取るのかと、受付機をしばらく眺める。
まだ、何秒かしかたっていない、その僕の不動の動きを察して、いちばん近い窓口嬢から「受付番号をお取りになって下さい」と、たたみかけて声が発せられる。
ちょっときつい声だ。
番号の紙が出ていない。
紙が出てくる印刷口の上にディスプレイがあり、何項目かのどれかを選択しないと、受付番号が出てこない仕組みらしい。
さっきの、きつい声が不安を煽る。
僕は1番客らしく、マイペースを保ち
要件はこれかな、とそれらしい項目を選ぶと紙が印刷口から出てきた。
積み立て用の用紙を書いて、順番を待つ。
我 先に と、張り切ったはいいが、
よく考えると1番客なのに順番待ち?とは、
なんだか不思議な気分になった。
番号が呼ばれ
受付に立つ。
「積み立てをおろしたいのですが」と要件を言う。
色々考えて子供の積み立てからも、ゴメンと五万円だけおろす事にした。
その通帳用の印鑑がどの印鑑が押されているのか、が分からず積み立て用の用紙には印鑑を付かずに用紙だけ受付嬢に渡した。何本か対象印鑑の候補を握りしめて。。
受付嬢が格闘家の技を返すぐらいのスピードでその用紙を荒く僕に返してきた。
「印鑑が付かれてませんが、なぜ付いてないのですか?付いてから持ってきて下さい」
僕が、どの印鑑かわからないからだ、と説明をすると、
「付いてもらわないと受け付けません。とりあえず何かの印鑑を付いて下さい。確認します」
と言う。
3本握りしめた印鑑の中から、適当に選択して用紙に印を押した。
その紙を渡して、どこかしらの席へ座ろうかと辺りを物色していると、またきつい声が追っかけてきた。
「これは誰の名義の通帳ですか?」
息子のです。と答えると、
「それじゃぁ、積み立てをおろす用紙の名義は息子さんの名前でしょ。書き直して!」
嫌な気分になった。。
なんでそんなに声を荒げて迫るように言うのだろう?
お客に対しての言い方?
いやいや、まるではじめて銀行に来た何も知らない人をバカにする様な言い方だ。。
あの人は今日生理?
随分あたりが強い。
俺何した?
不快な思いをされたかな?
なんだか、嫌な気分になった。
そして、このお金は誰のお金??とも思う。
僕がずっと積み立てしてきた僕のお金じゃないか。。
この銀行に預けておいたのを僕がおろしにきた。
それなのに、まるでおいっ、おまえ、何しにきたの?扱いだ。
眼球をこれでもか、というほど見開いた受付嬢は僕を弄る。
僕は不快になり、わざとゆっくりと用紙を書き直して、途中途中受付のカウンター一人一人をみまわし、その上司らしい男性にもアピールジェスチャーをした。
”おいおい、朝1番からこの扱いはないだろ、一体あの目ギョロの受付嬢は喧嘩売ってるのか?と。”
書き直した紙を受付のカウンター、手の届く範囲の1番遠目にイタズラに置いた。
目ギョロの彼女は僕の反抗心を察したのか、目ギョロの目をパチクリ小まめに動かした。
1番客に15分もの対応を経過して、ようやくお金が準備された。
全て新札の一万円。。
僕は確認の為ゆっくりと数える。
確認した後、わざと手持ちにあったNHKの振り込み用紙を見せた。
「あの、ついでにこの料金も振り込みたいのですが、」
目ギョロの彼女はキッパリと言う。
「NHKはこちらでは扱っておりません」
「でも、この用紙には金融機関で扱っております、と書かれているじゃないですか?」と僕が言うと、
「こちらでは扱っておりませんので!」
とだけ言って、当然のように跳ね返されたのである。ヒヒっ、面白いな。と少々、からかい楽しむ。
これはイジメと呼べるのだろうか?
いや、いじめられてるのは僕の方だろ。。
僕がその用紙をとって、カウンターを離れて、後腐れがないように何も言わずバッグにしまうと
目ギョロの彼女が誰かに呼び止められるのが目に見えた。
彼女は奥の部屋に連れていかれた。
そりゃそうだ。
朝イチから上司の説教だろう。
お客様の接客はその会社の花形、イメージである。
僕のお金は
あの銀行のお金ではない。
僕のお金である。
それなのに、引き出し用の用紙の書き方が悪いだけで、書けないならくるなよ。的な扱いはどうかと思う。
朝から人間の悪い面を見てしまい、嫌な気分になってしまった。
そそくさと銀行を出る。
次だ。
4月になり固定資産税の振り込み用紙が家に届いていた。
一年分を一気に払う余裕はない。
とりあえず今月分だけ払おうとしよう。
ついでにさっきの銀行でイタズラに使ったNHK料金も一緒に支払おうではないか。
コンビエンスストアに寄った。
入店して直ぐにレジカウンターへ。。
振り込み用紙を店員に渡す。
ここでも、。。。
いきなりため息で歓迎される。
中年の女性店員
むすーっ、としている。
他に客はいない。
僕が振り込み用紙を出すと同時に、大きなため息を吐く。
商品買えよ、と言いたいのか振り込み用紙の扱いに対して態度が悪すぎる。
こんな処理は労働の代償にならないと、言いたげだ。。
ビリビリと振り込み用紙のいらない部分を乱暴に、剥ぎ取る。
心では「いらない部分ぐらい自分で切り離してこいよ!」と、あからさまに言いたげな態度だった。
なんだよ、ここは、
ここでも不快な思いをされるのかよ。
今日のスタートは不穏である。
もしかして、自分自身に問題があるのかな、と
車の日除バイザーについた鏡で自分の表情を確かめる。
嫌な態度は伝染する。
一度あったことは二度ある。
この言葉、よく言ったもんだ。
いい格言である。
おろすものはおろし、
払うものは払った。。
もやもやとした気分の
気晴らしに、忘れていた1ヶ月前に買っておいた宝くじの当たりか、どうかを売り場で見てもらおうと、思いスーパー敷地内にある宝くじ売り場へ寄ってみた。
幸運の女神となるか、そこの売り場の叔母さんに張り切って宝くじを渡す。
「叔母さん。これ当たってるかみてちょうだい」
3枚の宝くじ。。
「悪いね。これまだ受付でないよ。うちの機械は明後日じゃないと読み取れないんだ。」
たった3枚の宝くじを突き返される。
とっくに抽選日は終わっている。
ひそかな逆転満塁ホームランの様な今日一日のどんでん返しを期待した、のに。。
ここでも、叔母さんに嫌な顔をされた。
機械が対応していないのに、
そんなの、持ってる来るなよ。と。。
それはそちらの事情で、僕にはわからないことなのに。。
肩を落として今日はあまり人と触れないようにしようと、まだ午前中のうちに決心してしまった。
今日はなんなんだ。
全く持ってうまくいかない、どころか、噛み合わない一日だ。
それもどこいっても馬鹿にされる日だ。。
イライラしたら腹が減った。
ラーメン屋に行ってつけ麺大盛りを食べて今日一日を、忘れようとした。
”思いっきり定休日、、”だった。
久しぶりの平日休み。
空振りもいいところ、
こんなにも気分が悪い一日は
次はしばらくないことを祈る。。
人を気分悪くするのも人。
人を人として見ない人もいる。
皆んな自分ばかりが大事で、世界は自分だけで回っていると思っているようだ。
その人にしたら回りの人は皆、どうでも良い飾りなのだ。
道端に落ちたゴミを拾わないように気にも留めずに不快にだけ思っている嫌な主人公達。。
人をイライラさせる装置を作ったらどうなるんだろう。
今日の僕ように人とは触れない対策を打ち出すはずだ。
そうなったら最後。
人は人ではなくなる。
人は字のごとく
支え合って生きていくのだから人である。
肩を叩いて励まし合い
肩を叩いて慰め合い
肩を叩いて喜び合う
それが人間だ。
僕は今日会った人達のようにはならない。
他人には不快な思いをさせない。
道端に落ちたゴミは率先して拾おう
そこから人らしい人になろう
そう思うと、ふと、
宝くじも当たる確率も上がる気がした。